第20話 ソグラトでの初依頼を達成(後編)

 ポレリーヌの矢が刺さったスライムは、仲間達から大きく遅れて森へ逃げていった。俺とポレリーヌは、そのスライムを追う。スライム本来のスピードを出せていないので、追跡は容易だった。


 森に入り、少し距離を取ってスライムを追い続ける。俺達に追われていることは分かっているはずだが、くだけの知能はないようだ。スライムは進路を変えたりせず、まっすぐに逃げていく。そこまで歩かないうちに、俺達は少し開けた場所に出た。


「あれか……」


 その開けた場所の中心に、大木が立っていた。大人が数人、手を広げてやっと周りを囲めるぐらいの太さだ。その根元にスライムは密集していた。はっきりした数は分からないが、数百匹いるようにも見える。これほどのスライムの大群は、俺も見たことがなかった。


 俺達はしばらくの間、離れた繁みに潜んで様子をうかがう。近くにほかのモンスターはいないようだ。


「どうしましょうか?」


 やがてポレリーヌが聞いてきたので、俺は少し考えて答える。


「そうだな……よし、俺が突っ込む。ポレリーヌは周りを移動しながら援護してくれ。逃げ出す奴を狙うんだ」

「分かりました」


 作戦が決まり、俺は剣を抜いた。ポレリーヌは弓を構える。二人とも準備が整ったところで、いよいよ突入だ。


「3、2、1、それっ!」


 俺は繁みから飛び出すと、大木の根元めがけて走った。突然現れた侵入者に気付いたスライム達は、巣を守ろうと集まってくる。


「ピギッ!」

「ピギイイッ!」


 一気に木の根元まで走り切った俺は、剣を振るって数匹を斬った。スライムぐらいのモンスターなら、適性に関係なくある程度剣を修練した者は、誰でも斬れる。


 無事なスライム達はひるむことなく、俺に向かって体当たりをかましてきた。


 ドスッ! ドカッ! ドンッ!


 四方八方から飛んでくるスライムを全ては避け切れず、何匹かが俺にぶつかる。しかし、そこまでの衝撃ではない。初心者向けモンスターの攻撃だけあって、甲殻休眠スリーパーセルを使わなくても十分耐えられた。構わず剣を振り、ぶつかってきたスライムを斬り伏せる。


「ピギッ! ピギッ!」

「ピギイイイーッ!」


 敵わないと悟ったのか、何匹かのスライムが大木を離れて逃げ出し始めた。そこへポレリーヌの矢が飛んでくる。さっきの手加減して放った矢と違い、今度はポレリーヌが全力で放つ矢だ。当たったスライムは、矢に貫かれるどころかその場で爆散した。


 ボン! ボンボンッ! ボンッ!


 スライムの破片は、俺の方まで飛んできた。すさまじい威力だ。一矢で数体のゴブリンを切り飛ばすぐらいだから、当たり前と言えば当たり前なのだが……


 ここに来て、スライム達の運命は決まった。俺を倒すことも、逃げ出すこともできない。中には一か八か、ポレリーヌの方に向かって行こうとするスライムもいたが、それは俺が前に立ちふさがって阻止した。


 ☆


 剣と弓矢でお互いに援護しながら戦うこと1時間近く、ようやくスライムは残り少なくなっていた。この頃になると木に登って逃げようとするスライムも出て来たので、俺が攻撃魔法を放って撃ち落とす。


氷弾グラキエス・バレット!」


 凍りながら地面に落ちたスライムに、剣を振り下ろしてとどめを刺す。こうこうしているうちに、ついに最後の一匹がポレリーヌの矢で粉砕された。


 ボンッ!


「…………」


 周囲を見回す。やはり、生きて動いているスライムはもういない。俺は剣を鞘に納めると、ポレリーヌの方を向き、「もういないぞ」と声をかけた。


 ポレリーヌは走り寄ってきて、俺と同じように周囲を見渡した。


「うわあ……ずいぶんやっつけましたね」

「ああ……」


 右を見ても、左を見てもスライムの死骸の山だ。しかもところどころ、原型を留めず木っ端みじんに吹き飛んでいる死骸がある。冒険者稼業が長い俺にとっても、正直、長いこと眺めていたい光景ではなかった。


「……お疲れ。とりあえず、ソグラトでの初仕事達成間近ってところかな。片づけをしてから、依頼人のところに戻ろう」

「はいっ! そうしましょう!」


 俺とポレリーヌは、手分けしてポレリーヌが放った矢を拾い集めた。折れたりしていなければ再利用できるからだ。


 矢を拾い終えた俺達は、スライムの死骸をいくつか籠に入れ、村へ向かった。例の畑まで戻ると、心配で様子を見に来ていたのか依頼人がいる。彼は俺達の姿を見て、声をかけてきた。


「あっ。どうでしたか、スライムは?」

「森の中に巣がありました。今、片付けてきたところです」


 俺は籠を開け、スライムの死骸を見せた。依頼人は感嘆の声を上げる。


「おおお……これでもう畑が荒らされることはないんですね。ありがとうございます……」


 深々と頭を下げる依頼人。俺は彼にたずねた。


「依頼達成証明書にサインをいただきたいんですが、我々が依頼を達成したことの確認はどのようにされますか? 壊滅したスライムの巣を見てもらってもいいですし、畑に何日かスライムが来なければ、それで達成ということにしてもらっても構いません」

「そうですね……せっかくですから、うちの畑を荒らしたにっくきスライムの巣の跡でも拝ませてもらいましょうか」


 ここの森にはそれほど危険なモンスターはいないと、ギルドで聞いていた。なので冒険者でない依頼人を連れて行っても大丈夫だろう。俺達は、もう一度あの大木のところまで行くことになった。

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