捕食 第3章
十月の『海釣りボート行方不明事件』の数日後。
高校から下校した
『世界各地でインフルエンザが大流行しています。』
ガラッ‼
「ただいま。」
「あ、兄ちゃん、おかえり!」
『中国、香港、台湾、東南アジアなどで、
「お母ちゃんは、今夜も遅いって、夕飯作っておいてくれたから、僕はもう食べ始めてる。兄ちゃんも食べなよ。」
「僕は、あんまりお腹減ってないから、後でいいや。」
「わかった。」
『なお、死者数は爆発的に増加してきています。手洗いうがいを徹底し、マスクを着用し、予防接種をするなどして、徹底した感染予防対策が必要です。』
◇◇◇
ポロロロン!
「着信だ。・・・学校からだ。」
『数十名の三年生の生徒が、鶏インフルエンザに感染したとの連絡を受けました。全クラスの生徒が感染しており、感染した生徒が数十名に達したことから、学年閉鎖とします。三年生は授業再開の連絡があるまで、自宅待機してください。』
「いえ~い!明日からしばらく休みだっ!」
「裕太、さっきから、インフルエンザのニュース、ずーっとテレビでやってるんだけど。」
「ああ、僕の学校からも今メールが来て、学年閉鎖だって。鶏インフルエンザで。僕もしばらく学校休みになったんだ~!」
「規模が普通じゃないんだよ。世界的パンデミックだってさ。アフリカで、ライオンインフルエンザとか、ゾウインフルエンザっていうのが、流行ってるって。」
「へえ。」
「日本では今のところ、鶏インフルエンザが流行してるけど、アメリカとかオーストラリアでは、牛インフルエンザだってさ。」
「へえ。・・・牛も?」
「森實さんたちの『怪奇現象』も引き続き追いかけるけど、このインフルエンザのパンデミックも、『怪奇現象』として、『わんだほーえくすぺりえんす』で取材して、動画作ってみないか?」
「いいよ。しばらく学校も休みだし。」
◇◇◇
『ここは、鶏インフルエンザが発生した『
「この養鶏場、ここからそんなに遠くないぞ。・・・焼却の現場映像と、インタビュー、撮りに行ってこようか?」
「え~、大量のニワトリが、火をつけられて、焼かれるんだろ・・・。」
裕太の目から、涙が溢れた。
「そんなの、かわいそうだよ。」
「裕太、泣くなよ~。」
「僕は、そんな残酷なところ、見に行きたくないよッ!」
「・・・わかった。とりあえず、企画について漣に相談して、取材に行くとしたら漣と一緒に行くから。お前は動画編集の方、頼む。」
「そうしてくれる?僕には、耐えられない。」
◇◇◇
「取材に合わせてバイトの休み取るから、『田浦養鶏場』へのアポ、ミサオが取ってくれると助かるんだけど、頼んじゃってもいい?決まったら、すぐに連絡してくれ。待ってる。」
「わかった。早速連絡取ってみるよ。」
◇◇◇
十月中旬。快晴の秋晴れであった。
コケッコー。
コケッ、コッコッコッ・・・。
コーケコッコー!
「こんにちは。ソーシャルメディアで動画を配信している『わんだほーえくすぺりえんす』と申します。本日はお忙しいところ、動画の取材に応じてくださって、ありがとうございます!」
「いや~、参ったよ。鶏インフルエンザ、大流行だってさ。うちらの養鶏場は、鶏舎ごと丸焼きにしなきゃならなくなった。商売あがったりだよ、ったく。まーた鶏舎造って、新しい鶏を仕入れてこなきゃなんねーんだから。ったく、コストいくらかかると思ってんだ。・・・灯油も全部、ここに用意してある。あとは、撒いて火ぃつけるだけだよ。」
「僕たちは鶏舎の中には入りません。焼却時は、この位置からの撮影を
「わかった。動画出来たら見せてもらうわ。養鶏場の宣伝にもなるしな。こちらこそ、よろしく。」
『田浦養鶏場』の責任者は、灯油を入れたバケツを両手に持ち、鶏舎の方向に歩いて行った。
アー!
アー!
アー!
アー!
アー!
どこからともなく、カラスが飛んできた。
一羽ではない。二羽、三羽・・・五羽ほどが、鶏舎の屋根に
アー!
アー!
アー!
アー!
アー!
アー!
アー!
アー!
アー!
アー! アー!
アー! アー!
アー!
アー!
アー!
アー! アー!
アー! アー! アー!
「なんだなんだ?これから作業だってのに。」
ア゛ー‼‼‼‼
バサバサバサバサ・・・。
一羽のカラスが号令をかけると、カラスの大群が、養鶏場の責任者目掛けて急降下、責任者に襲い掛かった。
バサバサバサバサ・・・。
「うわあー!」
責任者の頭を突き続ける、カラスの大群。
責任者は、頭に群がるカラスを、両手で追い払おうとして、持っていたバケツの灯油を、自分の身体にかけてしまった。
「・・・やっべ~。」
「ちょっと、この状況、かなり想定外・・・。」
「うわーっ!・・・と、灯油が、目に入ったあーっ!目が・・・目が・・・開けられねえッ!」
責任者は、両目を押さえながら、なんとか立ち上がろうとした。
その時である。
ピカー!
「ん?上の方で、なんか光ったような・・・。」
「・・・ホントだ。なんだ、あれ。」
「・・・トンビか?」
トンビが上空で旋回していた。
口に何かを
ピカー!
トンビが口に咥えたものから、一筋の強い光が放たれていた。
その光が、灯油がかかった責任者に、鋭く、真っ直ぐに注いだ。
トンビが責任者の至近距離にやってきて、真上で旋回した。
責任者というターゲットに、強い光を当て続けた。
ジュワ~・・・。
責任者の身体から、煙が出始めた。
「トンビが咥えてるのって、もしかして・・・虫眼鏡?」
「虫眼鏡・・・みたいだな・・・。」
日差しの強い、快晴であった。
ジュワ~・・・パチッ、パチッ・・・ボオッ!
「うわっ!」
ボワオッ・・・・・・。
責任者は、火だるまになった。
メラメラメラメラメラメラ・・・。
「アー!アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ!」
火だるまとなった責任者。
立ち上がって、手をバタつかせながら走っている。
「水道とかホースとか・・・
「建物の構造とか、水道が何処にあるのかまでは、わからないよ!」
「刻一刻を争う一大事だ・・・。」
バタッ!
火だるまが、倒れた。
「救急車、呼ぼうか。」
「間に合わねえだろ!もう火だるまになってる・・・。」
「誰か他の、養鶏場の人を探しに行こう!」
「そ、そうだね!」
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