捕食 第8章

 世界各地でインフルエンザが猛威を振るう中、肉食動物が人間を捕食ほしょくする事件が相次いでいた。

 日本でも、特派員のテレビ中継の最中に、肉食動物が人々を捕食するアクシデントが発生し、テレビ視聴者は衝撃を受けた。


 世界各国の首脳陣は、臨時の緊急オンライン会議を開催、インフルエンザ感染拡大防止を国際的な急務とし、軍隊や自衛隊などによる適切な山焼きや野焼き、感染動物殺害のための”毒物散布”を推進していくことで一致した。


 しかし、”毒物散布”に関しては、食品業界や経済界に打撃を与えかねないとして、マスメディアに情報を流させぬよう、せておくことでも一致した。


 特に、海洋に”毒物”を散布していることについては、漁業関係者には絶対に公表しないよう、極秘とされた。


 人々は、山焼きのニュースは目の当たりに出来たが、”毒物散布”が行われていることを知らずに、従来通り、食材を買っていた。


◇◇◇


 『次のニュースです。工事現場でアクシデントです。無人のブルドーザーが突然動き出し、逃げ遅れた作業員がかれました。その後、病院に搬送されたものの、死亡が確認されました。』



 「・・・これも『怪奇現象』だな。」


 「僕たちの企画に入れておこうか。」



 『次のニュースです。遠隔操作をしていない自動運転車が暴走し、周辺に居た八人が轢かれました。轢かれた八人は、その場で死亡が確認されました。』


 「なんだか、『怪奇現象』だらけになってきてるな。」



 「僕たちの企画も山積み、大忙しだね。・・・あれっ?」


 「ゆーた。どうしたんだ?」




 「パソコンの文字が・・・キーボードの表示と違う・・・。」




 「ん?どういうこと?」




 「僕はローマ字変換にしてるんだけど、今、"TE"って押したんだけど、出てきた文字は”ひ”だ・・・。」



 「パソコンかキーボードが、壊れたんじゃないか?」


 「もう一度、やってみる。」


 ゆーたはもう一度、"T"、"E"とキーボードを打ってみた。


 「・・・こんどは、”あ”って出た・・・。」


◇◇◇


 『次のニュースです。飲食店で使用している受付ロボットが客に近寄り、客の首を絞めた、とのことです。客は強い力で首を絞められたことにより、その場で死亡しました。』


 「・・・どうなっているんだ?」


 「僕のパソコン、キーボードも、どうしちゃったんだろう?これじゃあ、『わんだほーえくすぺりえんす』の動画、パソコンで作れないじゃないか!」




 「ちょっと、何?」


 「どうしたの?お母さん。」


 「家計簿の計算してたのよ。今月の家計費の合計出そうと思って。そしたら、計算機、見てみて?」


 「・・・うわーすごい!・・・・・・十桁だ。」


 「十桁ってことは、十億円以上か。・・・もう一回やってみたら?」


 「おかしいわね。いつもは五桁か、使った月だって六桁までしかいかなかったのに。」


 「十億使った生活なんてしていないもんな。」


 「・・・僕のパソコンといい、計算機といい、どうしちゃったんだろう・・・。」


◇◇◇


 『次のニュースです。商社に勤務していたオペレーターの女性が自殺しました。』



 「これから洗濯するから。美佐男みさお裕太ゆうた、洗濯物は部屋にある洗濯物、全部出して頂戴ちょうだい。」


 「わかった。」


 「はーい。」



 『亡くなった女性の遺族によりますと、女性が勤める商社で販売していた家電製品が、購入して使用後すぐに壊れる、ということが相次ぎ、クレーム対応に追われていた女性は、なぜ、このようなことが続くのか、とノイローゼ気味になっていた、とのことです。』




 「キャー!」




 「どうしたの?お母さん。」


 「せ、せ、洗濯機が・・・。」



 美佐男が洗濯機の中を見てみると、衣類は全て切り刻まれ、洗剤と柔軟剤を入れた水が、ヘドロを混ぜたようににごっていた。



 「洗濯機・・・な、何があったのかしら・・・。」



 「・・・とりあえず、手洗濯に切り替えるしかないか。裕太、自分のものは、自分で洗おう。」


 「わ、わかった・・・。」


◇◇◇



 柿生家の休日、いつものように家族で夕食を摂っていた。


 「今日は、お母さんの手作りハンバーグよ!」


 「バーガーヘルプ使ったんだろ?」


 「使ったわよ!だけど、玉ねぎたっぷり、シャッキシャキで美味しいわよ~!」


 「わーい!いっただっきまーす!」




 ドシャーン‼




 「ん?今、外で、何か凄い音、しなかったか?」


 「何があったのかしら。あなた、見てきてよ。」


 「わかった。ちょっと見てくる。」


 美佐男と裕太の父親が、物音の正体を探りに外に出た。



 「ハンバーグ冷めちゃうから、早く食べなさい。」


 「はーい。」





 ガラッ。



 「あなた、おかえり。どうだった?」


 「そこの県道で、事故だ。」


 「事故?」


 「交通事故。運転手は無事だったみたいで、話し合ってたよ。道塞ふさいじゃってる。警察は呼んであると思うよ。」




 「おかわり!」


 裕太がご飯のおかわりをした。


 「はいはい、ハンバーグ、美味しい?」


 「美味しいよ!ご飯、おかわり!」



 パカッ。



 「キャッ!」



 「どうしたの?お母さん。」


 美佐男が駆け寄り、炊飯器の中を覗いた。



 炊飯器は、水を含んだ砂で埋まっていた。

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