犠牲者の呪術 第4章
「今日は、『まとめのテスト』をします。」
数学教師が教室に入るなり、予告していないテストを開始すると言った。
教室内は、けたたましいブーイングで騒然となった。
「えええー⁉」
「こないだ、期末が返ってきたばっかりじゃんかー!
「先生!抜き打ちテストなんて、ひどいよ!あんまりだよ~!」
「今日は厄日だ!大殺界だ!」
「神様!仏様!僕をお助け下さいっ!」
「ジーザスクライスト!アーメンッ!」
「うわあぁ、もう終わりだぁ。」
相変わらず、
「『定期テスト』とは別に、一学期の『まとめのテスト』をします。大学受験を目前に、しっかりと受験勉強に打ち込んでいるならば、簡単なテストだと実感できるはずです。範囲は一年生から今までの授業で習ったところ、基礎的な問題が中心で、難易度は易しく作ってあります。それでは配ります。合図があるまで、裏返しのままにしていてください。」
このテストで、
(俺は今度こそ、シゲノリを抜くことが出来る!そして、クラスで一位になるんだ!)
「はじめッ!」
『まとめのテスト』が始まった。
魁斗が試験問題にザッと目通しをした。
配点が高そうで、簡単そうな問題から取り掛かる作戦だ。
(これ、智樹とやったやつだ・・・。俺は解るけど、智樹に教えたことで、解法がより一層明確になってる!手が勝手に動いて、解答を書いていくようだ。智樹、サンキュー!)
◇◇◇
体育の時間。
生徒たちは体育館の外側のコートを十周して、準備運動を終えて、体育教師の前に整列した。
「今日の授業では、バスケットボールをします。前半は数種類のパスの練習とマンツーマンでのドリブルとカットの練習、そしてドリブルシュートの練習をします。後半は男子女子、それぞれ二チームに分かれて、男子同士、女子同士の試合を行います。それでは、男子同士、女子同士でペアを作ってください。余った人は先生に声を掛けてください。」
三年三組はそれぞれ、ペアを作って、チェストパス、アンダーパス、バウンドパスなどの練習を始めた。
(バスケットのイメージトレーニングもしたんだ。シゲノリより多く、俺がシュートを決めてやる!)
男子と女子に分かれて、同性同士で戦うので、女子はコートサイドで男子のプレーを見ることになる。
得意なバスケットで活躍する姿を女子にじっくりと見られることは、モテるきっかけづくりとなるだろう。
魁斗にとっては、またとないチャンスだ。
ドリブルシュートの練習に移った。
外側のコート内をドリブルして、向こう側のゴールに、右側からのドリブルシュートを決める練習だ。
(女子が注目して見るはずだ。シゲノリよりも、シュートを決めてやる!)
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ・・・
ドリブルをする魁斗の瞳が燃えている。
「なんか、今日のカイト、妙にカッコよくない?」
女子たちが、噂している。
「そうかな?いつもと一緒じゃない?・・・ん?あれ?・・・確かになんか、カッコいいかもね・・・。」
「カイト、なんかいつもと違う。」
「あたしも!あたしも、そう思う!」
女子たちが、騒がしくなってきた。
ダンダンッ!|
右足、左足の順に、体育館の床を力強くリズムよく踏みこみ、ジャンプした。
サクッ‼
シュートが決まった。
爽やかなゴールの網の音が体育館内に響く。
バスケットゴールにすっぽりと包まれたボールが、網の形を歪ませた。
ダーン・・・
すり抜けて床に叩きつけられたボールを、魁斗はワンバウンドでキャッチして、ドリブルシュート練習の列の最後尾についた。
「・・・カッコいい・・・。」
「カイトって、あんなにカッコいい男子だったっけ?」
「なんか、教室で授業受けている時にも思ったんだけど、最近のカイト、気合いが入ってるっていうか、なんか、今までのカイトとは、少し違う感じがする。」
ピピーッ‼
「集合ッ!」
体育教師が集合をかけた。
「これから男子の試合を行います。男子の出席番号で前半組と後半組に分かれてください。」
「うわあ!断然前半組の方が有利ね。シゲノリがいるんだもん。」
「後半組は、最近イメージが変わったカイトぐらいしかホープはいないわね。」
「前半組が勝ちそうね。」
ピピーッ!
「それでは、出席番号前半組と後半組、メンバーの中から出場する五名を決めて、コートの中央に集合してください。待機の生徒はチェンジの時に、誰と交代するか、あらかじめ決めておいてください。」
体育教師は、試合で使うバスケットボールを選びに行った。
前半組のホープ、シゲノリと、後半組のホープ、カイトが向き合っていた。
カイトはシゲノリを、真っ直ぐに、力強く見つめた。
威嚇とは違うが、見つめた後、ニヤッと笑ってみた。
(なんだ?皆川くん、ずいぶんと挑発的な目線を投げかけてくるんだな。)
(シゲノリよりも、多く得点して、女子にモテる男子になるんだっ!)
ピピーッ‼
選んだバスケットボールを抱えて、ストップウォッチを女子の体育係に渡すと、体育教師がコート中央に戻ってきた。
「先生が審判をします。時間は体育係がストップウォッチで計ります。得点板も女子にお願いします。最初の五名のメンバーは決まりましたね。それでは、三年三組男子、出席番号前半組と後半組の試合を始めます。気を付けーっ!礼っ!」
「よろしくお願いしまーす。」
「よろしくお願いしまーす。」
体育教師がバスケットボールを高らかにあげた。
バシッ‼
ボールがはたかれて、前半組が有利になった。
はたかれたボールを受け取った前半組が、ゴールに向かう。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ・・・
ドリブルした後、ゴールに近い前半組の男子にパスをした。
・・・と思いきや、ボールの動きを先読みした魁斗が、パスを受けようと構えている男子の前に横から飛び出し、パスカットに成功した。
「後半組ー!頑張れー!」
魁斗のファンになってしまった藤田美咲が、魁斗を応援した。
バスッ、バスッ、バスッ・・・
魁斗が、後半組のゴールの方向へドリブルをしている。
「カイトー!頑張れー!」
「カイトー!」
「カイト!こっちだ!」
ゴール付近で待っていた山本が、魁斗に合図を出した。
しかし、魁斗は無視して、ゴールの方向へドリブルを続けた。
ドリブルをカットする前半組が現れ、魁斗の前に両手を挙げて立ち塞がった。
ダンダンッ!
魁斗は足止めを喰らった。
すでに、ボールを持って二歩進んでしまった。
これ以上足を動かすと、トラベリングになる。
「カイト、こっちだ!」
ゴール付近にいる山本が右手を挙げて合図を出すが、山本はシュート率が低い。
(ここから、打つしかない・・・。)
両手を広げて邪魔をする前半組の両腕をすり抜けるタイミングが、見えた。
上体をゴールに向け、魁斗は膝を屈伸させて高くジャンプして、シュートを打った。
ザクッ!
(・・・決まった!)
ワァー!
キャー!
女子の声援が飛んだ。
顔を赤らめる、藤田美咲。
藤田美咲は、魁斗に彼女が居ないうちに告白した方がいい、とこの時、直感した。
後半組が二点リードした。
ボールを受け取った前半組が、重徳にパスをした。
重徳がドリブルする。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ・・・
すかさず、魁斗がドリブル阻止のために、重徳に張り付き、マンツーマンでマークする。
スパンッ!
魁斗が、重徳のドリブルをカットした。
「ナイスカット!」
「カイトー!」
藤田美咲が、顔を赤らめて黄色い声援を送っている。
近くに居た渡辺がカットしたボールを拾う。
魁斗が全速力で、ゴール付近に走る。
魁斗がボールをキャッチする意思を示して、渡辺を見ながら右手を挙げた。
「カイト!」
渡辺が、魁斗にロングパスをした。
ポスッ!
渡辺のパスを受け取った魁斗が、安定したドリブルを始める。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ・・・
(前方には誰も居ない。チャンスだ!)
ダンダンッ!
バンッ!ザクッ‼
魁斗がまた得点した。
「キャー!」
結局、男子の試合は三十二対二十八で、出席番号後半組が勝利した。
◇◇◇
今回の体育の授業で、魁斗の株は大幅に上昇した。
男子たちもかなり魁斗を見直したのだが、クラスの女子たちも、更衣室では体育の授業の話題、特に魁斗の話題で盛り上がった。
「男子の試合、すごかったわね。」
ロッカーを開けながら、梶山美津子が言った。
「まさか、後半組が勝つとは思わなかったわ。」
脇の下にシトラス系のデオドラントスプレーをしながら、女子高生が言った。
「前半組は、シゲノリがいるから大丈夫だって安心しきってたみたいで、チームとしてまとまってなかったわね。」
汗で湿った体操着を脱ぎながら、女子高生が言った。
「シゲノリ一人で、試合しているわけじゃないからね。」
ジャージのズボンを脱ぎながら、女子高生が言った。
「シゲノリが五人で出来たチームだったら、間違いなく前半組が勝っただろうけどね。」
湿った体操着をたたんで、笑いながら女子高生が言った。
「だけどさ、今日の体育、あのシゲノリが
梶山美津子が、フリーズした。
「何と言っても、一番目立ってたのって、カイトじゃない?」
制服のブラウスのボタンを留めながら、女子高生が言った。
「ドリブルシュート、結構カッコいいじゃんって思っちゃった。」
下着姿で、女子高生が言った。
「ねえねえ、カイトって、彼女いるのかな?」
髪を
「えーっ⁉美咲!カイトにロックオンしちゃったとか?」
スカートを
「・・・しちゃったかも。」
私物をポーチにしまいながら、藤田美咲が言った。
「美咲、カイトの事、めっちゃ応援してたもんね。」
「前から、好きだったの?」
「好きだったかどうかは、よくわかんないんだけど、前から少し気になってたんだ。最近、イメージ変わって、カッコ良くなったなあって思ってた。さっきの体育の時、ホントにカッコいいって思っちゃって。彼女いないなら・・・立候補しちゃおうかな、なんて軽く妄想しちゃってたんだ。テヘペロ!」
「カイトには彼女、居ないんじゃないかなあ、聞いたことないし。」
リップクリームを塗りながら、女子高生が言った。
「美咲、夏休み前に告白してみなよ!でもその前に、私も男子から情報収集してみるね!」
「ありがとう!・・・どうしよう、ドキドキしてきたぁ。」
顔を赤くしながら、藤田美咲が言った。
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