捕食 第1章

 『海釣りをしていたとみられる男性二人が行方不明になっています。』


 早めの夕食を摂りながら、柿生裕太かきおゆうたはテレビのニュースを見ていた。


 『警察によりますと、二人は海釣り用の小型ボートに乗っていましたが、二人が着用していたライフジャケットが海上に浮かんでいるのを、航行中のイカ釣り漁船が発見、近くのレンタルボート店で二人の男性の氏名を確認したところ、行方不明になっている二人の男性は、青島瑞樹あおしまみずきさん三十九歳と、森實大樹もりざねたいきさん二十八歳であることが分かりました。』


 裕太は、聞き覚えのある名前だな、と思い、テレビのテロップを見た。


 「・・・あ!この人、・・・森實大樹さんって、兄ちゃんの会社の人だ!シゲノリが呪術をかけた上司に、虐められていた人・・・確か兄ちゃん、二十八歳って言ってたし。」


 『なお、二人の遺体は発見されておらず、警察は捜索を続けています。』


 「大変だ!兄ちゃんに知らせなきゃ!」


◇◇◇


 「ただいま。」


 ドタドタドタドタドタドタドタドタ・・・ドタッ!


 「兄ちゃん!大変だよ!」


 「ん?どうかしたのか?裕太。」


 「森實大樹さんが行方不明だって!ニュースでやってた!」


 「うん。そうなんだ。本社から通達があった。ニュース動画が添付された本社からのメールを、出勤していた従業員全員で確認して、ニュース映像を見たんだ。みんな驚いていたし、僕も驚いた。しかも、もう一人の行方不明者の青島さんっていう人にも、僕は会ったことがある。仕事でね。会社のお得意さんの漁港で働いている人だから、このことにも驚いたんだけどね・・・。」


 「兄ちゃん・・・。」

 



 (兄ちゃんは、森實さんって人の事をしたっていたもんな。ショックだよな。)




 「兄ちゃん、警察が探してるし、そのうち見つかるよ!」


 「それを期待するしかないな。森實さん、すごく真面目でいい人だからさ。早く見つかってくれればいいんだけど・・・。」



 「そうだ!兄ちゃん、僕たちもこの事件を追ってみようよ!」


 「え?」


 「『わんだほーえくすぺりえんす』で、『怪奇現象』として取材してみようよ!きっと、動画の企画になるよ!兄ちゃんは両方の男の人の知り合いってことで、兄ちゃんの方から警察に行って、二人を知ってるって話をすれば、逆に警察から話を聞くこともできるし。」


 「だけど、二人の行方の手掛かりになるようなことなんて・・・うーん・・・本当に、仕事上の付き合いしかないからさ・・・。森實さん、話を聞いてくれる人だったけど、自分から何か話をしてくる人じゃなかったからな・・・。」


 「だったら、いろんなところに聞き込みに行ってみようよ!探偵みたいにさ。聞き込みの動画を作って拡散していくうちに、コメントが届いたりして、二人の行方の手掛かりがつかめるかもしれないでしょ?」


 「裕太、凄い意欲だな。」


 「僕はこれからも、『わんだほーえくすぺりえんす』の活動をバリバリやっていきたいんだ!」


 「お前、学校の宿題や受験勉強もちゃんとやれよ!」


 「僕は来年は、大学受験しないよ!」


 「え?そうなのか?」


 「学校が休みになることが多くてさ、大学受験の範囲に学校の授業が追い付いていないんだよ。日本史なんか、十月の今の時点で、まだ平安時代やってんだから。無理だよ。」


 「そうなのか。じゃあ、浪人するのか?」


 「僕はホントのこと言うと、大学には行きたくない。ソーシャルメディアの配信で食べていきたいって思ってるから。お兄ちゃんたちと『わんだほーえくすぺりえんす』の活動を続けていって、それでお金持ちになれば、大学とか、就職とか、しなくても生きていけるじゃないか。」


 「そう考えているのか。まあ、親や友達ともよく相談して、よく考えて、自分の道を決めればいいよ。いろいろな人生があるし。いわゆる、生き方の多様性ってやつ?これからの時代は、ますます多様化してくるからな。裕太が、自分の意思で、自由に選び取った人生に責任を持てて、後悔しないのなら、裕太が決めた道を信じて、まっしぐらに進んでいけばいいと思うよ。」


 「良かった~。兄ちゃんは、僕の考えを否定しないんだね。ありがとう、兄ちゃん。僕は、学校の授業よりも、『わんだほーえくすぺりえんす』の活動に賭けて、登録者数も十万人にして、人気者になって、表彰のたてもらいたいんだ!」


 「はっはっは!凄い野望だな、裕太。わかった。早速、漣に相談してみよう!」


 「ありがとう!兄ちゃん!」

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