犠牲者の呪術 第2章
「カイト、今回の期末テスト対決も、残念だったな。」
「まだまだなのかな。数学のテストの点数で、クラスで一位を取れるようになるには。シゲノリを抜くことは、できないのかな。」
皆川魁斗は、今回の数学の定期テストでもクラスで一位だった
「・・・僕は最近、『引き寄せの法則』にはまってんだ。」
智樹が、魁斗に言った。
「『引き寄せの法則』?」
「引き寄せが上達すると、どんな願望も実現する、と言われているんだ。」
「・・・へえ~。」
「一見無理かな、と思うような願いであっても、引き寄せのやり方さえ間違えなければ、いずれ自分のものとして具現化してくるんだって。」
「ふう~ん。」
「引き寄せの達人が、自分の思い通りの人生を叶えることが出来る、と豪語しているよ。人生の運気が好転して、人生を成功させているらしいよ。」
「・・・その『引き寄せの法則』で、俺にも、シゲノリを抜くことができるのかな?」
「出来るさ!一緒に『引き寄せの法則』のオンライン講座、受講してみないか?」
◇◇◇
その後、佐々木智樹に誘われた皆川魁斗は、『引き寄せの法則』のオンライン講座を、智樹の家で一緒に受講することになった。
智樹は魁斗に数学を教えてもらいたくもあったので、講座が終わると、数学のわからないところを魁斗に聞いていた。
「僕が誘ったんだから、受講料は僕が一緒に払うよ。その代わり、これからも数学の家庭教師、してほしいんだけどな。」
「あははは。それにしても、マンダラみたいな動画を見ながら、ああいう音楽を聴くことで、『引き寄せ力』が高まるのか?」
「あの動画や音楽の周波数は、人間の精神を『浄化』して『波動を高める』と言われているんだよ。」
「『浄化』って何?」
「簡単に言うと、許したり、忘れたりすることかな。心を暗くしているネガティブな感情を油汚れに
「へえ~。」
「過去の失敗した経験や、それが元で生じた劣等感や自己不信感、嫉妬心や後悔などのマイナスの感情を、完全に手放すことから始めるんだ。」
「自分自身に生じた、ネガティブな感情を『浄化』すること、なんだね。」
「例えば、白い洋服に付いたコーヒーのシミは、目に見えてわかりやすいから、シミ抜き剤かなんかでシミを取ろうとするだろ?だけど、感情って目には見えないからわかりづらいよね。わかりづらいんだけど、何か心にグッとくる出来事があると、感情が際限なく湧いて来てしまう場合もあるだろ?そういう時には、他人から指摘されたり、自分でも気付いたり出来る。だけど、そういうわかりやすい感情ばかりを実感して生きているわけじゃない。だからこうして、判りづらいものも含めた感情の『浄化』を、意識して行う必要があるんだ。例えば、運動不足にならないように定期的に体を動かすように、心の感情面も定期的にメンテナンスしていく必要があるんだよ。」
「感情面のメンテナンスをまめに行うことで、『引き寄せ力』が高まるのか?」
「そうだよ。感情の『浄化』を常日頃から行うことによって、『引き寄せ力』が高まって、願望が実現しやすくなると言われているよ。」
「なるほどね。だんだん興味が湧いてきたよ。」
「それから、潜在意識を完全に書き換えることが必要だ。物事を全てポジティブな側面から捉える訓練をするんだ。ポジティブに捉えることで『波動』が高まっていくんだよ。そうすると、目に見えない世界からの目に見えない力による凄まじい後押しによって、願望が実現するんだよ。」
「へえ~。というと、願望実現させてくれるものの正体は、その『目に見えない力』というわけなんだね。」
「そうなんだ!自分に自信を持てなくなるような、後ろ暗い行動は一切合切止めて、自分の能力や人間性を百パーセント信じきること!そして自分を好きになること!それから・・・願望実現した後の感情に
「願望実現した後の感情?それって、どういうこと?」
「現状はまだ、願望実現の前だよね。だから願望実現した後の状態ではない。」
「だよね。」
「ところが、願望成就後の現実を『引き寄せ』るためには、すでに願望が叶った後の状態になりきることが必要なんだ。願望が叶った自分になれた、と仮定して、その感情に浸ってしまう。そうすることによって、その感情に合わせた現実が、後からついてくる、というわけ。」
「へえ~。『感情』が先で、『現実』が後か。なんだか、面白いね。」
「それは、クレジットカードで商品を買うことと似ているかな。現金がないから、買えないんじゃなくて、クレジットカードで購入すると、先に商品を届けてもらえるだろ?後から現金を支払うことになったとしても、クレジットカードで支払いが完了したとしたら、その時点で同じことになるだろ?」
「うん。」
「『現金を支払って商品を手にした』というのと『商品を手にした後で現金を支払った』というのと、順序が違ってはいるけど、最終的には同じことになるよね。」
「まあ、そうだね。」
「『事実』を『現金の支払い』に
「じゃ、じゃあ、こんな感じかな・・・俺はついに、数学のテストで百点を取る。」
「違う違う、『百点を取った』だよ。過去形にするんだ。」
「あ、そうかそうか、すでに『百点をとった』後っていう設定だった。・・・慣れるまで難しいな。」
「起きてもいない事実を体験した時の感情って、どうやって湧かせたらいいのかって、確かに戸惑うよね。」
「だけど、・・・そうだなあ。・・・・・・俺が百点をとって、シゲノリが九十点で・・・俺が一番に、名を読み上げられて・・・前に行って・・・先生に褒められて・・・前からシゲノリの表情を見て、ニヤッと笑って、勝利を実感した。勝ち誇っている・・・。最高に気持ちいい。・・・長かった・・・。シゲノリを抜くまでの道のりは・・・長かったな・・・。」
「いい感じじゃないか!その調子だよ!そうやって、すでに願望が叶った感情に、俳優さんにでもなった気分になって、浸るんだよ、どっぷりと。」
「どっぷりと、だね。」
「そうだよ。そうやって『引き寄せの法則』を上手に使っていきながら、数学の勉強をしていけば、・・・カイトの実力なら次のテストで百点取れるんじゃないか?」
「そうかなあ・・・。」
「自分を信じること!カイトには、無限の能力があるんだよ!」
「ありがとう。智樹。なんか元気が出てきたよ。」
「ところでさ、数学の宿題で、わからないところがあるんだけど、教えてもらえる?」
「いいよ。教えることも、自分の勉強になるからね。」
その日の夜から、魁斗はコピーさせてもらったマンダラの動画を見ながら波動を高める周波数の音楽を聴き始めた。
スポーツ選手の『イメージトレーニング』のように、自分が百点を取った姿を想像し、自分が笑って、重徳が落ち込む表情になることを想像した。
魁斗が重徳と競っているのは、数学のテストの点数だけではなかった。
重徳は運動神経も良い。
体育ではいつも活躍をしていて、目立っている。
魁斗は、重徳の様に、スポーツも出来るようになりたい、と思っていた。
なので、重徳よりも体育の球技で、多く得点できた状態を想像した。
数学と体育の事だけではなかった。
クラスの女子のほとんどが、重徳に憧れていた。
特に、
この女子は勝ち気で気が強く、ヒステリックなところはあるが、しなやかで長い髪がとても美しい女子高校生である。
時々、駅の近くでナンパされることもあるという。それほどの
魁斗は、美津子が
美津子と付き合い、土日にデートしている様子を想像した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます