第45話 ソグラトへの帰り道(前編)
ゴルトーニは、俺たちの見ている前で手紙を書き上げた。早速中身を確認する。そこにはゴルトーニの留守中、俺たちが屋敷に到着し、メルフィウスたちから一方的に攻撃されたと記されていた。続けて、俺たちがメルフィウスたちを返り討ちにしたこと、ゴルトーニがメルフィウスたちをクビにしたことも書かれている。
そして、今回の件でフガフガ家と、ソグラトの冒険者ギルドの関係が悪化しないことを望む、と書かれていた。露骨に内密にしてくれとは、さすがに書いていない。その辺は俺に伝えてほしいということだろう。俺としては、実際に起きたことが文書に残れば十分だ。
「大変結構です。では、この内容でゴルトーニ様のサインを」
「……ギルドマスターのセクレケンは、フガフガ家は身内も同じと、確かに言ったのだな?」
「セクレケンは、フガフガ家の支援に大変感謝しておりました。悪いようにはしないかと」
「…………」
俺の答えを聞いたゴルトーニは、無言で手紙にサインをした。その手紙が封筒に収められ、封をされる。俺はそれを受け取った。
その後、俺とポレリーヌ、チウニサはそれぞれの部屋に通された。疲れてはいたが、この屋敷の中で油断はできない。俺の寝ている間に、ゴルトーニの意を受けた誰かが手紙を取り戻したり、すり替えたりする恐れがある。俺は手紙を持ったまま床に座り、一睡もせずに夜明けを待った。
☆
朝が訪れると、俺とポレリーヌ、チウニサは早々にそれぞれの部屋を出た。屋敷の出口に向かうと、数人の使用人が見送りに現れる。ゴルトーニの姿はなかった。
「わたくしどものこのたびの不始末、誠に申し訳ございませんでした。さぞかしご気分を害されたことでしょう。主人に成り代わり、お詫び申し上げます」
一人が俺たちに詫びると、残りの使用人たちと一緒に頭を下げる。こちらが申し訳ない気持ちになるほどの姿勢の低さだ。ゴルトーニと違って、フガフガ家がまずいことをやらかしたという意識があるのだろう。彼らを責めても仕方がない。俺は、
「俺たちなら大丈夫です。皆さんは気にしないでください」
と言ってなぐさめた。
屋敷の外に出る。来たときとは違い、俺たちをソグラトまで送る馬車の用意はなかった。用意する必要はないと、ゴルトーニが言ったに違いない。フガフガ家で馬車を出さない代わりに、使用人の一人が乗合馬車の発着場に案内してくれることになった。
「すみません。馬車に乗る前に寄りたいところが……」
「かしこまりました。どちらへ?」
俺たちを王都に連れてきたフガフガ家の使用人ラウトバは、メルフィウスに殴られて気絶した。そのラウトバが預けられた家が近くにある。俺はポレリーヌとチウニサからその家を聞き、馬車に乗る前にそこを訪れた。
早朝の訪問を詫び、家の中に通してもらう。ラウトバはまだ、その家のベッドに横たわっていた。近づくと、「ううっ……」といううめき声が聞こえる。頭の傷が、まだ痛むようだ。
俺はラウトバの頭に手をかざし、魔法を発動させた。
「
しばらくして治療が終わる。もう傷は大丈夫だろう。ラウトバは目を開き、俺に気づいた。
「これは、ブイル様……?」
「終わりましたよ。俺たちは無事です。メルフィウスたちはフガフガ家をクビになりました」
「さようでございますか……当家の者が起こした不始末、誠にお恥ずかしい限り……あのようなことになると分かっていたら、決してブイル様たちを屋敷に案内することはございませんでした……」
何も聞かされていなかっただろうラウトバは、後悔の声を漏らす。
「ラウトバさんが気にすることじゃありませんよ。俺たちはソグラトに帰ります。ラウトバさんは、お大事になさってください」
「ありがとうございます。どうかお気をつけて……」
メルフィウスに殴られたダメージだけでなく、俺たちを王都まで連れてきた疲れもあったのだろう。ラウトバは目を閉じ、穏やかな寝息を立て始めた。目が覚めたら、自力で屋敷まで帰れるはずだ。俺は彼の毛布を直し、その場を後にした。
☆
ほかの乗客たちと共に乗合馬車に乗り、ソグラトのある東を目指す。何気なく窓の外を見ると、王都の町並みが見えた。ジルデンやソグラトにはない、立派で装飾をこらした建物の数々。来たときはその絢爛豪華さに圧倒されたが、今は少しだけ安っぽく見えるような気がした。我ながら身勝手なものだが、気分次第で見え方はどうにでも変わるもののようだ。
夕方近くになって、途中の町で馬車は停まる。そこで宿屋に入り、俺たちはようやく落ち着くことができたのだった。
部屋のベッドに座って一息つくと、ポレリーヌとチウニサは俺の両隣に座り、体をくっつけてきた。今に始まったことではないので、もう黙って好きにさせておく。
「ブイルさん、お疲れ様でした」
「ああ……お前たちにも苦労かけたな……」
「僕たちなら大丈夫ですよ。それにしても、あのゴルトーニって奴、何なんですかね? 自分の雇ってる警備隊員がお客を攻撃したのに謝りもしないし。はるばる王都まで来てあげたのに食事も出さないで追い返すし」
チウニサがぼやく。俺は、「ああ、そのことだけどな……」と話し始めた。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
長くなりましたので、後編は夕方にアップいたします。
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