第46話 ソグラトへの帰り道(後編)
宿屋のベッドに並んで座り、俺はポレリーヌとチウニサに話し始めた。
「……ゴルトーニは何も言わなかったけど、メルフィウスには余罪があったよ。どうやら陰で人を脅したり、暴力を振るったりしてたみたいだ」
「やっぱりそうでしたか」
「あの男なら、やっててもおかしくないですね」
「それでさ……ゴルトーニが屋敷に帰ってきたとき、すぐにメルフィウスたちの方が悪いって決めつけただろ? 俺たちの潔白を認めてくれたのはいいんだけど、決断が早すぎるんだよな」
「早い?」
「ああ。ゴルトーニの立場で見たらさ、俺たちの方が暴れて、それをメルフィウスたちが取り押さえようとした可能性もあるわけだ。それなのにメルフィウスの弁明も聞かないでクビを言い渡した。せめてラウトバさんの回復を待って、事情を聞くぐらいしても良かったはずなのに、それすらしなかった」
「「…………」」
「だから思ったんだ。ゴルトーニは最初からメルフィウスをクビにするつもりだったんじゃないかって。そして、あいつが俺たちを襲うことも予想していた」
「まさか……」
「メルフィウスは、俺がフガフガ家の警備隊に幹部として迎えられるって話を聞かされていた。誰が何のために、そんな嘘を吹き込んだんだろうな……」
「じゃあ、あのゴルトーニって、メルフィウスと戦わせるために私たちを王都まで呼んだってことですか!?」
ポレリーヌが、やや怒気をはらんだ声で問いかけてくる。俺は彼女をなだめるように言った。
「言っておくけど、証拠は何もないぞ。ただそんな気がしたってだけだ。だから俺も、ゴルトーニの前でその話はしなかった。なんだかんだ言っても、向こうは王国指折りの大富豪だ。証拠もないのに問い詰めて、揉めるわけにはいかないからな」
「師匠の言う通りだとして、ゴルトーニはどうして僕たちとメルフィウスを戦わせたかったんでしょう……?」
「これも想像だけどな……ゴルトーニはメルフィウスに逆恨みされるのが怖かったのかも知れない。だから襲ってくる気力を少しでも削ごうと、クビにする前に痛めつけて、鼻っ柱を折っておくことを考えた。そんなことをしても無駄だと思うんだが……」
「「…………」」
「メルフィウスは王都でトップレベルの冒険者だった。彼を痛めつけられる奴はそういない。そんなとき、俺たちがアイアンゴーレムを討伐した話を聞いて白羽の矢を立てたんだろう。正式な依頼にしないで、客として招いたところで戦いになったって形にすれば、報酬を払わないで済む。そんなところか……」
メルフィウスにぶつけるため、ゴルトーニは俺たちを王都に呼んだ。それは元々、メルフィウスに無理な攻撃を仕掛けさせるため、俺がついた嘘だった。しかし今になってみると、当たらずとも遠からずだったのではないかと思えてくる。だんだん馬鹿馬鹿しくなり、俺はベッドに背中から倒れ込んだ。
「ブイルさん……」
「うん?」
「そこまで私たちを利用しておいて、よくあいつ、ギルドマスターに手紙を書く気になりましたね。不祥事の証拠になるのに」
「ああ……どうやら俺たちは、メルフィウスを排除するために利用されたらしいって思ったからな。ゴルトーニに二つ、間違った情報を与えてみたんだ。一つは、メルフィウスが怪我をしたのはただの事故で、戦いに負けたわけじゃない、つまり、鼻っ柱を折られたわけじゃないっていうもの。もう一つは、メルフィウスの怪我が軽くて、すぐにでも回復するだろうっていうもの……信憑性を増すために、二人には気まずそうな顔をしてもらった」
「そしたらゴルトーニの奴、急にビビり始めましたよね?」
「そうだ……何しろ、メルフィウスを罵ってクビにしたすぐ後だからな。今にも仕返しに襲ってくるんじゃないかって、気が気じゃなくなったんだろう。護衛を雇って身を護ろうにも、あの遅い時間にメルフィウスと戦える冒険者を連れてくるのは、フガフガ家をもってしても簡単じゃない。頼れるとしたら、たまたま招かれて屋敷にいる、田舎のSランク冒険者ぐらいだ」
「それでブイルさんは、私を紹介したんですね」
「ああ……メルフィウスが襲ってきたとき、戦えるのはポレリーヌしかいない。ゴルトーニはそう思ったはずだ。だから必死になって俺たちを引き留めた。不祥事の証拠になる手紙を俺たちに渡してでも、一夜の身の安全がほしかったんだろうな……」
目を閉じる。ポレリーヌとチウニサが、俺の隣に寝そべる気配がした。
「あいつ、師匠の計略にまんまと引っかかったんですね……師匠にどうやって負けたか、後でメルフィウスが話したらバレちゃいますけど、その頃にはもう、僕たちはソグラトに手紙を持ち帰ってますし……」
「そうだな……多分、バレることはないだろうけど」
「どうしてですか?」
「メルフィウスは、ものすごく虚栄心が強いんだ。王都のSランク冒険者である自分が、田舎のCランク冒険者である俺に負けた話なんて、死んでも人にしたくないと思う。事故で怪我したっていう俺の嘘に乗っかることはあっても、自分から本当のことを話すことは、まずしないんじゃないかな……」
誰かがメルフィウスを拷問してでも吐かせるなら、話は別だろうが……まあ、そのときはそのときだ。
「ブイルさんはそのお手紙、どうするんですか?」
「それは、俺の考えることじゃないな。俺たちはソグラトの冒険者ギルドを代表してフガフガ家に行って、そこで起きたことの証拠を押さえた。後は冒険者ギルドと、フガフガ家の問題だ。この手紙をどうするかは、ギルドマスターのセクレケンに任せようと思う」
「なるほど……それにしても師匠、僕たちとんだ茶番に付き合わされましたね」
「ああ……つまらないことにお前らを巻き込んじまった。俺一人で行くか、王都行き自体を断るべきだったと思うよ。悪かった」
「そんな……ブイルさんは悪くないですよ」
「師匠が謝らないでください。全部、あのメルフィウスとゴルトーニのせいなんですから」
ポレリーヌとチウニサが抱きついてくる。少し暑くなったので俺は
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