第22話 ランクアップと弟子入り志願者
「二人とも、よくやってくれた……」
ソグラトの町に戻ると、冒険者ギルドのマスターであるセクレケンが俺達をねぎらった。
「恐れ入ります」
「まさかあの森に、ミノタウロスの群れが現れるとはな……しかも、ミノタウロスキングが率いていた。本来なら村が壊滅していてもおかしくなかったが、二人のおかげで事なきを得た。領民への被害が未然に防がれたと、領主のコメルズン伯爵もいたくお喜びだ。ソグラトには優秀な冒険者がいるのだな、と仰ったらしい」
「我々も一時はどうなるかと思いましたが、運よく討伐できました」
「二人には、伯爵から感謝状と賞金が贈られるとのことだ。さらに、ギルドとしても今回の功績を踏まえ、パーティー、それからメンバーのランクを一つずつ上げることに決めた」
ということは、パーティーと俺個人のランクがEに、ポレリーヌのランクがAになるというわけか。俺はセクレケンに頭を下げた。
「光栄です。ありがとうございます」
「うむ……ブイルよ。これからもよろしく頼むぞ。お前のような者がいれば、ほかの冒険者達にとっても刺激になる」
初めて会ったときと違い、セクレケンは俺を呼び捨てにするようになっていた。もう客ではなく、ギルドの一員、すなわち身内ということなのだろう。そう思うと、胸が熱くなる。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
セクレケンの部屋を出て1階に降りると、受付嬢に呼び止められる。
「あっ、ブイルさん。ちょっとよろしいですか?」
「ああ……」
カウンターに歩み寄ると、受付嬢はソグラトの地図を開いて見せた。
「この前お話のあったお部屋の件なんですが、一か所見つかりました。ここです」
そう言って、地図上の一点を指差す受付嬢。俺はうなずいた。
「そうか……ありがとう。どんなところだ?」
「あるおばあさんが経営している長屋なんですけど、空き部屋がいくつかあって、すぐに入れるそうです。新しい借り手の当てもないそうで、二部屋借りるなら家賃は一割引きでいいそうです」
「分かった……手間をかけたな」
部屋の世話をギルドに頼んでよかった、と俺は思った。
ここのところ俺は、宿で毎晩ポレリーヌの抱き枕にされている。彼女は何とも思っていないようだが、俺からすると刺激が強過ぎて落ち着いて寝られたものではない。
そこで住む部屋は別々にしたいと思うわけだが、俺から言い出すと無駄遣いだとポレリーヌが反対する可能性がある。しかし、ギルドに紹介された部屋ならそうそう文句を言ったりはしないだろう……という俺の浅はかな見通しは、数秒後に打ち砕かれることになる。
「よかったな。俺達の住む部屋が決まりそうだぞ」
ポレリーヌの方を振り返りながらそう言うと、彼女はしくしくと泣いていた。
「ど、どうした!?」
「ポレリーヌさん……?」
困惑する俺。受付嬢も困惑していた。
「ごめんなさい……身寄りのないおばあさんが、私達のために家賃を値切られちゃったかと思うと、かわいそうで、かわいそうで……」
「別にこちらから値切ったわけでは……それにそのおばあさん、息子さん夫婦と一緒にお住まいですよ」
「私達は一部屋で結構ですので、正規のお家賃をお支払いします。もう一部屋はほかの方に住んでもらってください」
「ええっ……? ブイルさんとポレリーヌさんが、同じ部屋に住むということですか……?」
「はい」
一切迷いなく肯定するポレリーヌ。俺は慌てて彼女をたしなめた。
「いやいや! ほかに借り手がないって、今言ってたじゃないか。俺達が一部屋しか借りなかったら、おばあさんの収入が減るぞ。そっちの方がかわいそうじゃないか?」
「はあ……世話が焼けますね。じゃあ、適当に誰か探してきて住まわせましょう」
ポレリーヌはため息をつくと、心底面倒くさそうに言った。
☆
ギルドを出て宿へ向かう。俺はポレリーヌに言った。
「あんなこと言ってたけど、部屋借りる奴に心当たりはあるのか……?」
「特にありません。探してみましょう。まあ、どうにかなりますよ」
「そ、そうか……そうだな。探してみるか」
「それにしても、あの受付嬢にも困ったものですよね。借りるのはブイルさんと私で一部屋に決まってるのに」
「お、おう……」
そんなことを言っていると、不意に後ろから声をかけられた。
「ブイルさん!」
「?」
振り向くと、俺を呼んだのは先日ギルドの登録試験を受けていた少年だった。俺が試験を受ける前に、剣術でゴールガングに打ちのめされていた彼だ。
「やあ、君は……」
「この間はお世話になりました。今、ギルドに行ったら、ブイルさんはちょうど帰ったところだって言われて」
「そうか……で、俺に何か用か?」
「はい……あ、申し遅れましたけど、僕、チウニサって言います。ブイルさんにお願いがあって来ました」
「お願い?」
聞き返すと、チウニサと名乗った少年はいきなり俺の前にひざまずいた。
「えっ? 何……?」
少年の突拍子もない動作に、俺は思わず一歩下がる。
「お願いします! 僕をブイルさんの弟子にしてください!」
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