第25話 後始末
勇者との対戦を終えたアブソリュートは戦後処理に移る
勇者によって攻撃を受けて負傷したティーチ担任に今回の騒ぎの原因である勇者、アブソリュートは傘下の者達に指示をだす。
「レディ、他の教員に事情を説明してここに連れてこい。ミストは勇者を縛って柱にくくりつけろ。オリアナは勇者が逃げないように見張れ。怪しい動きを見せたら攻撃して構わん、全員行動に移れ!」
「「「はいっ‼︎」」」
それぞれアブソリュートの指示に従い行動を開始する
今回負傷したのは勇者によってとばっちりを受けたティーチ担任、アブソリュートによってぼこぼこにされた勇者、勇者によって心労が限界をきたしぶっ倒れたアリシアの3名だった。アリシアの方はミライ家派閥のクラスメイトが介抱しているため心配はしていなかった。
私は負傷しているティーチ担任の元に行った。他の生徒達が介抱しているがかなり痛そうにしていた。あまり酷い怪我はしてないように見えるが勇者の攻撃は通常攻撃でも相手にその元の数倍のダメージを与える。恐らく骨も数本折れているだろう。
「酷い有様ではないか、ティーチ担任」
アブソリュートが声をかけるとティーチは痛みで滲み出る汗をかいた顔で力なく笑う。
「あぁ、全くだ。これでは教員失格だな、それにしてもよく勝てたな。勇者のスキルを身をもって体験した身としては化け物だったぞ。流石アークと言ったところか」
ティーチが嘆くのも仕方ない。確かに勇者のスキルは強力だ。使い手によってはアブソリュートでも無傷では済まないだろう。だが、理性を失い技と駆け引きもない力でごり押しの勇者などアブソリュートの敵ではないのだ
「無理に喋るな、これから医務室に運ぼう。おい、聖女お前もついて来い。お前が医務室で治療しろ」
アブソリュートは聖女に声をかける。おそらく今回の勇者の暴走は聖女による犯行に間違いないとアブソリュートは考えている。一体どういうつもりなのか問い正しかった。聖女はアブソリュートが勝ったのが信じられないのか悔しくそうな表情を浮かべていたが、すぐにいつもの優しい微笑を浮かべアブソリュートの指示に従う。
「もちろんです。怪我人の治療は教会に勤める者として当然のことです。直ちにティーチ先生を搬送しましょう」
「聖女様、私達が運びます。」
聖女の護衛達が搬送をしようとするがそういう訳にはいかない。聖女とは話したいことがあるのに護衛が居ては邪魔なだけだ。アブソリュートは聖女の護衛に待ったをかける
「お前らはいらん、うちの者で運ぼう。何人もぞろぞろと邪魔なだけだ。おいミスト、勇者を縛ったら次は怪我人を運ぶぞ。さっさと来い。」
「アブソリュート様人使い荒いっすね。まぁ、別にいいですけどね」
軽口を叩きながらせっせと作業を終わらせるミスト。だが、聖女の護衛達は、はいそうですかと引き下がる訳にはいかなかった。護衛の1人がアブソリュートに食ってかかる。
「お前みたいな野蛮な者に聖女様を近づけるわけにはいかん!お前が引き下がれ」
(全くコイツら私が上位貴族だってこと忘れてるんじゃないよな?いくら建前で身分は関係ないといっても相応の対応があるんじゃないのか。どっかの王子といい勇者といい、ホントにイライラさせてくれるな。一度分からせないといけないのか…)
聖騎士は教会が保有する戦力であり、その身分としては平民と変わらない。故に、この自らの身分を勘違いした聖騎士を正さなければならない。
アブソリュートはスキルの『王の覇道』で無礼な聖騎士を威圧する。
「前にいったよな、邪魔する奴は容赦しないと。それに貴様さっきから無礼だぞ?たかが聖騎士如きがこの私と同格だとおもっているのか。もしそうなら貴様も勇者と同じ目に合わせてやろうか」
「ヒッ‼︎」
威圧をモロに浴びた失礼な聖騎士はあまりの威圧に腰を抜かす。他の聖騎士もたまらず身体を震わせた。
アブソリュートの威圧で冷えた空気に聖女が声をあげる
「止めなさい貴方達、アークさんに失礼でしょう!
アークさん護衛の皆さんには後ほどキツく注意いたしますのでこの場はどうか収めてもらえませんか?それと教会の方から決して護衛から離れるなと言われております。1人護衛をつけることをお許しください。」
自らの行いで聖女が頭を下げた事で自分のした事を悔いる聖騎士。
(まぁ、護衛1人なら許容範囲かな。ゴネタ甲斐があった。)
「次はないぞ?ほらっさっさと行くぞ。」
アブソリュート、ミスト、聖女、護衛についた聖騎士の4人は負傷したティーチを医務室で治療するために移動した。その後聖女のスキルと回復魔法で、ティーチの身体は回復したが念のためとまだ医務室で大事をとることになった。治療を終えたアブソリュート達は医務室からでた。ここでアブソリュートは本題を切り出す。
「それで、聖女。何か言い訳はあるか?」
「何の事でしょうか。私にはやましい事などありませんが?」
聖女は表情を崩さずに飄々としている。
「白々しい。貴様、勇者にスキルを使って強化し、わざと暴走するように仕組んだな。勇者を使ってあわよくば私を殺すつもりだったのだろう?」
聖女を問い詰めるアブソリュート。聖女の護衛はこの内容をいいがかりと受け取ったのか、聖女を庇うように前にでようとする。
「貴様、聖女様がそのような事をする筈がないだろう!
いいがかりをつけるのは止めろ‼︎」
アブソリュートに詰め寄ろうとする聖騎士だったが急に動きを止めた。何者かに背後から首にナイフをつきつけられているのが分かったからだ。
「動くな、今はアブソリュート様が話してる最中でしょうが。それにあんたらさっき『次はない』って言われたでしょう?マジで殺されますから邪魔しないのが身のためですよ。まぁ、聖女さんに危害は加えませんよ、多分。ですよね、アブソリュート様?」
ミストはアブソリュートの邪魔にならないように聖女の護衛の聖騎士の動きを止める。ミストはアーク家の裏の仕事を補佐する役割の家だ。アブソリュートに危害を加える者には盾にもなるし、何も聞かずに任務を全うする。今のミストの仕事はアブソリュートの会話を邪魔する者を排除することだ。こういった仕事には慣れている。
「さぁな、コイツ次第だな。っでどうなんだ聖女?」
場合によっては人質を取ったとも見えるが聖女には有効な筈だ。
「酷いですね、言いがかりです。それにもし、私の仕業だとしたらどうなんです?証拠なんてないでしょう?」
聖女は心外だとでも言うようにこちらを見つめる。
(人質は効果がない?結構冷淡な奴だったのか、聖女は。それにこの状況で平然と嘘をつけるなんてかなりの役者だな。)
アブソリュートは話しながらも聖女について分析する。
「残念ながらな、魔法なら魔力を辿って証明できたかもしれんがお前のスキルは特殊だからな。今回は立証は無理だろう。恐らくそれも見越しての犯行だろうがな、全く忌々しい女だ。」
そう今回はどうしても聖女の加担したことを立証できないのだ。聖女のスキル『扇動』は相手の身体の内側を強化するからだ。目に見えない所を強化したなんて立証はできない。
「まるで私のスキルを知ってるかのような言い草ですね。教会でもトップクラスの方々しか知らない筈ですが……それで証拠もないならどうします?今回の騒動は聖女の仕業だとでも公表しますか?」
(私が言ったとしても誰も信じないだろうから意味ないな。それにそんなことしたら勇者の処分に影響するかもだから絶対やらねぇよ。退学まではいかなくとも停学させるチャンスだしな。勇者が停学になればその間のイベントに携われなくなる。見逃す手はない、聖女の思惑どおりに進むのは癪だかな。)
「ふん、そんなことしてしまえば勇者の責任も怪しくなるな。だから今回はお前の思惑に乗ってやる。だが、お前はアーク家を敵に回したんだ、いずれこの報いは受けてもらうぞ。」
「ふふっ、だから私はやってないと言ってるじゃないですか。話が終わりなら護衛の方を離してもらえませんか?」
アブソリュートはミストに目で合図をして聖騎士を解放させる。
「ありがとうございます。では私達は先に戻りますね。それと先程の護衛の貴方への無礼な発言を先程の護衛を人質に取った件で帳消しにしてくれると嬉しいです。」
聖女はアブソリュートに軽く頭を下げてこの場を後にし護衛も彼女の後に続いた。
「いいんですかい?このまま帰しちゃって。」
ミストは聖女達に何もせずに帰したことに疑問を持っていた。
「構わん、それに敵は聖女だけかそれとも教会という組織なのかはまだ判断はつかん。聖女を生かしておけば今後何か企てた時また聖女を通して動くだろう。その時までに敵の正体を掴む」
(原作で聖女は教会から出たことのない世間知らずな女の子だった筈だ。もしかしたら本性を隠していただけかもしれないが今回聖女からは明確な悪意を感じたのだ。しかも勇者の暴走と見せかけて私に嫌がらせを行うなど手口はかなり陰湿だった。今回だけの犯行とは限らないアーク家の情報網を駆使して調べあげるか…)
急に黙りこんで考え始めるアブソリュートにミストが問いかける。
「考え中の所悪いんですが、単純に勇者が聖女さんに強化をお願いしただけじゃないすか?あまり複雑に考えすぎない方がよいのでは?」
アブソリュートに勝つ為に聖女に強化してもらった。
ミストはそう考えたがアブソリュートはそんな事どうでもよかった。
「お前は勘違いしている。今回重要なことは勇者とミライ家側に落ち度があること、聖女がこちらに牙を剥いたことだ。だから勇者から強化を持ちかけようがなかろうがどうでもいい。どのみち聖女は此方に牙を剥いたんだ、教会ぐるみだろうがただではすまさん。戻るぞ、ミスト。」
話はこれまでというかのようにアブソリュートは背を向け歩き出す。聖女達から遅れてアブソリュート達も修練場に戻ったのだった。
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