幻魚 第4章
深夜の『青木ヶ原樹海』。
シャワシャワシャワシャワシャワシャワ・・・。
サクッ・・・サクサクッ・・・。
シャラララララ・・・。
樹海の木々が、風で
阿修羅の手が、風のそよぐ方へ流されて揺れる。
木の幹からところどころ、月の光が覗いて、幽霊の目玉になった。
目玉が四つある幽霊・・・目玉が七つある幽霊・・・。
『グャアオッ!』
風が吹いて、幽霊の口が大きくなった。
『グワアー!』
幽霊の顔が、口が、噛まれたら痛そうなギザギザの歯が、だんだん近づいてくる。
(あ、ああ、食べられてしまう・・・。)
「はっ!」
「あれっ・・・ここは・・・。」
辺りを見回すと、・・・自分の部屋だ。
「・・・そんな、ばかな!」
森實は、自分の部屋のベッドの上で、仰向けになっていた。
「ヒィッ!」
肩が撫でられているかのような感触を感じた。
森實を取り囲むようにして、大勢の幽霊がいるかのように、姿形は見えないモノたちでガヤガヤしていた。
『オキタ!』
『オキタゾ!』
「・・・こ、声が、聞こえる・・・。私しかいないのに・・・。」
『ソンナニ・・・死ニタイノカ?』
「・・・はい。出来るなら。なるべく早く・・・殺してください。」
姿なき、幽霊のようなモノたちは、再びガヤガヤし始めた。
『ワカッタ。ソノマエニ、ヒトツ、ジョウケンヲ、ノンデモラオウ。』
「条件・・・ですか。・・・その条件を満たせば、私は死ねるんですね。」
『死』というプレゼントを
「どうすれば、私は死ねるんですか?」
大きくて太い声が言った。
『アイシアエル・・・ヒトヲ・・・サガシナサイ・・・。』
高くて優しい声が言った。
『アイシアウ・・・スガタヲ・・・ミセテ・・・。』
若く張りのある声が言った。
『キョウリョクハ・・・オシマナイ。』
すると、幽霊のようなモノたちのざわめきが、消えた。
「・・・愛し合える人を・・・探して、愛し合う姿を見せれば、死ねるんだな。」
◇◇◇
森實は、とりあえず、部屋の電気を
時刻は、午前四時だった。
首を吊って死んだはずの自分が、自宅のベッドで目覚めた。
この前と同じようだ。
身体も、どこも汚れていないし、いつも通りだ。
「しかし、実体のない幽霊のようなモノの声を、信用してもいいのだろうか。本当に、愛する人を見つけて、愛する姿を見せれば、死ねるのだろうか。」
◇◇◇
『青木ヶ原樹海』に二度行って首吊り自殺を試みたが、何故か自宅のベッドで目覚めた。
なので、森實は、死に方を変えることにした。
シフトを組むうえでも、頻繁に二連休を取ると、図々しい人だと思われてしまう。
なので、自宅から近いところで、死を試みることにした。
近所の
かなり古いビルで、所有者が
もちろん、屋上に続く階段にも自由に入れるし、屋上の扉にも鍵がかかっていない。
親に黙ってイチャつく、未成年のカップルなどもいるらしい。
隠れスポットとして、一部の若者には知られた場所である、と、以前一緒に仕事をした高校生の男の子の情報で知ったビルである。
「ここだ。私用では始めて来たな。」
早速、廃ビルの中に入った。
階段を上がり、屋上へ急いだ。
「今度こそ、死ねる。」
誰も居ない午前三時半。
廃ビルの屋上から下を眺めた森實は、そのまま飛び降りた。
グシャッ!
『・・・ソンナニ、死ニタイノカ。』
「・・・ん?あ、あれ?」
森實は、また自分の部屋に居た。
ベッドの上だ。
「・・・どうして・・・。」
『ジョウケンヲ・・・ミタサナケレバ・・・ナニヲシテモ・・・死ネナイ。』
「・・・。」
◇◇◇
森實は、死を諦めなかった。
次の休みの前日の深夜、同じ廃ビルにやってきた。
「今度こそ。」
屋上に、足早に上がった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
屋上から、下を見下ろす。
「今度こそ、さようなら。」
飛び降りた。
グシャッ!
『・・・ソンナニ、死ニタイノカ。』
「・・・あれ、また、部屋だ・・・。」
目覚めると、自分の部屋の中だ。
「・・・はぁ、もう何回目なんだろう・・・。」
『ジョウケンヲ・・・ミタサナケレバ・・・ナニヲシテモ・・・死ネナイ。』
また、幽霊のようなモノの声が聞こえた。
(この声が言っていることは、本当のことなのかも知れない・・・。)
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