捕食 第5章

 「あの後、『田浦養鶏場たうらようけいじょう』の方が救急車を呼んで、黒焦げになった責任者の方は、病院に搬送されたんだけど、一時間もしないで病院で息を引き取ったんだって。」


 「・・・兄ちゃんたち、怖い体験したね。僕、行かないで良かったなあ・・・。」


 「俺たちは、責任者へのインタビューと、鶏舎焼却の映像が撮れれば良かったんだ。世界中でインフルエンザがパンデミック状態だから、インフルの感染拡大を防ぐために、養鶏場がしなければならない焼却までの様子を、遠距離から撮影したかっただけだから、水場の在りかなんか確認しないし、わからないだろ?しかも、いきなり火だるま、なんて、誰が予測できたっていうんだ?」


 「カラスの大群が飛んできて、責任者に襲い掛かって、灯油を責任者にかけたかと思ったら、今度は、トンビが、虫眼鏡をくわえて飛んで来て、至近距離で空中旋回して、責任者の身体に火をおこしたんだぜ!」


 「責任者には、ご冥福をお祈りしなけりゃならねえが・・・これは『怪奇現象』だ。」


 「れん、兄ちゃん、世界中のインフルエンザの動画も片っ端から検索して、『田浦養鶏場』の動画にリンクさせて、『世界中で起きている怪奇現象』的なコンセプトでまとめてみるね!」


◇◇◇


 「ん?『海釣りボート行方不明事件に進展か』ってタイトルの動画があるぞ。」


 「ニュース映像か。見てみよう!」



 『・・・警察の調べによりますと、海底に沈んでいた人骨は、男性のものと判明、頭部の状態から、海釣りボートに乗って行方不明になっていた男性二人の人骨とみられています。なお警察は、DNA鑑定に基づき、身元の特定を急いでいます。』



 「・・・もしも、森實もりざねさんたちの骨だとしたら・・・。」


 「風化するには、日数的に早すぎるよな・・・。」


 「頭以外は、骨だけになった・・・つまり、食べられちゃったってこと?」



 「・・・『田浦養鶏場』でもさ、食ってたよな・・・カラスが、人を。」


 「・・・食ってた。しかも、表面は軽く焼いた、レアで・・・。」




 「鳥が・・・魚が・・・人間を、食べたんだ・・・。」




 ◇◇◇


 その後、日本でも、ウシインフルエンザが確認された。

 日本各地の養牛場の中で、牛インフルエンザが確認された養牛場は、まるごと焼却させられることが余儀なくされた。


 「ついに、日本にも、牛インフルエンザ上陸か。」


 「ゆーた、焼却される養牛場の情報、何かない?」


 「調べてみるよ。えーっと・・・。」


 カチャカチャカチャカチャ・・・。

 裕太ゆうたがパソコンで検索をかけて調べ始めた。



 カチャッ!

 「これは?」


 「どれどれ?」

 

 「『サルがやって来て、マッチをった!恐怖の『増田養牛場ますだようぎゅうじょう』だって。』


 「・・・動画はなくて、ロールテロップに音声が重ねられてる。」


 「見てみようぜ!」



 『牛インフルエンザの感染予防のため、養牛場の焼却処分に踏み切った『増田養牛場』。養牛場に灯油を撒こうと、作業員がバケツに入れた灯油を運んでいると、突然、先週、某県の『おさるパーク』から逃げ出したと思われる複数のサルが、牛舎ぎゅうしゃかげから飛び出し、作業員に襲い掛かった。』


 「ぎえ~。」



 『その際、二匹のサルは作業員の両手からバケツを奪い、灯油を作業員に浴びせた。』


 「うわ~。なんか『田浦養鶏場』と同じような状況だな。」



 『その後、観光客からくすねたと思われるマッチを持って笑みを浮かべたサルが現れ、マッチ箱から器用にマッチを一本取り出して、箱に擦りつけて火を点け、灯油をかけられた作業員に、火の点いたマッチを投げた。』


 「ほとんど一緒じゃん!」



 『作業員は、たちまち火だるまになった。近くにいた作業員が慌てて救急車を呼ぶと同時に、サルを追い払って消火しようとし、水道のところへ走った。』


 「作業員の人は。水道の在りかが分かってるからね。」



 『すると、他のサルが水道の蛇口に取り付けられていたホースリールを取り外して持ち逃げした。作業員はバケツを使って、水道と火だるまとを往復して消火にあたるしかなかった。』


 「咄嗟とっさに大勢の人って集まらないもんな。」


 「バケツリレーをするには、相当な人数が必要だよな。」



 『バケツ一杯の水で、火が消えることはなかった。火だるまになった作業員は暴れていたが、力尽きたのか、その場に倒れてしまった。バケツで水を運んでかけ続けるも、なかなか火は消えなかった。』


 「バケツ一杯ずつの水、間隔空けてかけても、なかなか・・・。」



 『事情を把握した救急隊は、消防車と共に到着、火はようやく消し止められた。』


 「おおお、さすが。」



 『その後、作業員は病院に搬送されたが、救急車内ですでに息がなく、心肺蘇生を施すにも、患者の皮膚表面温度がなかなか接触可能なレベルにまで下がらなかったため、器具を使用して、気道確保しようとしたが、口腔内が高温で癒着し、気道は完全にふさがっていた、という。』


 「呼吸が出来ないとなると、キツイよな・・・。」



 『作業員は救急車内ですでに息を引き取っていたが、病院に搬送。遺族が呼ばれ、死亡を確認した、という。』

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