第37話 警備隊員がまとめてなぎ倒される

 一瞬で仲間を二人倒され、警備隊員達は目に見えて動揺した。


「そ、そんな……」

「嘘だろ……たった2発で……」

「Eランクの雑魚パーティーじゃなかったのかよ……」


 今は昇格して、Cランクになってるんだけどな。まあ、そんなことを説明する意味もないので、もちろん黙っているが。


 そこへ、メルフィウスの怒号が飛ぶ。


「馬鹿野郎! 何ビビッてやがる!」

「メルフィウスさん……」

「今のは油断したあいつが悪い! 気を抜くな! 俺達は王都のエリート冒険者! こいつらは田舎の雑魚冒険者だ! まともにやりあえば負ける要素はねえ!」

「そ、そうか……行くぞ!」


 メルフィウスの言葉を受けて、新たに一人、警備隊員の男が剣を振りかざしてポレリーヌに斬りかかった。


「死ねや! このクソアマ!」

「遅い」


 ポレリーヌはラウトバをチウニサに預けると、間合いを詰めた。そして右手で男の手を掴み、剣を止める。


「へ……?」


 そしてそのまま、男の手首をグシャッと握りつぶす。


「うわああああぁ! 手が、手が……」

「やかましい」


 さらにポレリーヌは、左の拳を男の顔面にめり込ませた。男は「ぴげっ!」と妙な悲鳴を上げると、噴水のように鼻血を噴き出す。掴んだ手をポレリーヌが離すと、地面に崩れ落ち、そのまま立ち上がることはなかった。


「「「…………」」」


 静寂と、気まずい雰囲気がその場を包み込む。その機をとらえて、俺はメルフィウスに話しかけた。


「あのさ……もうやめといたらどうかな?」

「何だと……?」

「お客を勝手に追い返そうとしましたって、今から当主に謝って来いよ。俺も一緒に行って、許してもらえるように頼んでやるから」

「なっ、なめるなっ! たかだか三人倒した程度でのぼせ上がるんじゃねえ! おいっ、てめえら!」

「「「…………」」」


 メルフィウスは手下達に呼びかける。だが、今のポレリーヌの戦いぶりを見て呆気に取られているのか、誰も返事をしなかった。


「おいっ! 聞いてるのか!?」

「あっ……す、すみません……で、どうしました?」

「どうしましたじゃねえ! 戦いの最中にボーッとすんな! 認めるのはしゃくだが、どうやらあいつら、少しはできるらしい。全員で一斉にかかれ!」

「えぇ……」


 警備隊員達は腰が引けている様子だった。お互いに顔を見合わせて話し合う。


「ど、どうする……?」

「俺はちょっと……」

「仮に最後は勝てるとしても、最初にいった奴は絶対やられるよな……」

「この際、いさぎよく旦那様に叱られた方がマシなんじゃ……?」

「この腰抜け共が!」


 ふがいない手下達に業を煮やし、メルフィウスは怒鳴った。


「もういい! 近づくからてこずるんだ! 距離を取って攻撃魔法で仕留めろ! それなら間違いねえ!」

「そ、そうか……」

「それだったら……」


 警備隊員達は後ずさっていった。それを見たポレリーヌが、背負った弓に手をかける。


「待て」


 俺はポレリーヌを制した。彼女の矢をまともに受けたら、人間の体などこっぱみじんになってしまう。さすがにそれはシャレにならない。


 代わりに俺は、そっとチウニサに近づき、彼女に代わってラウトバの体を支えた。そして建物の方をちらりと見る。石でできてるから、火には強そうだ。


 一方、警備隊員達は半円状に布陣し、俺達を攻撃する構えを取りつつあった。ぐるりと全体を取り囲んで攻撃魔法を撃ったら仲間に当たるから、片側は空けているのだ。


「いいか! 三人とも倒れるまで攻撃を続けるんだ! 女の方は後でてめえらの好きにしていいぞ! もっとも、俺達の攻撃魔法を受けて生きてたらの話……」


 メルフィウスの言葉が終わる前に、俺は指示を飛ばした。


「チウニサ! 炎弾フランマ・バレットだ!」

「はいっ!」


 チウニサは俺達から少し離れると、集中して魔力を高めた。そして攻撃魔法を発動させる。


「はああああぁ! 炎弾フランマ・バレット!」


 すさまじい炎がチウニサの体から巻き起こった。彼女は魔法の制御が苦手だ。本来なら一方向に進んで敵を攻撃するその魔法は四方八方に飛び散り、曲がりくねった軌跡を描いて荒れ狂った。


環境不問クマムシ!」


 チウニサと同時に、俺も魔法を発動させた。そしてポレリーヌとラウトバを抱きかかえ、俺の体と密着させる。これで二人にも環境不問クマムシの効果が及び、炎から護られる。


 だが、俺から離れている警備隊員達にその恩恵はなかった。強烈な炎の弾丸が、容赦なく直撃していく。


「「「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああぁ!!」」」


 屋敷の庭に、警備隊員達の悲鳴が響き渡る。中には魔力障壁を展開して防ごうとする者もいたが、ほとんど効果がなく突破されている。彼らも鍛え上げた冒険者のはずだから、並みの火炎魔法なら十分対応できるのだろう。だが、膨大な魔力量で発動されるチウニサの火炎魔法は別格だ。よほど高ランクの魔道士でないと防げない。


「よし……もういい」

「はいっ、師匠」


 チウニサは魔力の集中を解き始める。彼女を中心に暴れ回る炎がようやく収まったとき、十数人の警備隊員達は焼け焦げた状態で、煙を噴き上げながら地面に倒れ伏していた。

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