第13話 奴隷視点2

 ウルは狼族のとある家庭の22番目の子供として生まれた。だが、強いスキルの子を望んでいた両親にはウルは必要とされず7歳の時に奴隷商に売られてしまった。


「ウル、売られちゃった…買われるなら優しい人がいいなぁ」


 ウルは現状を嘆く。


 そしてアブソリュートとウルは出会った。初対面のウルのアブソリュートへの印象は最悪だった。


 なっ⁈なんなの、あの怖い人。それにアーク家ってウル殺されちゃうの⁉︎


ウルはそのままアブソリュートに購入され、ウルは恐怖しながらドナドナされていった。だが、ウルが思ったよりアーク家の環境は良かった。


(最初は怖かったけどアーク家は案外いい所だったの!ご飯は美味しいし、仕事を教えてくれるミトさん(48)や同じ奴隷のマリアも優しいし、怖いご主人様も偶にお菓子をくれる!私お菓子なんて生まれて初めて食べたの)


 高齢者しかいないアーク家ではウルの存在はアイドル化しつつあった。だが、いいことばかり起こるわけもなかった。


 パリンっ‼︎


「どっどうしよう‼︎高そうな花瓶を割っちゃった!」


 ウルは平和な環境のアーク家に気を緩めてしまいミスをしてしまった。そして割れた花瓶を集めようとガラスの破片を手で集める。


「痛っ!」


気づけばウルの手はガラスで切れ血が止まらなかった。


 ウルはパニックになり、どうしらよいのか分からなくなり泣き出してしまう。


「うぅ、痛いよぉ、どうすればいいのぉ」


「おい、何を泣いている」


声の主の方を向く。アブソリュートであった。


(まずい、怒られる!)


「お前‼︎何をしているっ⁉︎」


 アブソリュートが怒鳴り、ウルは反射的に謝ってしまう。


「ご、ごめんなさ「血だらけではないか!早く手を見せろ!」」


 アブソリュートは傷だらけのウルの手をとり回復魔法を使った。


 ウルは初めて見る回復魔法とあの怖いご主人様が治療してくれたことに驚いていた。


「ガラスの破片は手でさわるな…箒ではけ。分かったな?」


「は、はいなの!」


ダーク・ホール


 ガラスの破片がアブソリュートの魔法により影の中に消える。片付け終わるとアブソリュートはそのまま部屋に戻っていった。


 その夜ウルは、アブソリュートのことばかり考えていた。初対面の時から恐怖の対象でありあのアーク家の子息である。だが、ウルに回復魔法を使ったり、偶にお菓子をくれたりと優しい面もある。どれが本当のアブソリュートか分からなくなった。


「ウルはご主人様が分からないの…」


 ウルは悩み続ける。そんなある日ミトさんとマリアが話しているのを獣人の聴覚で盗み聞きし、アブソリュートのスキルのことを知った。


「スキルのせいで皆に嫌われるなんて…ご主人様はウルとにている…。」


 ウルはスキルのせいで家族に売られた自分とスキルのせいで嫌われるアブソリュートをどこか同一視していた。


 そしてアブソリュートが父ヴィランに仕事の内容を聞かされている時にアーク家の真実について知った。


 だが、この真実を知るにはウルは幼すぎた。

 ウルはマリアに聞いた内容を話しどういう事か分かりやすく教えてもらう。マリアもその内容に驚愕していたが掻い摘んでウルに説明した。


 あまりの内容にウルは涙した。アブソリュートに救いがなかったからだ。


「みんなの為に頑張ってるのにご主人様は報われないなんて酷すぎる‼︎」


 スキルのせいで皆に嫌われて、国の為に働くが賞賛はおろか罵倒される。ウルにはアブソリュートがボロボロに見えた。


「そうね。私も知る前は同じことを思ったわでも真実は違った。私達のご主人様は凄い人ね。

これからもご主人様は傷ついていくでしょう。敵も増えるわ、だから私達はどんな時もご主人様の側にいましょう。ピンチの時も傷ついた時も周りに誰も居なくなっても。あの小さな背中についていきましょう!」 


 ウルも黙って頷く。


「まずは任務から帰ってきたらお出迎えから始めましょう!」


 そうしてウルとマリアは任務から帰ってくるアブソリュートを待ったがウルは寝落ちした。


 アーク家の真実を知ってからウルとマリアは訓練に身を入れるようになった。たまにアブソリュートが指導したりしてウルは着実に強くなった。

 そこでアブソリュートから武闘大会に出場するように言われ出場した。勇者以外は弱かったが、優勝することができた。

「よくやったな、ウル」


アブソリュートがウルを撫でる。これまで褒められたことがなかったウルにとってむず痒いがとても嬉しいものだった。

 だが、また不幸が訪れる


 なんとミカエル王子から呼び出しを受けたのだ。何の心当たりもないウルは殺されるのではないかと不安で仕方がなかった。


「お前に心当たりがないなら殺されることはないだろう。恐らく、この前の武闘大会でお前を気に入ったから寄越せ、そんな感じだろう」


ウルは絶望した。相手は王族だ、また両親の時のように捨てられると思ったからだ。


「安心しろ、私からお前を手放すことはしない。もし、ミカエル王子から来いと言われたらお前が嫌なら断れ。そうしたら私が全力で守ろう。お前は私のものだからな」


 アブソリュートの答えがウルは嬉しかった。自分を必要としてくれていると思ったからだ。

 また捨てられると思ったウルの絶望をアブソリュートは吹き飛ばしてくれた。決して見捨てない安心感があった。

 実際にアブソリュートはミカエルからウルを守った。



(ご主人様は優しい…強くて、カッコよくて…ご主人様の事を考えると胸が熱くなる)


 ウルは本心からアブソリュートに語りかける。


「ねぇ、ご主人様。ウルはご主人様の為なら死んでも構わないの!」


 ウルに居場所をくれ、寝床と食事、闘う力を与え、権力からも守りそしてこの温かい気持ちをくれた。ウルの人生でここまで自分に与えてくれた人はいなかった。だから自分の全てをアブソリュートに渡しても構わないと思った。


「ふん。お前を犠牲にしなくてはならないほど私は弱くなどない!帰るぞ、ウル」


「はいなの!」


そして2人は帰っていった。

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