犠牲者の呪術 第5章

 ある日の放課後。


 「あれ?」


 魁斗かいとの下駄箱に、一通の手紙が入っていた。


 (なんだこれ・・・まさか、ラブレター?)



 魁斗は手紙を急いで鞄にしまって、校舎を出た。


 学校近くの、高齢者の多い公園のベンチに座り、周囲に誰も居ないことを確認して、鞄を開けて、手紙を取り出した。



 『カイトくんへ』


 (女の子の字だ・・・。)


 『体育のバスケットの時のカイトくんが、とても素敵でした。もしよかったら、今度二人でお話しませんか?藤田美咲ふじたみさき



 魁斗には、キレイ系の梶山美津子かじやまみつこと付き合いたいという願望がある。

 

 藤田美咲は、小柄で可愛らしい女子高生なのだが、正直あまり興味がない。


 梶山美津子は、重徳しげのりに惚れているらしい。


 だから、重徳から美津子を奪い取りたいのだ。



 しかし、それとは別に、女子にモテたい、という願望が実現しつつある。


 試しに藤田美咲と付き合ってみて、彼女が居ない重徳の前を、二人でこれ見よがしに歩くなどして、彼女が居る幸福感を見せつけるのも悪くない。



 藤田美咲には興味はないが、いい子だと聞いている。


 「明日から、藤田さんのことを、少し観察してみようかな。」



 一方で、梶山美津子は、魁斗の視線を感じていないわけではなかった。


 美津子は重徳にしか興味がないので、魁斗の視線は正直うっとおしかった。


◇◇◇


 「更衣室で聞いちゃったんだけど、美咲、カイトに告白するんだって?」


 休み時間、梶山美津子かじやまみつこ藤田美咲ふじたみさきに耳元で聞いてきた。


 「ええー⁉・・・そ、そんな、まだ決めてないよ・・・。」


 美津子が美咲の腕をつかんで、誰も居ない廊下の突き当りに美咲を連れて行った。


 「カイトには今のところ、彼女は居ない。間違いないと思うわ。カイトは最近、女子から人気が出てきてるから、早く気持ちを伝えた方がいいんじゃないかな。・・・あれ、美咲、少し、痩せた?」


 ポッチャリしているわけではないのだが、魁斗を意識し始めてから、美咲はダイエットを頑張っていた。


 「う、うん。ダイエットしてるんだ。」


 「カイトと、付き合いたいからなんでしょ?」


 美咲は、顔が真っ赤になってしまった。


 「ふふふ。美咲は可愛いわね。私、美咲を応援してるのよ!何としても美咲とカイトをくっつけなくっちゃ!」


 美津子は、張り切っていた。


 「あ、そうだ。夏休み前に、クラスで企画して、『肝試し』やりたいと思わない?『肝試し』にうってつけの場所があるのよ。私がクラス委員長に、そういうイベント開いていいかどうか、直接聞いてみるから。クラス委員長も、私が言えば、多分二つ返事で承諾してくれるとは思うけど。もし企画が通ったら、美咲とカイトがペアになれるように、うまく細工するようにも頼んでおくわ!」



 キーンコーンカーンコーン・・・



 「授業が始まるわ。じゃ、そういうことで!『肝試し』でチャンス、掴みなよ!」



 (美人で勝ち気な美津子ちゃんが、『肝試し』企画の提案をして、しかも自分とカイトをくっつけようとしてくれてる。)



 美津子と美咲は、クラス内ではさほどつるんでいないのだが、今回の件に関してはタッグを組んだ。


 むしろ美津子の方が、真剣なのかもしれない。



 美咲は、魁斗と付き合いたいことを周囲の女子に正直に話したことで、交友関係が広がり、今後の高校生活が、今までよりも窮屈きゅうくつでなくなるような予感がしていた。


 魁斗かいとの『引き寄せ力』は、梶山美津子の心には及ばなかったようだ。


◇◇◇


 「これからホームルームを始めます。クラスで話し合いたい議題を持っている人、挙手願います。」



 「はい!」


 魁斗かいとが反応し、声のする方を見た。


 「はい、梶山かじやまさん。」


 「はい。今日は、あらゆる学年やクラスで、この時期恒例となっている『肝試し』を開催することを提案します。」



 カッカーッ、カカッ・・・

 書記が黒板に『肝試し』と書いている。



 「それでは、早速多数決を取ります。この時期恒例となっている、『肝試し』の開催に賛成の方、挙手願います。・・・三分の二以上の賛成多数で可決しました。」


 「はえ~な、ちゃんと数えたのかよ。」


 「賛成多数で可決しました。それでは、どのような構成にするか、話し合いたいと思います。」


 「はーい。」


 「はい、亀山かめやま君。」




 「『肝試し』は、やっぱり、男女のペアでやりたいで~す!」




 「はいっ。」


 「はい、佐山さやまさん。」




 「全員、コースを歩かなくてもいいと思います。怖いメイクをして潜んで、驚かせたい人たちも必要だと思います。」


 「無理矢理ペアを決められて、怖がりたくないのにコースを歩かなければならない、なんておかしいと思います。コースを歩きたくない人は、何らかの係としての役割を果たす形で参加する方がいい、と俺も思います。お化けメイクして隠れるか、受付とかコース案内か、ペアになって歩くか、全員がやりたい役割をやった方がいいと思います。」




 「やりたくねーことなんか、やらねーよ!」


 「俺も俺も。」




 「それでは、『肝試し』の役割について決めていきたいと思います。」




 ホームルームでの話し合いの結果、『夏休みだョ!全員参加で肝試し、ダァ~!』と名付けられたクラスの企画は、肝試しをするペアと、お化けにふんする係と、受付と案内と撮影係に分かれて実施されることになった。


 「お化けに扮する係と撮影係は男女同数で、受付係と案内係が全員女子になった関係で、男子同士のペアが二組できますが、あとは男女のペアになります。ペアは当日のくじ引きで決まります。それでは、ホームルームを終わります。」

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