第7話 奴隷視点

マリア・ステラ視点


 私マリア・ステラは貴族の生まれだった。

 だが、分家の叔父夫婦に両親と弟が殺されてしまい、まだ女で若かった私は奴隷商に売られた。

騎士としての将来が約束され、優しい両親や可愛い弟のいる日常は壊されてしまった。



 私マリア・ステラはアーク家の子息アブソリュート・アークに買われ奴隷兼侍女として働くことになった。


 初めて見た時は、死んだ弟と同じくらいの歳なのに非常に嫌な感じのする子供だと思った。それがまさかあの、アーク家のものだったとは…アーク家はライナナ国のグレーな商売を担っている貴族達のトップであり裏ではかなりヤバいことをしているとの話だった。


 正直初めはどんな汚いことをさせられるのかと思ったが、仕事内容は至って普通の侍女であった。先輩メイドのミトさん(48才)もアーク家の者とは思えないくらいに優しくとても良くしてもらっている。


 だが、私はアブソリュートもといご主人様の奴隷なので比較的に彼と過ごすことが多くなる。その時間だけが苦痛だった。嫌悪している相手の世話を焼く等したくなかったが奴隷なので逆らうことも出来ず仕方なく従っている。


 だが、ご主人様の生活を見るとあのアーク家の子息とは思えないくらい大人しいものだった。言葉の端々には傲慢さが窺え、表情も基本的に無表情で偶に見せる獰猛な顔が印象的だが、使用人や傘下の貴族に手をあげたことはなかった。

 花瓶を割ってしまった同じ奴隷のウルに叱りつけるのではなく真っ先に回復魔法を使ったのも意外だった。


(あんなに嫌な奴みたいな雰囲気を出してるのに何か調子が狂うわね…)


 マリアにはアブソリュートが理解出来なかった。


 マリアがアーク家に来てしばらく経った頃、先輩メイドのミトさんに呼び出され、ミトの辞職と今後のアブソリュートの担当を任せる事が伝えられた。慣れてきたらそのまま私をミトさんの後釜に据えられることはあらかじめ聞いていたがこんなにも早いとは思わなかった。


「マリアは仕事を覚えるのも早かったし、ウルももう家事は一通りできるようになったからもう私の役目は終わったわ。アブソリュート様の事をお願いね」


 最後にずっと気になってた事を聞いてみた。


「あの、ご主人様の事怖くはないのですか?」


 ミトさんは悲しそうに語り出した。


「…怖くないって言うと嘘になるわね。でもね、私の母が亡くなった時にアブソリュート様は静かに泣いてくれたの。そして屋敷に勤めて暫くしてアブソリュート様のスキルの事を聞いたの。そうしたら恐怖より同情の気持ちが強くなっちゃって。きっとアーク家の使用人は皆んな同じ気持ちよ」


「スキルですか?初耳ですね」


 聞いていないぞ、と少し遠回しに攻めてみる


「正式にアブソリュート様の侍女になるのだからこれから伝えるわ。でも、貴女はアブソリュート様のスキルを受けても決して顔や態度には出さなかったから伝えるかどうかを迷ったのもあるわ…アーク家の使用人は皆んなアブソリュート様に同情してるから、どうしても腫れ物を扱うようになってしまったの。

それでまだ幼かったアブソリュート様は空気に敏感になってあまり笑わなくなってしまった。

私達大人の責任よ…まだ若い貴女に頼むのも酷だと分かっているわ。でも、貴女は変わらずアブソリュート様と接してあげて…」


 そしてマリアは、アブソリュートについて、ミトから全て伝えられた。



(まさか…スキルで印象が最悪になるなんて…)


 マリアは自らの主人の事を余す事なく伝えられてた。

 アブソリュートのスキルのこと。スキルのせいで友人がこれまでいなかった事。最近、ようやく理解してくれる友人ができたこと。


(沢山傷ついてきたのね…まだ幼いのに)


 マリアはかつての弟と同じくらいの年のアブソリュートの現状を嘆いていた。


 そしてマリアはアブソリュートの部屋に行き、ミトから仕事を引き継いだことを伝える。


「ミト様に代わりこれからは私がご主人様のお世話をさせていただきます。それで…あの、引き継ぎにあたりご主人様のスキルの事を教えて頂きました。」


 ご主人様は一度私の顔をみて、


「そうか…」


 それだけ言い、また本に目を通し始めた。


「…お辛くはないのですか?」


 聞かなくてもいい事を聞いてしまった。マリアは少し後悔するが時はもう戻らない、ご主人様がそれに答える。


「さあな、別に他人の目等どうでもいい。全ての人に嫌われようと私はアブソリュート・アークだ。それだけは変わらん。他人の目で私が変わることなどない、決してな」


(凄い覚悟だ。そして悲しくもある、まだ幼いご主人様にここまで覚悟させたことが。きっとこれからもご主人様は傷つきながら生きていくのね…そんなのあんまりじゃない!)


 もう初めて会った時の嫌悪感は感じない。今は傷つきながらも、その傷をみないように強がるご主人様が悲しくも愛おしく感じた。

 かつて生意気盛りだった弟と姿が重なる


 気がつくと私はご主人様を後ろから抱きしめていた。


「おい、貴様何をしている…早く離れろ」


 私は腕を緩めない。上手い具合にホールド出来たので相手の方が力が上でも決して抜け出せない。ご主人様もその事がわかったのか抵抗が弱まった。


「ご主人様、これからは私が奴隷として、侍女として姉として家族として貴方の側にいます。決して1人になんかさせませんから!」


「もう分かったから…いいから離せ」


これからはこの不器用で傷ついた少年の心を癒やしていこうそう誓ったのだった。


「はぁ…お前の相手は疲れた。もう風呂に入って休む。風呂の準備をしろ…」


「…一緒にはいりますか?」


「入らん!」


 この後マリアが風呂に乱入し、めちゃくちゃ一緒に入った。



マリア・ステラ

15才


スキル

・ナイト…物理攻撃に対して強くなる

     自身の身体能力が上がる


ステータス

レベル :30

身体能力:70

魔力 :35

頭脳  :47


習得魔法

技術

剣術、理想の姉







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