第15話 原作のその後2
ウルは獣化のスキルにより10メートル以上の狼へと姿を変える。ウルが姿を変えるとミライ家の屋敷はその体躯を抑えることができず屋敷は崩壊した。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉーん!」
ウルの雄叫びが大地を揺らす。
まるで泣き叫んでいるかのように高く響く声であった。
ガラッ
勇者が瓦礫から出てきた。流石に勇者だけあって身体は丈夫であった。だが、勇者でない者には被害は甚大だった。
「ハニエル‼︎無事か⁈」
屋敷が崩れる際に、咄嗟に正妻のハニエルを庇おうとしたがそれは遅かった。既にハニエルの身体は瓦礫によって潰されてしまい即死していた。
勇者はハニエルの亡骸を見て顔を歪めるが、なんとか頭を冷やす。まだ戦いは続いているからだ。勇者は姿を変えたウルを見上げる。
「なんなんだ、あれは…あれがウルなのか?獣化は身体を獣に変えるだけのスキルだった筈、一体どうなっているんだ!」
勇者が状況に戸惑いをみせるが、ウルは待ってくれない。理性を失ったウルは本能、欲望によって行動する。ウルの望みは、アブソリュートを殺した奴らを自分が死ぬまでを虐殺し続けること。主犯の勇者をウルは決して逃さない。
ウルは勇者に向かって拳を放つ。その破壊力は一撃で周り一帯に被害を及ぼすほどだ。
勇者は初めてダメージを受け膝をつく。
「や、やばい!この力桁が違う…そうだ!皆んなは⁈アブソリュートの時みたいに協力して倒すんだ。マリアとアリシアは屋敷にいたはずだ‼︎皆んな居たら返事をしてくれ!」
ホーリーアウト
勇者はもしかしたら瓦礫に埋もれている可能性を考え人以外を攻撃の対象にし瓦礫を吹き飛ばした。するとそこにはウルに殺された仲間や屋敷の者達の姿があった。
「あ、アリシア…マリア…。そんな、なんて酷いことを…」
首を刎ねられたマリア
四肢をもがれ苦しんで死んだアリシア
そして恐らくエリザも…
勇者は変わり果てた仲間の姿を見て絶望した。何故、仲間達が殺されなくちゃならなかったのか分からなかった。
そしてこの怒りが自分に向いていることに気づき、急いでウルの誤解を解こうとする
「ウル!違うんだ、俺達は君を助けようとしたんだ。アブソリュートは悪いやつだったんだ!気づいてくれ!」
勇者は理性を失って歯止めの効かないウルの逆鱗に触れた。アブソリュートの名前に反応し、さらにウルの攻撃は苛烈さを増す。
ウルは何度もその巨躯から拳や蹴りを繰り出す。勇者は一撃を避けてもその余波は受けてしまい衝撃から立ちなおせず2発目から必ず当たってしまう。勇者はもうボロボロであった。
「ウ、ウル!もう、降参だ!こんな戦いは止めよう。アブソリュートのことは謝るからっ!」
ウルは攻撃をやめない。勇者を何度も何度も怒りのままに殴りつける。
「…もう、…止めて…。死んぢゃう…」
ウルは殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
勇者の意識が遠のいていく。
最後に走馬灯が頭に流れる懐かしい初恋の思い出だった。それは王都で行われた武闘大会で初めて会った獣人の少女だった。
(…俺は君が好きだった。ずっとアブソリュートの側にいる君を見たくなかったんだ…)
ここに来てようやく本心を知った勇者だったがそこで意識が途切れた。
勇者から何も聞こえなくなった。
(あれ声が聞こえなくなった?まさか逃げたの!許さない!)
ウルは周りの家や逃げ惑う民を踏み潰しながら勇者を探した。
だが、勇者は既に死んでいた。
理性が飛んでいる今のウルにはそれが理解できていなかった。勇者が、死んでいる事に気づくころには既にミライ領は壊滅していた。
圧倒的な数でアブソリュートに挑んだ勇者の最後は圧倒的な個の力によって幕を下ろした
勇者アルト死亡
勇者が死んだ。だが、まだ終わらない…。
勇者と共に戦った貴族に兵士、ミカエル王が残っている。ウルは次の敵に向かって動き出した。
(全員皆殺しなの… )
ライナナ国王城
王城では勇者の死や謎の化け物が王都に向かっている状況で混乱を極めていた。
「報告します!化け物はミライ領で動いた後周辺の貴族達や領民を虐殺し、王都に向かっています。ミカエル王いかがされますか?」
ミカエルは怒りで机を殴りつける。
(くそっ!なんなんだ⁉︎その化け物は…勇者でも勝てなかったんだろ、勝てるのか?いや、アブソリュートを殺す時に学んだではないか。強い相手は数で対抗することを‼︎)
「総員!迎撃の準備をしろ。アブソリュートととの戦いを思い出せ!数で対抗するんだ」
「「はっ‼︎」」
王国軍総勢8万が集結した。
かのアブソリュートとの戦いを乗り越えた者たちだ士気が高い。ミカエル王の指示で軍はまとまったかのように思えたが、それは圧倒的な個の存在で打ちのめされた。
10メートルを超える狼の姿のウルが王都から確認される。
「なんだ…あの化け物は⁉︎」
王国軍に動揺がはしる。アブソリュートは強かったが人間であった。だが、あれはただの化け物である。
「ひ、怯むなー!剣を構えよっ‼︎国を守れっ突撃ー‼︎」
「「わぁぁぁぁぁ‼︎」」
この王国軍の雄叫びを合図に王国軍とウルの対決が始まった。
勢いよくウルに向かって突撃するがウルが足で勢いよく蹴り上げるだけで数千の兵士達が吹き飛ばされる。
「なんだあの力は…」
ウルの圧倒的な力の前に王国軍の指揮は挫かれる。
王国軍は数はいるが先のアブソリュートとの戦いで実力者は軒並み戦死していた。
今いるのは殆どが後方に待機していた経験の浅いもの達なのだ。これではウルを止めることはできない。後はただの虐殺だった。
ウルは音を奏でるように兵士を殺していった。
戦場には兵士達の悲鳴が鳴り響く。
(ご主人様…この歓声あなたに届けます!)
8万の悲鳴が戦場を満たしていく。この悲鳴は親愛なる主人に贈るウルからの、レクイエムだった。
このレクイエムの演奏は最後の1人になるまで続いた。
戦場の悲鳴が鳴り止み、その場に立っているのはウルだけだった。ウルの身体に限界が来て獣化のスキルが解かれる。ウルは元の人型に戻った。消耗が激しく今は立つことができない。
「少し、休んだら次は王城…。
ご主人様。全て片付いたらすぐそちらに行きます…」
愛しい主人の顔を思い浮かべあと少しだけ頑張ろうと思うのだった。
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