捕食 第2章

 『海釣りボート行方不明事件』の聞き込み動画を作成した三人は、モザイク修正やマスキングやぼかし、ボイスチェンジャー効果などを使って加工した映像チェックを始めた。



 「どーもーっ!『わんだほーえくすぺりえんす』でーす!」



 「いや~、もう十月ですよ。」


 「早いですね~。ちょっと前まで、アッツイ夏だったのに!」


 「でもまだ、暑い日もあるよ。アイスもまだ美味しいよ。」


 「そういうの、『残暑』っていうんだよね。」


 「『残暑』ってさ、真夏が過ぎてんのにまだ暑い、ってことなんだけど、秋になってしばらく経つのに暑いと『残暑が残る』って言い方、するよね?」


 「暑さが残っちゃってる、っていうことが残っちゃったってことなのか?」


 「あ~も~、めんどくせえ!なんでもいいよ!それじゃあ、今日も熱い、『わんだほーえくすぺりえんす』の動画、いってみよう!今回の『怪奇現象』は?」

 


 「『海釣りボート行方不明事件』。」



 「今回フォーカスしていく『怪奇現象』は、『海釣り』の最中に男性二人が行方不明となった、皆様もご存知、最近ニュースで公表されたこの事件ですっ!」

 


 「十月の海。海で遊んでる人達は激減げきげんしてる頃だよね。」


 「たまに、サーファーが居たりするけどね。」


 「サーファーは、年中無休でサーフィンしてっから。」


 「正月の海でも、サーフィンしてるサーファーもいるよ。」



 「兎にも角にも、十月の海。海水浴客が少ない中で、行方不明になった二人は、レンタルボート店で小型ボートを借りて、かなり沖の方に『海釣り』に行ったらしいんだ。」


 「僕たちは早速、二人が乗った海釣り用の小型ボートを貸していたレンタルボート店にインタビューして参りました!その映像がこちらです。どうぞ!」



 『うちのライフジャケットには番号がふってあってね。どのライフジャケットを、どの客が着てボートに乗ったか、一目でわかるように、受付時には名前も記入してもらってるんだ。この%%%%%さんはね、ものすごくデカくて、ガタイがいいってのかな、色黒の筋肉質の男性でしたね。そんでね、こっちの※※※※※さんはね、なんていうか、なまっ白くて、ものすごく痩せた男性でしたね。』


 「二人の様子で、何かお気づきになられたことはありましたか?」


 『いや~、特には何も感じなかったけどな。友達のようだったよ。だけど、色黒の筋肉質の男性ばかりがベラベラ喋っていたかな。色白の方は、やけの大人しかったから、なんか、長く付き合い続けている友達同士って感じはしなかったかな。つい最近出会って、まだ気心は知れていないような感じはしたかな。まあ、仲は良さそうだったよ。表面を取り繕うような感じではなく、普通に親し気だった。』


 「実はこの二人は、仕事関係の知り合いなんですよ。」


 『へえ~。そうは見えなかったな。俺もそんなにジックリと、この二人を見ていたわけではなかったけど、歯ブラシがどうとかこうとか、チラッと聞こえてきたりしたよ。』


◎◎◎


 「・・・ここ、『ピー音』、入れといた方がいいね。」


 「そうだね、『怪奇現象』とは無関係だからね。・・・いやあ、この二人、そういう関係になっていたのか。森實もりざねさんが、諏訪部すわべチーフの死後、しばらくして、なんだか明るい感じになってきてて、何かいいことあったのか、彼女でも出来たかな、と思ったりしたんだけど・・・多分、配達の度に親しくなって、恋人関係にまで発展していったのかも知れないな・・・。」


◎◎◎


 「この海で、『怪奇現象』が起きた、などの噂は聞いたことがありますか?」


 『怪奇現象ねえ・・・。うちは貸しボート屋だからね。もうほんと、デートの客やら、釣り客やら、用途に応じてボートを貸してるだけだから。そういう、変な噂話は聞いたことがねえな。』


 「取材に応じてくださって、本当にありがとうございました!とっても気さくな、いい店長さんでした。皆様も、この海でボートを借りたいときには、ここのお店、とっても親切なので、おススメです!是非!」



 チャラリン!(効果音)



 「事件を詳しく検証していきましょう。ライフジャケットが海上に浮かんでいるのを、近くを通ったイカ釣り漁船の乗組員が発見したことから、この事件が発覚しました。」


 「ライフジャケットだけが浮いてるって・・・。」


 「二人は、何処行ったの?っていう・・・。」



 どよ~ん(効果音)



◇◇◇


 「僕たちは、管轄かんかつの警察にもインタビューしました。」


 「皆様、なんと、この情報に関しては、マスメディアよりも先に『わんだほーえくすぺりえんす』が公表できるかもしれません!貴重なインタビューになりました。どうぞ!」



 『・・・あの事件に関して、警察では引き続き捜査を続けています。ライフジャケットが浮かんでいた地点の海底を捜索したところ、衣類と靴が見つかりました。現在、二人の持ち物かどうか、特定を急いでいます。このことについては、マスメディアにも伝達済みです。』


 「その衣類や靴の、写真とかって、見せてもらうことは可能ですか?」


 『二人の持ち物であるかどうか、確定のための聞き込みを現時点では行っています。もうすでに身元の特定は完了しておりますし、プライバシーに関わることですので、ソーシャルメディアでの公表はご遠慮願います。』


 「その・・・二人の身体は、見つかっていないのですね。」


 『只今、捜索中です。』


 「二人の人間関係が影響して、ボート上でもめた形跡などはありましたか?」


 『ボートに破損箇所はありませんでした。大きな魚の活け造りのような調理をして、二人でそれを食べた後のようになっていただけで、二人が争った形跡などは見受けられませんでした。』


 「警察の方々、お忙しい中、取材に応じてくださって、本当にありがとうございました!」




 「ライフジャケットだけじゃなくて、二人は服や靴も脱いでたの?」


 「まだ二人の衣類かどうかは特定できてないけど、そうかもしれない。」


 「って言うか、ライフジャケットって、普通、自然には脱げなくね?」


 「自分で脱ぐか、誰かが脱がさないと。」



 「自分で脱ぐとしたら、例えばどんな時?」


 「魚食う時に、邪魔になったとか。」


 「それなら、脱いだ後、ボートに置いておけばいいじゃない。なんで、脱いでから、海に投げ捨てたんだろうね。」



 「仮に、海に沈んでいた衣類が、二人の持ち物だったとして・・・全部、海に捨てちゃったってことは・・・家に帰る時の事を考えてなかったってこと?」


 「家に帰らなければならない、ということを、忘れたくなったとか。」


 「・・・二人とも、家に帰るつもりがなかったってこと?」



 「まさか、二人で自殺?」



 「それを言うなら、『心中』って言うんだよ。」


 

 「だけど、そんなことしねえだろ?魚釣りに来て、デカい魚釣りあげて、活け造りして、『心中』って。それはねえんじゃねえの?だから『怪奇現象』なわけよ。」



 チャラリン!(効果音)



 「身体だけが見つかっていない二人の行方不明事件。」


 「ボートの上で、二人で全裸になって、ライフジャケットや衣類は海に捨てて飛び込んで、泳いでいて溺れたのかな?」


 「遠くまで泳いで、ボートを見失った、とか。」


 「二人とも?そもそも釣りに来てるわけだし。いくら暑い日だからって、洋服と靴を捨てて、十月の冷たい海で全裸で泳ごうとするか?」



 チャラリン!(効果音)



 「いきなり二人とも、『探さないでください』みたいな心境になったとか?」


 「見つかりたくないんだったら、ライフジャケットは放り込まないだろ?そんなことしたら、ライフジャケットがすぐに浮いちゃうから、誰かが発見したら、二人だってすぐにバレちゃうじゃないか。」


 

 チャラリン!(効果音)

 


 「仮に、服と靴が二人の持ち物だとして、どうして海底にあったのでしょうか。」


 「海底で誰かに、脱がされた、とか?」


 「誰が中年男性を、海底で脱がすんだよ!」


 「中年男性の裸が趣味の奴とか。」


 「水中写真家とか?」


 「水中写真家の集団?」


 「水中写真家の集団が、二人を羽交い絞めにして脱がせて写真を撮った。」


 「そんな集団、いるかよ~。」



 チャラリン!(効果音)



 「二人で魚食べた後、開放的な気分になって、全裸で泳ぎたくなって、わけもわからず、全部脱いじゃって、全部海の放り投げちゃって、二人とも全裸で飛び込んで、溺れたとか?」


 「警察の調べだと、酒類はボートにはなかったって。」


 「いくら開放感に浸ったって、ライフジャケットも洋服も靴もボートに置きっぱなしにしないと、帰る時どうするの?全裸で電車乗って帰るの?なんで、帰る時のことを考えなかったんだろう。帰る時のことを考えないような人たちじゃないって思えるけど。」


 「開放感に浸ったからって、そこまで非常識な二人ではない、と僕も思うよ。」

 

 「そうだよな。いくら開放感に浸ったって、洋服と靴を海に投げ捨てるっていうことはありえない。」




 「だからこれは、『怪奇現象』なんだよ!」



 ジャジャジャーン(効果音)



 「二人の意思じゃなくて、『怪奇現象』が起きたんだ!」



◇◇◇


 「それでは、この二人はどのような人物だったのか、二人が勤めている会社の方々にインタビューしてきました!」


 「まずは、※※※※※さんの会社の方々の証言です。」



 『とても真面目なアルバイトの方でした。礼儀正しくて。』


 『親切で、真面目。』


 『気が弱い感じ。いつもオドオドしてた。』


 『上司に結構いびられてて気の毒だったよ。そしたらさ、その上司がいきなり亡くなって。それから少し、元気を取り戻していた感じがしたな。』


 『あいつのカバンの中、チラッと、『青木ヶ原樹海』の本が見えた。』


 『色白くて、弱々しい感じ。』


 『控えめで、真面目で、仕事は出来る人だったよ。』



 「※※※※※さんの会社の方々、ありがとうございました!」



 「※※※※※さんは、開放感に浸ってハチャメチャをする非常識な方ではなさそうですね。」


 「真面目で、礼儀正しくて、自己主張しない人って感じだな。」


 「気になるのは、『青木ヶ原樹海』の本を持って出社したことがあることかな。」



 チャラリン!(効果音)



 「それでは続いて、%%%%%さんの会社の方々の証言です。」



 『力も体力もあって、頼もしい人だよ。早く戻って来てくんねえかなあ。』


 『一見、ガサツな感じに見えて、繊細なところがある人です。』


 『人の事を良く見ている人。』


 『兎に角、魚好きで、毎日大量に食ってないと具合悪くなるって言ってた。』


 『皆勤賞!サボることもないし。仕事は真面目、そして豪快で明るい。』


 『インテリっつわけじゃねえけんど、頭が冴えてるやつだよ。』


 『女好きじゃなかったみてえ。俺はそっちの趣味ねえから、距離空けてた。』


 ◎◎◎


 「最後の証言、カットした方がいいのかな。」


 「そうだね。『怪奇現象』とは関係ないプライバシーだからな。」


 ◎◎◎


 「%%%%%さんの会社の方々、ありがとうございました!」


  

 「%%%%%さんも常識的な社会人で、ハチャメチャな行動はしないみたい。」


 「二人とも、真面目で仕事がデキる常識的社会人だった。」


 「いいおじちゃん達だった、っていうことだね。」


 「我が『わんだほーえくすぺりえんす』では、この二人の人柄や行動には問題がなく、何らかの『怪奇現象』が生じた結果、あのような行方不明事件が発生した、と判断することに致しました!」



 チャラリン!(効果音)



 「そこで、あの海にまつわる『怪奇現象』を調査したのですが・・・。」


 「収穫がなかったんだよな。」


 「海の周辺にいた人たちにインタビューしてみたのですが、『怪奇現象』は、今までに一度も起きたことがない海だそうで・・・。」


 「『神隠し』の噂もネットで調べたけど、何も出てこなかったんだ。」




 「・・・というところで、本日の『怪奇現象』、ニュースでも話題の『海釣りボート行方不明事件』の追究はここまでにさせて頂きます!」


 「この事件の真相は⁉一体、何が起きたのか⁉今後も『わんだほーえくすぺりえんす』は追いかけていきます!」


 「この『怪奇現象』に関連する『怪奇現象』の動画のリンクを、概要欄に貼っておきます。是非チェックしてみてください。」


 「皆様からのたくさんのコメント、お待ちしております。」


 「この動画が、少しでも面白い!と思った方は、グッドボタンとチャンネル登録をお願いいたします。」


 「それでは、また次回、お会いしましょう!『わんだほーえくすぺりえんす』でしたっ。ありがとうございましたーっ!」

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