幻魚 第12章
日曜日の午前中。
明日は通常通り、『
その後いつも通り、瑞樹の家に魚を配達して泊る予定だ。
今朝の夢は、夢とはいえ、人生で最高のひと時を感じた気がした。
「きっと私は、あの夢で見た出来事のような瞬間を求め続けて生きてきたんだ。」
◇◇◇
日曜の夜。
大樹は久々に、自宅で一人の夜を迎えた。
『死ニタク・・・ナクナッタノカ?』
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「はい。瑞樹さんと、一緒に居られる限りは。」
『ソレナラバ、ワレワレガ、同棲デキルヨウニ、トリハカラオウ。』
「ええっ・・・。本当ですか?同棲できるならば、願ったり叶ったりです。ありがとうございます。」
『・・・オマエニハ・・・イキテ・・・イテ・・・モラワナイト。』
『オマエガ・・・シアワセニ・・・ナルヨウニ・・・。』
「あなたは誰ですか?」
その声の主も、独特な雰囲気も、消えた。
◇◇◇
月曜日。
いつものように、
大樹は瑞樹の家に、頼まれた『クール便』を届ける。
ピンポン!
ドスドスドスドス・・・。
廊下を歩いて玄関に向かってくる音がする。
ガチャッ。
「こんばんは。『ペンギン快特便』です。」
「こんばんは。昼間はどうも。待ってたよ。どうぞ。」
瑞樹について廊下を歩いていると、いきなり瑞樹が振り返った。
そして、大樹に言った。
「今夜も、泊ってくれるよね。」
「はい。もしも泊まれないのならば、明日の制服を持ち帰らなければ、と思っていました。瑞樹さんのご都合で、決めようとしていました。」
「だったら決まりだ。大樹は今夜も、うちに泊る!」
「今夜もまた、よろしくお願いします。」
瑞樹は、冷えた麦茶を注いだグラスを、大樹に手渡した。
「届けてもらった魚をこれからさばくから、テレビでも見て待ってて。」
「ありがとうございます。」
ジャーッ!
ザクッ・・・ザクッ・・・。
シャーッ・・・シャッシャッ・・・。
トントントントン・・・。
ギュイーン・・・。
カチッ・・・ボオッ・・・。
瑞樹が、魚料理を作る音が、台所に響いていた。
大樹はニュース番組を見ながら待っていた。
ふと、瑞樹のいる方を、見てみた。
すると、瑞樹の頭上に黒い影のようなモノが、複数、浮遊していた。
よく見ると、複数の黒い影は全て、魚を
複数の黒い魚の影は、頭を瑞樹の方向に向け、口を開けている魚、口を閉じている魚、タコのような形をしたモノなど、様々な魚の影が、瑞樹の頭上に浮遊していた。
(この状況を、瑞樹さんに伝えるべきだろうか・・・。)
「大樹、ちょっとこっちに来てくれ。」
「はい。」
「イワシのマリネと、タコとワカメの酢の物と、アジの開きをテーブルに持っていって。」
「はい。・・・とても美味しそうな香りがしますね。」
大樹はテーブルに、イワシのマリネと、タコとワカメの酢の物と、アジの開きが乗った皿を置いた。
「あとは、お新香と、豆腐とワカメの味噌汁とご飯と、ビール!」
「今夜も栄養満点ですね!私が運びます。」
たくさんの料理を作ってくれた瑞樹に感謝をしながら、大樹は配膳を手伝った。
「今日もお疲れさま!ビールで乾杯だ!」
瑞樹は、ニコニコしながら、ビール瓶を持って大樹のグラスに注ごうとした。
しかし、瑞樹が持っているビール瓶を大樹が横取りした。
「こんなにたくさんの料理を作っていただいてありがとうございます。瑞樹さん、ビール、お先にどうぞ。」
大樹が、瑞樹のグラスにビールを注いだ。
「あ、ありがとう。大樹はホント、人に気を遣うんだな。」
瑞樹は大樹の
瑞樹も大樹のグラスにビールを注いだ。
「お互い、明日も仕事だからな。大樹は明日も、うちから出社するんだよな。」
瑞樹は、ズボンのポケットをまさぐった。
そして、テーブルに、一つの鍵を置いた。
「この部屋の合鍵だよ。一つ、持ってて。」
「え・・・。」
「明日、遠くの漁場に船で行くから、俺は早朝には出掛けてるんだ。この鍵、かけてから出社してよ。大樹のキーホルダーに、一緒にしといて。」
「あ、はい!ありがとうございます。」
大樹は嬉しそうな表情をした。
「さ、飲もう飲もう!カンパーイ!」
瑞樹はグビグビのみ始めた。
「水曜日は、休みなんだっけ?」
「あ、はい。今週も、明日火曜日に出勤したら、次の出勤日は木曜日です。」
「じゃあさ、水曜日はうちにいなよ。それか、俺が仕事をしている間に、一旦家に帰って、一週間分ぐらいの着替えとか、必要な私物とか、持ってきちゃえば?」
「・・・というと・・・。」
「大樹、俺たち、半同棲してみないか?っていうか、もうすでに始めちゃってるか!あっはっはっは!・・・ああ、嫌だったら嫌だって、今、言ってくれよ。」
大樹は、潤んだ瞳を見開いて、赤くなって下を向いた。
(深夜に聞こえてくる声が言っていることは、本当のことだったのかな。)
「い、嫌なわけ・・・ないじゃないですか。嬉しくて・・・。」
喉を詰まらせたかと思うと、大樹の両目から大粒の涙が
「え?嘘だろ?泣くことはないだろ、大樹。嫌だったら断ればいいんだし。ああ、でも今、嬉しいって言ってくれたのか?じゃあ、嬉し涙なのか?」
微笑みながら、瑞樹が言った。
「飯食ったら、シャワー、浴びてこいよ。」
◇◇◇
その晩、大樹と瑞樹は抱き合って眠った。
瑞樹の腕枕は、とても心地よく、大樹が夢にまで見た、理想そのものだった。
◇◇◇
翌朝。火曜日。
「おはようございます!」
大樹の方から、柿生美佐男に挨拶をした。
「おはようございます!森實さん。本日もよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
今日も二人は、『旭漁港』に集配に行く。
大樹は、会社を出ると、いつも通り、瑞樹に頼まれた『クール便』を配達しに瑞樹の家に行った。
ピンポン!
ドスドスドスドス・・・。
廊下を歩いて玄関に向かってくる音がする。
ガチャッ。
「こんばんは。『ペンギン快特便』です。」
「こんばんは。大樹。待ってたよ。どうぞ。」
瑞樹は、『クール便』を持った大樹の上腕を玄関内に引き寄せると、玄関の鍵を即座に閉めた。
「大樹。」
そう言うと、瑞樹は大樹を抱き締めた。
疲れた体を、
いつものように、瑞樹が魚料理を作り、大樹が手伝えるところを手伝った。
そして、二人は、抱き合って眠った。
◇◇◇
翌日、水曜日は、大樹が休みだった。
着替えを少し持ってこようかと思い、瑞樹にもらった合鍵をかけて瑞樹の部屋を出て、車のエンジンをかけた。
自宅から着替えを少し持ってきた大樹は、瑞樹の部屋の掃除をした。
床に掃除機をかけ、水廻りなども掃除した。
食事中には相変わらず、瑞樹の背後に魚を
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