捕食 第3章

 十月の『海釣りボート行方不明事件』の数日後。


 高校から下校した裕太ゆうたは、早めの夕食を食べながら、ニュースを見ていた。



 『世界各地でインフルエンザが大流行しています。』



 ガラッ‼


 「ただいま。」


 「あ、兄ちゃん、おかえり!」



 『中国、香港、台湾、東南アジアなどで、トリインフルエンザが猛威を振るっています。そして、インドでは豚インフルエンザ、チベットではイノシシインフルエンザ、モンゴルではヒツジインフルエンザ、アメリカ合衆国とオーストラリアではウシインフルエンザ、アフリカではライオンインフルエンザ、ヒョウインフルエンザ、ゾウインフルエンザがパンデミックの様相をていしています。日本の学校でも、鶏インフルエンザの集団感染がみられています。』



 「お母ちゃんは、今夜も遅いって、夕飯作っておいてくれたから、僕はもう食べ始めてる。兄ちゃんも食べなよ。」


 「僕は、あんまりお腹減ってないから、後でいいや。」


 「わかった。」



 『なお、死者数は爆発的に増加してきています。手洗いうがいを徹底し、マスクを着用し、予防接種をするなどして、徹底した感染予防対策が必要です。』


◇◇◇


 ポロロロン!


 「着信だ。・・・学校からだ。」


 『数十名の三年生の生徒が、鶏インフルエンザに感染したとの連絡を受けました。全クラスの生徒が感染しており、感染した生徒が数十名に達したことから、学年閉鎖とします。三年生は授業再開の連絡があるまで、自宅待機してください。』


 「いえ~い!明日からしばらく休みだっ!」


 「裕太、さっきから、インフルエンザのニュース、ずーっとテレビでやってるんだけど。」


 「ああ、僕の学校からも今メールが来て、学年閉鎖だって。鶏インフルエンザで。僕もしばらく学校休みになったんだ~!」


 「規模が普通じゃないんだよ。世界的パンデミックだってさ。アフリカで、ライオンインフルエンザとか、ゾウインフルエンザっていうのが、流行ってるって。」


 「へえ。」


 「日本では今のところ、鶏インフルエンザが流行してるけど、アメリカとかオーストラリアでは、牛インフルエンザだってさ。」


 「へえ。・・・牛も?」


 「森實さんたちの『怪奇現象』も引き続き追いかけるけど、このインフルエンザのパンデミックも、『怪奇現象』として、『わんだほーえくすぺりえんす』で取材して、動画作ってみないか?」


 「いいよ。しばらく学校も休みだし。」


◇◇◇


 『ここは、鶏インフルエンザが発生した『田浦養鶏場たうらようけいじょう』です。数日後に鶏舎けいしゃは全て、焼却処分される予定です。』



 「この養鶏場、ここからそんなに遠くないぞ。・・・焼却の現場映像と、インタビュー、撮りに行ってこようか?」


 「え~、大量のニワトリが、火をつけられて、焼かれるんだろ・・・。」


 裕太の目から、涙が溢れた。


 「そんなの、かわいそうだよ。」


 「裕太、泣くなよ~。」


 「僕は、そんな残酷なところ、見に行きたくないよッ!」


 「・・・わかった。とりあえず、企画について漣に相談して、取材に行くとしたら漣と一緒に行くから。お前は動画編集の方、頼む。」


 「そうしてくれる?僕には、耐えられない。」


◇◇◇


 「取材に合わせてバイトの休み取るから、『田浦養鶏場』へのアポ、ミサオが取ってくれると助かるんだけど、頼んじゃってもいい?決まったら、すぐに連絡してくれ。待ってる。」


 「わかった。早速連絡取ってみるよ。」


 ◇◇◇



 十月中旬。快晴の秋晴れであった。



 コケッコー。


 コケッ、コッコッコッ・・・。


 コーケコッコー!



 「こんにちは。ソーシャルメディアで動画を配信している『わんだほーえくすぺりえんす』と申します。本日はお忙しいところ、動画の取材に応じてくださって、ありがとうございます!」


 「いや~、参ったよ。鶏インフルエンザ、大流行だってさ。うちらの養鶏場は、鶏舎ごと丸焼きにしなきゃならなくなった。商売あがったりだよ、ったく。まーた鶏舎造って、新しい鶏を仕入れてこなきゃなんねーんだから。ったく、コストいくらかかると思ってんだ。・・・灯油も全部、ここに用意してある。あとは、撒いて火ぃつけるだけだよ。」


 「僕たちは鶏舎の中には入りません。焼却時は、この位置からの撮影を許諾きょだくして頂けますと幸いです。この位置より内部に踏み込むことはございませんので、ご安心ください。」


 「わかった。動画出来たら見せてもらうわ。養鶏場の宣伝にもなるしな。こちらこそ、よろしく。」


 

 『田浦養鶏場』の責任者は、灯油を入れたバケツを両手に持ち、鶏舎の方向に歩いて行った。




 アー!




 アー!


 アー!


 アー!


 アー!



 どこからともなく、カラスが飛んできた。


 一羽ではない。二羽、三羽・・・五羽ほどが、鶏舎の屋根にまった。



 アー!

     アー!

             アー!

  アー!

                    アー!

            アー!

    アー!

 アー!

        アー!

アー!           アー!

   アー!    アー!

      アー!

 アー!

   アー!

 アー!   アー! 

    アー!   アー!  アー!




 またたく間に、数十羽ものカラスが、鶏舎の屋根の上に飛んできて留まった。


 「なんだなんだ?これから作業だってのに。」






 ア゛ー‼‼‼‼






 バサバサバサバサ・・・。






 一羽のカラスが号令をかけると、カラスの大群が、養鶏場の責任者目掛けて急降下、責任者に襲い掛かった。



 バサバサバサバサ・・・。


 「うわあー!」



 責任者の頭を突き続ける、カラスの大群。


 責任者は、頭に群がるカラスを、両手で追い払おうとして、持っていたバケツの灯油を、自分の身体にかけてしまった。



 「・・・やっべ~。」


 「ちょっと、この状況、かなり想定外・・・。」




 「うわーっ!・・・と、灯油が、目に入ったあーっ!目が・・・目が・・・開けられねえッ!」



 責任者は、両目を押さえながら、なんとか立ち上がろうとした。



 

 その時である。






 ピカー!




 


 「ん?上の方で、なんか光ったような・・・。」


 「・・・ホントだ。なんだ、あれ。」


 「・・・トンビか?」




 トンビが上空で旋回していた。


 口に何かをくわえている。






 ピカー!

  





 トンビが口に咥えたものから、一筋の強い光が放たれていた。


 その光が、灯油がかかった責任者に、鋭く、真っ直ぐに注いだ。


 トンビが責任者の至近距離にやってきて、真上で旋回した。



 責任者というターゲットに、強い光を当て続けた。




 ジュワ~・・・。




 責任者の身体から、煙が出始めた。



 「トンビが咥えてるのって、もしかして・・・虫眼鏡?」


 「虫眼鏡・・・みたいだな・・・。」




 日差しの強い、快晴であった。




 ジュワ~・・・パチッ、パチッ・・・ボオッ!




 「うわっ!」



 ボワオッ・・・・・・。




 責任者は、火だるまになった。




 メラメラメラメラメラメラ・・・。


 「アー!アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ!」




 火だるまとなった責任者。


 立ち上がって、手をバタつかせながら走っている。




 「水道とかホースとか・・・水場みずばは何処だッ!」


 「建物の構造とか、水道が何処にあるのかまでは、わからないよ!」


 「刻一刻を争う一大事だ・・・。」


  




 バタッ!





 火だるまが、倒れた。






 「救急車、呼ぼうか。」


 「間に合わねえだろ!もう火だるまになってる・・・。」


 「誰か他の、養鶏場の人を探しに行こう!」


 「そ、そうだね!」


 れんとミサオは、想定外の出来事を目の当たりにして呆然ぼうぜんとしながらも、機転を利かせて動いた。


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