第21話 ミノタウロスキングを倒し、村を救う

「まさか、こんなにたくさんのスライムが巣を作っていたとは……」


 依頼人の農夫は、壊滅したスライムの巣を見るなり、その死骸の多さに驚きあきれた。


「道理でうちの畑にもやってくるはずです。こんなスライムの大群は初めて見ました」

「実は我々も、これほど大きな群れは見たことがなかったんです」

「えっ、お二人もですか……」


 また驚く依頼人。そんな話をしているうちに、そろそろ帰ろうかとなった。


「いやあ、今回は本当に助かりました。いかがです? うちで昼飯おひるでも……」

「それはありがたい。ぜひ……んっ?」

「おや、どうしました?」

「お静かに。何か聞こえます」

「…………」


 依頼人が口を閉ざす。耳をすますと、やはり物音が聞こえた。森の奥からだ。ポレリーヌも気付いたようで、音の聞こえてくる方に視線を向けている。


「何か来る。隠れた方がいい」


 俺が音頭を取って、3人で繁みに隠れた。様子をうかがっていると、遠くで何かが動くのが見える。それがだんだん近づいてきて、複数のモンスターであることが分かった。人間のような体に、牛のような頭。あれは……


「ミノタウロスか……」

「ミ、ミノタウロス? 確か、とても危険で残酷なモンスターでは?」


 依頼人がおびえる。無理もない。この森にはそれほど危険なモンスターはいないという話だったが、どこからか現れたようだ。もしかするとスライム達は、あのミノタウロス達に追われてここまで逃げてきていたのかも知れない。


 俺は依頼人にうなずき、言った。


「どうやら村に向かっているようです。村の食料を狙っているのかも知れません」

「そ、そんな……村はもう終わりだ……」

「落ち着いてください。すぐに戻って、村の皆さんにこのことを伝えるんです。あのミノタウロス達は、我々が足止めしておきますので」

「大丈夫なのですか? たった二人だけで……」

「できるだけやってみます。ただ、止められずに村に入られてしまうかも知れません。避難はしっかりしていただくようにお願いします」

「わ、分かりました……どうかお気をつけて!」


 依頼人は小走りで村に戻っていく。残った俺とポレリーヌは、ミノタウロス達の観察を続けた。数は数十体。手には棍棒、ハンマー、斧といった武器を持っている。そして、普通のミノタウロスと比べて縦も横も2倍近くある個体が一体。ミノタウロスキングだ。


「ブイルさん……」

「言わずもがなだけど、スライムとは格が違うな。討伐の依頼は受けてないけど、このまま素通りさせたら逃げ遅れた人が殺されるかも知れない。何とかしないと」

「そうですね……どうやって止めますか?」

「まず、強化魔法バフと付与魔法を使う。君の弓矢を貸してくれ」

「はいっ」


 ポレリーヌから弓矢を受け取った俺は、付与魔法をほどこした。矢と弦は強度を高め、弓は剛性を高める。それからポレリーヌに強化魔法バフをかけた。これで彼女の強弓は、さらに威力を増すはずだ。


「ああ……これがブイルさんの強化魔法バフなんですね……」

「どんな感じだ?」

「すごく力が湧いてきます……ブイルさん、本当に強化魔法バフの適性ないんですか?」

「ああ。俺にあるのは“生存”だけだ……」


 それから俺は、スライム達の巣だった大木を指差す。


「俺はあの木に登って、あいつらをおびき寄せる。ポレリーヌは遠くで待機して、ミノタウロスキングが木に近づいたら矢を射かけてくれ。倒せなくても、気を引ければそれで十分だ。後は状況を見て、ミノタウロスを倒せるだけ倒してほしい。ミノタウロスキングは、俺が倒す」

「分かりました」


 ☆


 大木の上に登り、待つことしばし。ミノタウロス達が近づいてきたので、俺は攻撃魔法を放った。


氷弾グラキエス・バレット!」


 氷の弾丸がミノタウロスキングの顔面に命中する。大した効果はなく、ミノタウロスキングはこっちを向いてうなり声を上げた。


「ムオオオオオオォ!」


 それでいい。さあ、こっちに来い。


 ミノタウロスキングは巨大な斧を右手で振りかざし、俺のいる大木に迫った。そして木の根元に斧を振り下ろそうとする。俺のいる高さまで直接は届かないから、まず木を倒して俺を下ろそうというのだろう。


 だが、振り下ろすより早く、ミノタウロスキングの背中に矢が命中する。もちろんポレリーヌが放ったのだ。


「ムオオオオオォ!」


 背中に矢が刺さったにもかかわらず、ミノタウロスキングは少しも弱った様子を見せない。すさまじい頑丈さだ。そして俺に背を向け、ポレリーヌの方をうかがう。


 今だ!


 俺はミノタウロスキングの後頭部めがけて飛び降りた。両手で角をつかむと、両脚で後ろから首を挟んで絞め上げる。その状態で魔法を発動させた。


甲殻休眠スリーパーセル!」


 これで俺の体は、ミノタウロスキングの首を絞めたまま動かなくなった。完全に呼吸を止められたわけではないが、それでも息苦しさはかなりのものだろう。ミノタウロスキングは、両手を振り回してもがいた。


「ムオッ! ムオオオオッ!!」


 巨大な斧がでたらめに振り回され、味方のはずのミノタウロスを何体も吹き飛ばす。ミノタウロス達は大混乱となって右往左往した。


「ムオォ!」

「ムオオオッ!」

「ムオオオオォ!」


 そこへポレリーヌの矢が飛来する。ミノタウロスキングほど頑丈ではない普通のミノタウロスは、頭や体を射抜かれて次々に倒れ伏した。


「ムオオオオオォ!!」


 ミノタウロスキングは、背中から大木に体当たりを始めた。自分の体と大木で俺を挟み潰そうというのだろうが、甲殻休眠スリーパーセルを発動させている俺には通用しない。次第にその動きは弱々しくなり、地面に膝を突く。そして最後には横向きに倒れ込んだ。


「ムオォ……ムオオォ……」


 大将がやられたと理解したのだろう。生き残っていたわずかなミノタウロス達は、ほうほうの体で森の奥へと逃げていった。俺は甲殻休眠スリーパーセルを解除して剣を抜くと、動かなくなったミノタウロスキングの首筋を何度も突く。最初はなかなか刃が通らなかったが、最後には深く突き刺さり、止めとなったのだった。

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