生き残るだけの無能はいらないとパーティー追放されたので、認めてくれる新しい仲間達と成り上がります。俺がいないと生存率下がるらしいけど、そっちはそっちで元気にやってくれ
第38話 元Sランク冒険者と生き残るだけの男、一騎打ちへ
第38話 元Sランク冒険者と生き残るだけの男、一騎打ちへ
チウニサの魔法炎が収まると、周囲に立ち込めた煙も少しずつ晴れていった。
一気に炎で焼き払うのはむごいようだが、あの人数から一斉に攻撃魔法を仕掛けられたら、俺達は助からなかったかも知れない。なので、相手の攻撃が始まる前に、チウニサの魔法で一網打尽にするしかなかったのだ。
「ぐうっ……」
「うああぁ……」
「い、いてえ……」
しばらくすると、警備隊員達のものらしきうめき声が聞こえてくる。何人かが意識を取り戻したようだ。全員生きているかどうかまでは分からないが、少なくとも何人かは生存している。
仮に、チウニサの魔力で起こした炎を全部まともに喰らったとしたら、人体など影も形も残らなかっただろう。しかし、実際の炎は四方八方に飛び散っているので、その分威力は散らされている。一般人ならともかく、フガフガ家の警備隊員に採用されるレベルの冒険者が必死に防御していたのだから、致命傷をまぬがれる者がいてもおかしくはなかった。
「チウニサ」
「はい、師匠!」
「よくやった。すぐに外に出て……」
そのときである。収まりつつある煙の中から、メルフィウスが姿を現した。
「て、てめえら……」
あの火炎の嵐をかわし続けたのか、あるいは喰らったものの耐え切ったのか。どちらにしても、さすがは元Sランク冒険者、といったところか。
俺はメルフィウスに忠告した。
「もう、やめておけ」
「何だと……?」
「お前の手下達だが、少なくとも何人かは生きている。今から回復魔法をかければ、きっと助かるだろう。だが、このまま続けて俺を倒してしまったら、それも無理になるぞ」
「…………」
「さっきも言った通り、うちのメンバーとラウトバさんを外に出す。無事に門の外まで出て行くのを見届けたら、お前の手下を治療してやろう。どうだ?」
フガフガ家のことだ。俺に頼らなくても回復術師の当てぐらいはあるだろう。しかし、メルフィウスがそれを呼びに行けば、その間に俺達は逃げる。
なので、メルフィウスの取れる選択肢は、俺達との戦いを放棄して手下を助けるか、苦しんでいる手下達を見捨てて戦い続けるか、二つに一つなのだが……
メルフィウスが選んだのは、後者だった。
「……片田舎の冒険者風情が、なめるんじゃねえ」
「…………」
「こんな奴らを当てにした俺が馬鹿だった。もういい。俺一人でお前ら全員を倒す!」
「そうか……」
俺はうなずいた。これ以上続けたくはなかったが、向こうがあくまでやる気ならやむを得ない。
俺はまた、メルフィウスに話しかけた。
「確かに、お前の言う通りかも知れないな」
「何……?」
「お前の手下達は役立たずだった。うちのメンバーの方が、よっぽど優秀だ」
「てめえ……」
「王都の冒険者がどれほどのものかと思ったが、大したことはないみたいだな。もしかしてお前も、俺と同じハズレ適性なんじゃないのか?」
「何だと!? 俺の適性は“俊敏”と“剛力”だ! てめえごとき田舎の低ランク冒険者が一緒にするんじゃねえ!」
よし。相手の適性を聞き出せた。メルフィウスの手下がそれほど無能だったとは思わないが、適性を知るためにあえて挑発したのだ。
“俊敏”と“剛力”。となると、得意なのは接近戦だろう。いきなり攻撃魔法を出して来る可能性は低そうだ。ポレリーヌの方を向き、小声でそっと伝える。
「あいつの動きを止める。足を撃ってから外に出ろ」
ポレリーヌが小さくうなずいたので、俺は叫んだ。
「二人とも、行け!」
「行かせるか!」
素早い動きで回り込み、ポレリーヌ達の前に立ちふさがろうとするメルフィウス。そうだ。そう来るよな。
俺はポレリーヌの陰から飛び出すと、一直線にメルフィウスめがけて組み付いた。
「何の真似だ!? お前ごときが俺様と取っ組み合って勝てるとでも……」
左手でメルフィウスの右腕を抱え、両脚はメルフィウスの下半身を外側から挟み込む。その状態で俺は、魔法を発動させた。
「
「なっ!?」
俺の体が硬直し、メルフィウスを拘束する枷となる。全く身動きが取れないわけではないが、かなり動きが制限されるはずだ。
「うっ……」
さらに、メルフィウスのひるむ声が聞こえる。俺からは見えないが、ポレリーヌが弓に矢をつがえ、メルフィウスの足を狙っているのだ。
「千切れ飛べ!」
「ふん! そんな矢ごときでこの俺が……」
ガキャッ!
硬いものの砕ける音が響く。ポレリーヌの矢が、メルフィウスの足の鎧を破壊した音だ。
「なっ!? オリハルコンの甲冑が……くそっ!」
驚いた様子のメルフィウスは、次の瞬間、何かを取り出して地面に叩き付けた。
ボンッ!
途端に、もうもうとした煙が辺りに充満し、視界が効かなくなった。メルフィウスがポレリーヌの次の矢から逃れるために、煙幕を張ったのだ。
「伏せてっ!」
チウニサの声と、魔力を集中させる気配がする。風魔法を発動させ、煙幕を吹き飛ばそうというのだろう。だが、メルフィウスの逃げ足は速かった。俺に拘束されたまま、小刻みに、虫のように足を動かしてその場を走り去る。煙幕が晴れる前に建物の裏手に回ると、さらに移動し、林の中に入った。
そこでメルフィウスは地面に横たわり、体をよじって俺から抜け出す。同時に俺は
「やるじゃないか。あの状態から逃げ切るとはな。さすがは元Sランク冒険者だ」
「てめえ……気持ち悪い技使いやがって……」
「だが、ここまでだ。今頃はもう、うちのメンバーが屋敷を出ただろう。目を覚ましたラウトバさんと一緒に、おたくの当主に注進に行く。もう諦めろ」
「それがどうした!?」
メルフィウスは立ち上がると、俺に向かって身構えた。
「田舎の冒険者にここまでコケにされちゃあ、俺だけの問題じゃ済まねえんだよ! お前をこのまま帰せば、王都の冒険者全部がナメられる! 旦那様がどうしようが、もう関係ねえ! 俺も元は、王都で5本の指に入ると言われたSランク冒険者! 王都の冒険者を代表して、てめえだけは倒す!」
「……ふうっ」
俺はため息をつくと、屋敷の方をちらりと見る。すでに陽はかなり落ち、夜になろうとしていた。
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