捕食 第11章

 サルが占拠したデパートやビルの近くを、カラスの大群が見張っていた。

 カラスの大群は、人間がサルやカラスを殺害しようものなら、容赦なく人間に襲い掛かる、というおきてを確認した。


 警察官が銃で威嚇するも、サルは素早くかわしてしまう。


 逆に警察官が、つるで後ろ手に縛りあげられてしまった。


 拘束された警察官は、拳銃を取り上げられて釈放された。


 警察署周辺も、カラスの大群が見張ることになった。



 サルは、拳銃を使いこなせるようになった。


 サルは、街の至る所に潜んで、無差別に面白半分に人々を殺傷した。


 そして、デパートからくすねてきた調理器具を使って人間を切断したり、皮膚をいだりして筋肉部分を皿などに盛って販売を始めた。


 人肉の販売、といっても、経済活動が目的ではない。



 サルの目的は、人間にいいように奴隷扱いされてきたことへの復讐だ。



 人間を殺して、調理して食べる。


 それが復讐なのだ。


◇◇◇


 サルの集団は、次々と美味しそうな人間たちを拘束した。


 デパートやスーパーマーケットを次々と占拠したサルの集団は、つかまえた人間たちを、しばらくは全裸のままでショーウィンドウで見せしめにした。



 飢え死に寸前の身体は、骨と皮だけになってしまう。


 肉が落ち切る前に、生きた人間を使って『人間解体ショー』を行い、食べにやって来たサルたちを湧かせた。


 『人間解体ショー』の後は、一般の調理器具と調味料を使って、人肉料理を作ることに成功した。



 人肉の刺身。


 人肉のたたき。


 人肉のグラッセ。


 人肉のマリネ。


 人肉のピカタ。


 人肉サンドイッチ。


 人肉おにぎり。


 人肉ステーキ。


 人肉丼。



 飼い主を亡くしたペットたちは、しばらくエサにありつけず、お腹を空かせていた。

 『人間解体ショー』を開催しているデパートの噂を聞きつけ、面白そうだとさんじた。


◇◇◇


 『人間スーパーマーケット』は、チェーン店と化した。


 取締役や重役は当初、サルとカラスだけだったが、そこに一部の飼い犬、飼いネコ、ウサギ、ハムスターなどが名を連ねた。


 代表取締役は、『おさるパーク』のボスザルである。


 日本各地の支店への連絡は、全てカラスが行っていた。



 これは、日本に留まらなかった。


 世界各地で、サルやマンドリル、ヒヒ、チンパンジーなどが、人間にとって代わって食肉店を経営、人肉を売りさばいていた。


◇◇◇


 人間以外の地球上の生き物は、言語を持たない。


 その代わり、周波数で対話をしている。


 なので、種類の違う生物とも、すぐにコミュニケーションが可能なのだ。


◇◇◇


 『おさるパーク』のボスザルは、ついにテレビ局も占拠した。


◇◇◇


 動物たちの間で人気のある番組『恨みチャンネル』の時間がやってきた。


 飼い犬や飼い猫などは、飼われていた無人の家の中でテレビを点けて見ていた。



 「それでは皆様お待ちかね!『恨みチャンネル』の時間がやってまいりました!本日のプレゼンテーターは、ミツバチさん、カラスさん、ニワトリさん、ブタさん、イノシシさん、ウシさん、ウマさん、ヒツジさん、そして、殺処分されかかったイヌさんとネコさんです!」


 ワ―ワーワー‼


 「コメンテーターをご紹介します。ハムスターさん、ネコさん、イヌさん、ウサギさんです。なお、ゴキブリさんもご出演の予定でしたが、野外コンサートのスケジュールと重なってしまったため、本日は欠席となってしまいました。司会は私、チンパンジーが務めさせていただきます!どうぞ、最後までお楽しみください!」


 ワーワーワー‼


 飼い犬、飼い猫たちは、テレビにかぶりついて見ている。



 「それではまず『表彰式』を行います。カラス殿!」


 「はいっ!」


 カラス代表が前に進み出た。



 「カラス殿。あなたは養鶏場でニワトリさんたちが焼き殺されそうになったところを未然に防ぎ、人間を焼き殺して食べましたので、ここに表します。」


 「有難き幸せに存じます。あの時は、作戦通り、うまくいくかなあ、とドキドキしながら、しかし、絶対にニワトリさんたちを殺させるわけにはいかない!という思い一つで、チームワークで、焼き殺しに来た人間を丸焼きにすることができました。ウウウ・・・。」


 「カラスさん、感極まって泣いてらっしゃいます。あなたは英雄です!おめでとうございます!」


 カラスは啼きながら、焼いた人肉のカタマリをもらった。



 「続いて、スズメバチ殿!」


 「はい。」


 スズメバチ代表が、司会のチンパンジーのところに飛んで行く。


 「スズメバチ殿。あなたは随時、人間を見つけては刺し、アナフィラキシーショックを起こさせ、死に至らしめましたので、ここに表します。」


 「有難うございます。俺、人間見るとムカつくんすよ。何がムカつくって?そりゃ、・・・ミツバチさんが可哀そうすぎるからですよッ!俺たちハチ同盟は、永遠に不滅です!」


 ミツバチは、感激のあまり泣いていた。


 ワーワーワー‼ 


 「スズメバチさん、あなたは英雄です!おめでとうございます!」


 スズメバチのところには、大量の生花が配達される予定だ。



 「続いて、サル殿!」


 『おさるパーク』のボスザルは、悠然と、自信たっぷりに前に進み出た。


 「サル殿。あなたは養牛場でウシさんたちが焼き殺されそうになったところを未然に防ぎ、人間の丸焼きを作って死に至らしめましたので、ここに表します。」


 「かたじけない。『おさるパーク』にのこのことやってきやがって、俺たちを可愛いだのなんだの、馬鹿な人間どもはふざけたことばっかしてやがる。そこにいたトロい連中からくすねたマッチを使って焼き殺したのさ。『猿エンタ軍団』の恨みを、俺は一手に背負って、人間どもを殲滅せんめつしてやるんだ!これからも、人間を殺しまくって、『人間スーパーマーケット』を益々拡大してやるぞ!」


 ワーワーワー‼ 


 「サルさん、あなたは英雄です!おめでとうございます!」


 「へっ、あたぼうよ!」


 サルは人間の奴隷百人を受け取る証書にサインをした。



 「なお、準英雄のシロアリさんは、本日欠席です。」


◇◇◇


 「続いて『怒りバクハツ!』のコーナー!」


 ワーワーワー‼ 


 「このコーナーでは、プレゼンテーターとコメンテーターとで討論をしていただきます。それではまず、コメンテーターのミツバチさんのプレゼンです。どうぞ!」


 「私たちミツバチは、花の蜜を集め、蓄え、六角の部屋を作って住んでいます。しかし人間は、私たちが一生懸命蓄えた蜜を奪うだけでなく、私たちが苦労して作った家をも、根こそぎ奪っていきます。奪われては作り、奪われては蓄え・・・ここに生きる意味はあるのでしょうか?これが私たちの一生ならば、もう我慢できません!人間を皆殺しにしたいと思っております!」


 ワーワーワー‼ 


 「スズメバチです。ミツバチさんには心底同情します。ハチ同盟はこぞって、ミツバチさんの深い心の傷に寄り添い、人間を見れば刺す!ということを繰り返してきました。我々の家はもぎ取られ、焼却処分されてきました。ですのでこの機会に、人間を焼却処分して残滅ざんめつさせることは、理に適っていると思います。」


 ワーワーワー‼ 


 「皆様、今後とも、ミツバチさんの心の傷に寄り添い、ミツバチさんたちから蜜と住居を強奪してきた人間たちを、皆殺しにしていこうじゃありませんか!」


 ワーワーワー‼ 


◇◇◇


 「続いては、鳥さんたちを代表してカラスさんのプレゼンです。どうぞ!」


 「とにかく、人間はのろいし遅いしトロいし馬鹿。ゴミ捨て場に、俺たちが入れないように網なんか掛けたって、そんなもん、めくりゃいいってーの!・・・何より頭に来るのが、”不吉”の象徴と勝手に決めてることだよ!俺たちの命、何だと思ってるんだ!何が”不吉”だ、コノヤロウ!」


 ワーワーワー‼ 


 「同じ鳥だって、ハトは”平和”の象徴だぜ。俺たちは”不吉”の象徴。この違いはどこから来るんだ?」


 「そうですよね。同じ鳥類なのに。どこから来るのでしょうね。」


 「色のせいだと俺は思う。ハトは大体グレーから白だろ?そしたら、”平和”の象徴だよ!俺たちは、真っ黒だからって”不吉”だってんだから。・・・俺たち鳥類はみんな仲間だからさ、ハトを敵対視するつもりはないけどよ。人間はさ、色や形なんかでイメージを作り上げるのは自由だけどさ、だからといって、生き物として地球上に生きているのに、”悪い生き物”だとか”差別”だとか、やめろって思うんだけど!」


 「飼いイヌです。カラスさんは、僕の飼い主が干しておいた洗濯物のスカーフを咥えて届けてくれたことがありました。僕のところに持って来てくれて。そしたら飼い主が、僕の手柄だって勘違いしました。スカーフを持って来てくれたカラスさんのことを無碍にして、まるで何か悪いことをした生き物みたいに追い払ったんです。僕はひどいと思いました。人間には、本当の事などわからないのだと思いました。」


 ワーワーワー‼ 

 

 「皆様、何千年もの間、中傷され続けて生きてこられた、カラスさんの強さと誇り、そして明晰な頭脳に敬意を表し、カラスさんたちを”不吉”呼ばわりしてきた人間たちを、皆殺しにしていこうじゃありませんか!」


 ワーワーワー‼ 


◇◇◇


 「続いては、人間によって長年、食肉にされてきた動物を代表してニワトリさんのプレゼンです。どうぞ!」


 「男の子たちは、卵から出てきてひよこになった直後、プレス工場でバリバリと潰されました。男の子たちを不憫に思った人たちが、プレス工場で潰される前に男の子たちを買い取り、派手な色を塗って、”カラーひよこ”として縁日で売っていたそうです。わずかな間でしたが、救われたのでしょう。」


 「ウサギです。飼い主が”カラーひよこ”を買ってきたことがありました。卵を産まないってわかると、内緒で夜中に川の近くに捨てていました。どうして命を売り買いするのでしょう?一度庇護すると決めた命に、どうして最後まで責任を持たないのでしょう?」


 ワーワーワー‼ 


 「私は女性なので、ずっと狭いワンルームで過ごしていました。体の幅ほどしかないワンルームに押し込められて以来、ずっと立ちっぱなしでした。座ることが出来なくて・・・。」


 ニワトリ女子は、シクシクと泣き出した。


 「狭すぎて、座れないのです。ずーっと立ちっぱなしで二十四時間、何年も何年も・・・皆様、想像つきますか?そして、照明を調節されて、昼も夜もわからないようにされて、卵を産む回数を増やされたのです。一日一回ではなく、一日二回以上産まされました。本当に、本当に、疲れ切って・・・鶏舎に閉じ込められて絶望した友達は、自然死しました。」


 「ハムスターでち。人間は悪魔だと思いましゅ!」


 ワーワーワー‼ 


 「トリインフルエンザは正義です。神様が、ニワトリさんたちの心痛に同情されたのでしょう。皆様、今後とも、ニワトリさんの心と体の痛みに寄り添い続けましょう!男の子を生後すぐに殺し、女の子には座ることも許されない環境下で一日に何度も卵を産ませ、奴隷同然に扱ってきた人間たちを、皆殺しにしていこうじゃありませんか!」


 ワーワーワー‼ 


◇◇◇


 「それでは最後に、ペットショップでショーウインドウに並ばされた挙句、売れ残ったからといって殺処分されかかったイヌさんです。どうぞ!」


 「隣のケージのイヌは、すぐに買い手がついたのに、自分のことは客が見向きもしませんでした。そしてついに、病気になった自分に、殺処分の予定が組まれました。寸前のところで、保健所の殺処分係の人間を、サルさんが惨殺してくださったので助かりました。サルさんには本当に、心からお礼申し上げます。」


 「サルです。これからは僕たちが一緒だよ。人間は殺し尽くしてしまって、みんなで仲良く暮らしていこう!人間さえいなくなれば、誰も君を殺したりしないよ。」


 「はいっ・・・ありがとうございます・・・。」


 殺処分されかかったイヌが、涙ながらに礼を言った。


◇◇◇


 「続いては、『公開処刑』のコーナー!」


 ワーワーワー‼ 


 つるで後ろ手に縛られた全裸の美しい女性が、下を向いて登場した。



 「こいつは、もうすぐ私たちに殺される人間のメスですが・・・こいつは、肉や魚ばかり食べている割には、いつも食べ残していたメスです。しかも、『いただきます』も『ごちそうさま』も一度も言ったことがない不躾ぶしつけなメスです。家が金持ちだか何だか知りませんが、いつもたくさんの食事を用意されているにも拘らず、いつも食べ残してきたメスです。感謝を知らないこのメスを、本日の見世物にしましょう!」


 ワーワーワー‼ 



 「ゲストのライオンさんとトラさんです。どうぞ!」



 グルルルルグルルルル・・・。


 トラはよだれを垂らした。




 「キャー!」




 「叫び声なんてあげても無駄ですよ。あなたは、我々を殺した肉を、ほんのちょっとつまんで、何の礼もせずに何十年も生きてきたのですから。許すわけには参りません。」



 「ごめんなさい!許してください!」



 「ダメです。絶対に許すことはできないのですよ。ライオンさん、トラさん、いっちゃってください。」



 ウー・・・ウー・・・。



 視聴率は九十五パーセントに達した。


 美しい全裸の女性は、恐怖のあまり、失禁した。



 「人間のヤロウが漏らしましたね!もっと怖がらせてやりましょう!」


 「ごめんなさい・・・何でもするから・・・許してください。」



 「・・・あんたはきっと、そうやって薄汚く生き延びてきた命なんだろう?これからは、『ピュア』な命しか、地球上には存在しえないんだよ!嘘つきや成りすまし、汚らわしい生き物は、皆、死んでゆくのだ!」



 フ―ッ・・・グルルルル・・・。


 涎を垂らしたライオンが、美しい全裸の女性に近づいてゆく。


 ライオンが、女性の裸体をベロベロと舐め始めた。





  テレビで視聴していた飼い猫家族の母猫が子猫たちに言った。


 「今夜はもう遅いから、あんたたちは、寝なさい。」


 「もっと見たいよ。」


 「これからは、お父さんとお母さんの時間だ。もう寝なさい!」


 飼い猫の父猫が諭した。


 「・・・はあ~い。」


 子猫たちはしぶしぶ両親の言うことを聞いて、寝床に向かった。




 

 ライオンが美しい裸体に、鋭い爪を伸ばした前足を乗せた。


 ネズミが女性の背後にやって来て、後ろ手に縛っていた蔓を噛み切った。


 サルたちがやって来て、美しい全裸の女性の手足を押さえて、身動きが出来ないようにした。


 カメラが、女性とライオンにズームアップした。





 ライオンとトラに次々と犯された全裸の女性は、涙を流しながら、数分先には自分の命が無いのだと悟ったようだった。



 「ゲストのライオンさんとトラさんは、大変お腹がすいております。今、ディナーを目の前にして、喉を鳴らしております!」



 グルルルル・・・ガウッ!



 ライオンとトラが、泣き顔も美しい全裸の女性に飛び掛かった。


 皮膚を裂き、筋肉が良く見えるように前足で押し広げると、内臓と器官をどけながら筋肉をガツガツと食べ始めた。



 まだ動いている心臓を、ニワトリが啄んだ。



 肝臓や胃や脾臓や膵臓を、カラスが啄んだ。



 退けられた小腸や大腸などの器官は、真っ赤なホースのようになって、どけられたままになっていた。



 人間の女性は、頭部を残して骨だけになった。



 その肋骨を、飼いイヌがしゃぶっていた。

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