捕食 第4章

 れんとミサオは、養鶏場の受付に走った。


 「すいませーん‼誰かいませんかー?・・・誰も居ないっ。」


 「あそこにみえる、事務所みたいな建物に行ってみよう。」



 漣とミサオは、別の建物の方に走っていった。




 「すいませーん‼誰かいませんかー⁉」



 「ん?・・・んん?・・・誰、君たち。」



 作業服を着て、すんぐりと太った男が、鶏の素揚げをムシャムシャ食べていた。



 「僕たち、ソーシャルメディアで動画配信している『わんだほーえくすぺりえんす』と申します。鶏インフルエンザの取材で、鶏舎を焼却するところを撮影させてもらうために、アポイントメントを取って取材させていただいていたのですが、鶏舎の方で、責任者の方が・・・。」


 「とにかく、大変なんです!一大事なんです!鶏舎に、今すぐ来てもらえませんか?」


 「なんだよ~いきなり来てからに。んだかわかんねーけど、しょーがねーなー。」


 「お願いしますっ!」



 しぶしぶついてくる作業服の太った男を尻目にかけながら、漣とミサオは、惨状さんじょうに案内するために、全速力で鶏舎へ走った。



 アーアー・・・アー・・・アーアーアー・・・。


 「ハアッ、ハアッ・・・なんだ、ハアッ、カラスか・・・?」

 カラスの鳴き声に気づいた太った男が、後ろの方で息を切らしている。




 太った作業服より先に現場に着いた漣とミサオは、身体が凍り付いていた。




 後から、息を切らして鶏舎に到着した太った男は、目を見張った。





 カラスの大群が、地面でカタマリを作っていた。


 

 カラスがたかっているものから、わずかに煙が立ち昇っていた。



 火だるまは、もう無くなっていた。




 カラスの大群の合間から、黒く焦げたカタマリが見えた。





 ミサオは震える手で、カメラを回し始めた。





 黒焦げになった責任者の衣服はところどころ破かれ、周辺に焦げた布地が飛び散っていた。


 うつぶせで倒れた責任者の尻を、カラスは集中的についばんでいた。



 もちろん、尻だけではない。


 腕の肉、背中や腰の肉、脇腹の肉、太ももの肉も、くちばしを器用に使って啄んでいた。


 ほとんど生肉の状態だが、厚い皮膚を喰い破り、筋肉を中心に啄んでいた。


 啄まれた痛みで、黒焦げは時々、ピクッ、ピクッ、と反応した。


 血液まみれの筋肉を引きちぎっては、血を滴らせながら啄み続けるカラスの大群。

 



 鶏舎に反響する、鶏の啼き声。




 コケッコー。


 コケーッ、コッコッコッコッコッコッ・・・。


 コーケコッコー‼

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