捕食 第10章

 「ああ、怖かったよう・・・。」

 泥を払いながら、裕太ゆうたが言った。


 「危なかったな。それにしても、あの爽やかな小道も、おどろおどろしくなっちまったな。」


 「植物まで”ミュータント”になってきたか。」


 「散布された”毒”に対する耐性を持って、さらにパワーアップしたんだろうな。」


 「あんなデカいハエトリソウ、見たことないよ。」


 「しかも、茎がどんどん伸びてきて。あの口で喰われるかと思ったよ!」


 「巨大ハエトリソウのトゲなんて、硬そうで鋭そうで、トラかライオンの牙みたいだったよ!」


 「あんな植物が、街中にうようよいたら、怖くて歩けないな。」


 「さっき、兄ちゃんに巻き付いた蔓の映像と、巨大なハエトリソウの映像は、ギリギリのところまで撮れたよ。スマホで動画編集しておくから、トークとコメントよろしく!」


◇◇◇


 れん、ミサオ、ゆーたの三人は、手洗濯をしたり、シャワーを浴びたりしながら、疲れを取るためにボーっとテレビニュースを見ていた。


 日本は、インフルエンザのパンデミックが収まらず、車が暴走するなどの事故が多発、電化製品を使用すると『怪奇現象』が生じる、原因不明の病にかかってから一~二週間で命を落とす人々が増加している、というニュースと、世界各地のインフルエンザパンデミックのニュース、肉食動物が集団を作って協力体制を組んで民家に突入して人々を捕食ほしょくする事件が相次いでいる、というニュースとでもちきりとなっていた。



 「兄ちゃん、ブレーカー上がってない?」


 「え?なんで?テレビは点いてるから、電源は落ちてないよ。」


 「ドライヤーのスイッチ入れてんだけど、反応が無くて。」


 「ドライヤーが壊れたんじゃないか?」


◇◇◇


 「じゃあ、今日の活動はここまでってことで。スマホは今のところ大丈夫そうだから、また連絡する。」


 「おう、またよろしく!何がどうなってんのかわからない世の中になってきたから、漣も安全に注意してな。」


 「ミサオも、ゆーたも、安全に過ごせよ!じゃな!」


 ミサオとゆーたは漣を見送った。




 「さて、僕はこれからバイトだから。」


 美佐男みさおがシェーバーでひげを剃ろうとした。



 カチッ。・・・カチッ。



 「あれ、電池が無くなったかな。」



 電池を新しいものに変えても、シェーバーは作動しなかった。


 「壊れたのかな。」


◇◇◇


 『次のニュースです。信じがたいことが起きました。こちらの映像をどうぞ。』



 「ん?なんだなんだ?」


 「行ってきまーす。」


 「兄ちゃん、いってらっしゃい。」



 『インターネットプロバイダーの会社のビルに、百匹を超えるサルが乱入しました。サルは次々と会社員を負傷させ、社長を殺害、社長椅子にはボスザルとみられるサルがふんぞり返っています。この映像は、近くのビルから望遠レンズで撮影、乗っ取られた社内への立ち入りは禁じられています。』


 「うわー。プロバイダーが、サルに乗っ取られたんだ。」



 「ただいま。」


 「あれ、兄ちゃん、お帰り。会社は?」


 「・・・当分休業だって。うちの会社の車も事故を起こしたって。自粛命令が出てるからだってさ。メールが来た。」


 「兄ちゃん、プロバイダーの会社を、サルが乗っ取ったんだって!」


 「え?マジか。」



 『ここでショッキングな映像が入ってきました。乗っ取られたプロバイダーの社員が、後ろ手に縛られて社長室に連れてこられています。・・・次々と・・・後ろ手にされた社員が・・・社長室に集められています。・・・ボスザルは・・・社員を品定めするような目で見た後、引っ掻く、などして怪我を負わせています。』



 「うわー。これ、流しちゃうのか・・・。凄惨せいさんだな。」


 

 『ボスザルが、若い女性のブラウスをやぶきました!ボスザルが、若い女性のブラウスを破きました!』


 『一旦コマーシャルです。』


◇◇◇


 「世の中、どうなっているんだ?」


 「なんでサルが、こんなにたくさん集まって都会にいるんだろう?」


 「養牛場の火だるま事件も、サルが灯油をかけて火を点けてたよな。どこのサルだっけ?」


 「『おさるパーク』から逃げ出したサル、って書いてあったよ。」


 「『おさるパーク』か。観光客がサルにエサをやったり、遊んだりするところだよな。」


 「サーカスのような『猿エンタ軍団』でも有名だよ。」


 「入場料払って観るアトラクションだろ?そうか。もしかしたら・・・。」


 「兄ちゃん、何かわかったの?」


 「わかったってわけじゃないけど。僕なりに、何が起こっているのか、想像できたよ。」



 『全国各地で起きている不可思議な事件、この番組は生放送です。皆様からは、FAXとメール、番組ホームページやソーシャルメディアで、身の回りに起きた不可思議な事件の情報をお待ちしています。』


 「この番組、ビデオに撮っておこうか。」


 「そうだね。」




 カチッ・・・カチッ、カチッ・・・。




 「あれ?また電源が点かないや。」


 「コンセントはちゃんとささってるけど。・・・ビデオも壊れちゃったか。仕方ない。後でアーカイブを観よう。」



 『FAXで頂きました情報です。サルがファミリーレストランを占拠、客や従業員を後ろ手に縛って負傷させた、との情報です。』


 「ファミレスにまでサルが・・・。」


 「僕たちの暮らしはどうなるの?」



 『サルが人々を後ろ手に縛る、という方法で拘束しているようですね。続いて、こちらはメールで頂きました情報になります。サルがデパートを占拠、ショーウインドーに、後ろ手に拘束された全裸の若い男女が並んでいるとのことです。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る