犠牲者の呪術 第13章

 重徳しげのりのホームページにコメントがあった。


 『殺して欲しい人がいるんですけど。相談に乗ってもらえますか?』


 重徳は、偽名で構わないので、自分のホームページ上で連絡を密に取りあいましょう、と返信した。



 その後も、重徳の『死ヲモッテ、償ワセヨウ、ホトトギス』というホームページには、殺害を希望する人々から匿名とくめいで依頼が殺到した。




 「ははははは。世の中、死んで欲しい人が居る人たちで溢れかえっているんだな!」




 重徳は、『殺害ビジネス』を立ち上げることに成功した。



 依頼者に、オンライン対話の出来るアカウントとパスワードを伝え、オンラインで対話した。


 重徳が作成した銀行口座への振り込みを確認次第、呪術による殺害を実行した。


 相談料は無料だが、依頼は一件十万円から。


 重徳は、たった一か月で百五十万円を手に入れた。


◇◇◇


 重徳は相変わらず『不登校』を続けた。


 「嫌な思いをして学校なんかに行ったって、仕事をするような年齢になれば経済奴隷になるのがオチだ。優秀な人間ほど、多額な税金を取られる人生を送らざるを得なくなる。」


 重徳が、医学部現役合格を目指していた理由は、早く医師になって、早く金を稼ぎたかったからだ。

 実家を出て、一人暮らしをし、ゆくゆくは豪邸を購入して一人で住みたいと思っているので、勉強を頑張っていたのだ。



 もう一つの目的は、合法的に人を殺めることであった。



 つまり、『闇の力』を手に入れた重徳は、医師になる必要がなくなったのである。




 「この世は、お金さえあれば幸せに生きられるように作られている。僕は、両親が死んだ後でも、十分豊かに暮らせるように、金持ちになりたいんだ。これからは、この『殺害ビジネス』で、人を殺しながら大金持ちになっていける。愉快に過ごしながら、一生安泰だ!」




 重徳は、自宅に一人で居る午後三時、狂ったように笑いだした。



 



 重徳のホームページは、凄まじい依頼の件数で溢れていた。


 「お金がない、って言いながらも、自分が殺したい人が確実に殺せるなら、こんな大金をも簡単に支払うような人たちで、世の中は溢れかえっているんだ!」




 『わんだほーえくすぺりえんす』の登録者のうち、多数のコミュニティが、同じように怪奇現象を追究している。


 『わんだほーえくすぺりえんす』の動画を見た彼らも、自分たちのアカウントに重徳の特集の動画のリンクを貼ったり、『わんだほーえくすぺりえんす』に、重徳とアクセスしたい、とのコメントを寄せたりしていた。


 重徳は、仮面とカツラをつけてマスクをした上で、オンライン上で連絡を取り合った。


 彼らはその映像を編集して、ソーシャルメディアで流したり拡散したりした。




 その影響か、重徳にならって、夜の工場街をうろつく者が、大勢現れ始めた。


 「おれも『ホトトギス』みたいに、『殺害ビジネス』を立ち上げるんだ!」

 「『闇の力』、欲しいなあ~。」


 彼らは毎晩、工場街を散歩した。



 工場街を散歩する人間が増えてくると、工場街の歴史を知らない『おでん屋台』や『ラーメン屋台』、『焼き鳥屋台』が、工場街で散見されるようになった。


 そのうち、暴力団の系列の『たこ焼き屋』『お好み焼き屋』、さらには『りんご飴』『じゃがバター醤油』の屋台なども現れ、ついには『金魚すくい』『水ヨーヨー』『射的』なども現れ、工場街は、毎晩すっかり『祭』のようになってしまった。


 すると、工場街の歴史を知らない若者たちやカップルなども、毎晩浴衣を着て現れ、すっかり賑やかになってしまった工場街の幽霊たちは、退散してしまったのだった。



 逝き場を失った工場街の幽霊たちは、他の幽霊と同様、重徳に憑りつくことにした。



 重徳の身体は、幽霊たちの『パワースポット』になってしまった。




 重徳のホームページ『死ヲモッテ、償ワセヨウ、ホトトギス』へのアクセス数が、爆発的に増えた。


 コメント欄は、殺害依頼で溢れかえっていた。


 


 重徳は、いよいよ忙しくなってきた。

 

 ついに相談の予約が一年先まで取れない、というところまで来ていた。


 しかし、ところどころに、余日を設けた。



 それは、社会的ステータスの高い人物や、大金持ちからの依頼が殺到し始めたからである。



 彼らには一件につき、百万円から商売が成り立つ。



 そのようなエグゼクティブやセレブリティから依頼があれば、余日に予定を組み込んだ。




 重徳は、仕事で忙しい両親とは、ほぼ書面上のやりとりだけで連絡を取っていた。


 重徳は、東京の有名私大の医学部に現役合格した、と両親に嘘をつき、日吉で一人暮らしを始めることにした。


 まだ二十歳前なので、不動産を購入することは控えておき、保証人を両親の名前にして学生らしいアパートを借りて、所在は両親にも伝えた、


 引っ越した関係で、幼稚園来からの付き合いだった柿生裕太かきおゆうたとも疎遠になっていった。


◇◇◇


 重徳が十九歳になった頃。


 毎日のように『闇の声』との対話は続いていたが、重徳が殺害ビジネスで成功していることが『闇の世界』で有名になった。


 重徳は十九歳で、『闇の世界』の幹部に上り詰めた。



 『闇の世界』の幹部に上り詰めた重徳の『闇の力』はさらに強靭になり、呪いをかけた瞬間、重徳に呪われた人間が即死する、というところまで高まった。


 重徳は、幽霊たちによって体調管理を万全にしてもらえることになった。




 銀行の通帳には毎日のように大金が転がり込む、忙しい生活を送り続けることになった。



 『・・・ヒカリヲウバワレタモノ・・・ヤミガミカタスル・・・。』


 『キキキキキキキキキキキキ。』


 

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