第10話 勇者VSウル

 アブソリュート達は武闘大会に出場する為に王都に訪れた。この武闘大会では15才以上と15才未満の2部に分かれて開催される。参加者は貴族の者達がほとんどだが貴族の者からの推薦があった者に関して例外的に参加が認められる。

 今回ウルはアーク公爵家の推薦で出場した形になる。


ルールは魔法なしのスキルと自前の武器を使い行われる。


「アブソリュート様ほらご覧くだまし!もうすぐウル様の番ですわ。楽しみですわ」


 一緒にきたレディはアブソリュートの肩に腕を巻きつけ膨らみかけの柔らかな双丘を押し付けアピールをする。


 アブソリュートも反応しかけるが普段マリアからそれ以上のことをされている為あえて反応しない。 

 だが、レディはそんな硬派なアブソリュートにさらにメロメロになりドツボにハマってしまった。


 そんなレディを呆れた目でみながらクリスはアブソリュートに声をかける


「それでアブソリュート様、本当に大丈夫でしょうか…確かにウルはあれから成長していますがまだ子供です。スピードはあっても決め手に欠けるのでは?今回獣化のスキルはアブソリュート様が禁止されましたし…」


そう、今回ウルは獣人特有の獣化スキルの使用を禁止している。理由は今回は勇者の実力を測るのが目的なので奥の手は温存した形になる。


「まぁ、見ていろ。お前の所にいた時より遥かに成長している。なにせ、私が鍛えたのだからな」


 ウルが入場した。相手は男爵家の子息でオーソドックスなスタイルだ。対してウルは


「何ですか?あの鉤爪に似た武器は!爪がないようですが、あれでは素手と変わらないのでは?」


そう、ウルの装備はいわゆるメリケンサックである。


 試合が始まると同時に相手が斬りかかってくるがいつのまにかウルが懐に潜り込み腹に一発放つ。

 相手は立ち上がれず、ウルの勝利が決まった。


「ウルの強みは圧倒的なスピードだ。だが、まだ身体の小さいウルは長物と相性が悪い。だから、拳を放つだけで確実にダメージを与えられる装備を与えたのだ」


 クリスは驚いた。かつて自らの家で管理していた奴隷があそこまで成長しているとは思わなかったからだ。


「なるほど…確かに理にかなってますね。

お見それしました」


「そこまで考えていらしたなんて♡」


(まぁ、戦ったのはウルだけどな…。次の試合は勇者か…さてお手並み拝見だな)



 勇者の対戦を見終えたアブソリュートは天井を見上げて一息ついた。

(…………弱くない、だがせっかくの勇者のスキルを活かせてない。ただ剣を振り回して力でねじ伏せるだけ。闘いのセンスもウルに劣る)


「…クリス、あれは本当に勇者か?苦戦してたぞ」


「はぁ、まぁ実践を積んでこなかったのでは?アブソリュート様のように経験豊富な子供もそういませんから」


(確かにそれなら頷ける。だが、それならアーク家が行っている裏の汚れ仕事も勇者にやらせるべきだろう。経験も積めるし、レベルも上がる、メンタルだって鍛えられる。何を考えているんだ国は!)




 そうこうしてる間に、ウルと勇者は順調に勝ち進んでいた。そして決勝戦が始まる。

 勇者アルトとウルが向かい合い勇者が声をかける。


「なぁ、君はアーク家の人?」


 ウルは黙ってうなずく。勇者を倒して優勝すればスイーツに欲しい物を何でも買ってもらえる。考えるとお腹が空いてきた、ウルはスイーツのことを考えると笑みが溢れ舌舐めずりをした。見る人によっては可愛くみえるが勇者アルトにはそうは映らなかった。


(…まだ、こんな幼い子がこんなに交戦的な顔をするなんて、アーク家はなんて酷い教育をしているんだ‼︎

勇者アルトは義憤する)


「武闘大会にでるように言ったのも、アーク家の人かい?」


 怒りを抑えてウルに問う


「…勝ったら美味しいごはん(スイーツ)がもらえるの」


(…普段からろくなものを食べてないってことか。アーク家め!絶対に許さん‼︎)


 試合開始の合図が鳴る


 ウルが早速と勇者の元へ駆け出し、拳を繰り出すが勇者は剣で受け止める。だがウルの連打は止まらない。


キィン、キィンキィンキィンキィン


(は、速い!)


 勇者アルトは受けるのがやっとの所をウルはフェイントを交え始め、勇者は手に負えなくなる。


(くっ勇者の俺が、こんな小さな女の子に)


「舐めるな!」


 女の子を振り払おうと剣を振るが目の前から女の子が消えた。


(どこにいった⁈)


「下よ‼︎」


 観客席からのアリシアの声が届く頃には遅く、懐に潜り込んでいたウルから強烈なアッパーを喰らい勇者は意識を失った。



「「「「「「す、すげぇぇぇぇー‼︎」」」」」」


 あまりの大番狂わせに会場が湧く。鳴り止まない歓声が会場を包むがウルの頭にはスイーツしか頭になかった。


「スイーツ楽しみなの♪」


 クリスは驚きを隠せなかった。


「本当に勝っちゃいましたね…」


 正直ウルでは勇者相手は厳しいと踏んでいたのだが圧勝とは…。


 アブソリュートが口を開く


「勇者のスキルは厄介だった。だが、持ち主が雑魚だったせいで活かしきれなかった。勇者の攻撃が一撃でもウルに入ってれば負けてたがな。ウルはそれが分かったから勇者に攻撃の機会を作らせなかった。

まぁ、現段階ではウルが強かった。それだけだな」


 アブソリュートは上機嫌だった。敵である勇者アルトの底が見えたのだ。


(原作で勇者がアブソリュートより弱かったのは闘う者としてのセンスが無かったからか。

まぁ、今後どうなるかは分からない。センスはなくともレベルが近ければ負ける可能性もある。今後とも勇者には注意しておこう。)


「ご主人様!只今戻りました!早くスイーツを食べましょうなの!あと買い物も」


 尻尾を振りながらウルは戻ってきた。


 アブソリュートはウルの頭に手を乗せ軽く撫でてやる。表情は相変わらず仏頂面だが、かけられた声はどこか優しかった。


「ウル、よくやったな。褒美を与えよう、行くぞ。遠慮はいらん」


 アブソリュート達はウルのご褒美タイムに付き合いながらも王都を満喫した。




【勇者サイド】


 試合に敗れた勇者アルトは医務室に運び込まれ、中には観戦にきていた婚約者のアリシア・ミライ侯爵令嬢の姿があった。


「まさか、仮にも勇者のアルトが負けるなんて…あの獣人の子強かったわね。アルトは力だけで勝てると思ってる節があるから、この敗戦で少しは学んでくれればいいのだけど」


 アリシアは実戦を知らず、ただ身内の中で井の中の蛙になっていたアルトの事を悔やんでいた。

 それで今回父の名前を使い、アルトを無理矢理出場させたのだ。


(お父様もアルトの事を私ばかりにまかせるのではなく、ちょっとは対策を考えてくれてもよいのではなくて⁈私ばかりに任せるくせにアルト君が授業をサボると私が怒られるなんて理不尽だわ…。

そもそも勇者の末裔を引き取ると決めたのもお父様なのに…)


 アリシアは苦労人だった。上からは無茶な注文をされ、下のものが言うことを聞かずやらかすたびに上から叱責を受ける。

 そんなブラック貴族がミライ侯爵家である。


 そんな考えをしているうちに勇者アルトは目を覚ました。

 


「んっ?アリシアか…そっか俺負けたんだな」


「えぇ、残念だけど。どう?何か収穫はあった」


(なにせ、初めての敗北だもの。少しは心境に変化があるとありがたいのだけど)


「アリシア。俺決めたよ…」


(あぁやっと分かってくれたのね!私信じてたわ!いつか必ず勇者としての自覚を持ってくれるって)


「アーク家をぶっ潰す!」


勇者アルトの答えはアリシアの望んだ答えの斜め下だった。暴投である。


「え、なんて?」


「アーク家をぶっ潰すんだ!決勝で戦ったあの子をみて思ったんだ。あんな小さな女の子を奴隷にして戦わせるような家が貴族なんてあってはならない。やっぱり噂通りアーク家は屑だ。」


「え、えぇぇ⁈いや、でも流石にそれは無理なんじゃない?貴族でしかも高位貴族だし、それに無理矢理なんてアルト君の想像じゃないの?

勇者といっても平民のアルト君に高位貴族を潰すなんて出来る筈がないわ。それにアルト君がアーク家にちょっかい出したら被害受けるのミライ家なんですけど!分かってる⁈」


「分かっている!だけどあんな小さな女の子を食いものにしている貴族なんてあってはならない…僕は勇者だ」


(あぁもう、聞いてないし!話が噛み合わない

ホントバカな働き者は厄介だわ。はぁ、落ち着きなさいアリシア。ミライ家の将来は私の肩にかかっているわ)


「まさか、いきなり殴り込むとか言わないでしょうね?そんな事するなら即縁切るからね。ミライ家はあんたと何の関係もないから」


「…悔しいけど、俺1人ではアーク家には勝てない。だから一緒に戦ってくれる仲間を探そうと思う」


ちょっとは冷静なようで安心したが、まだ災難は続きそうだ


「だから、アリシア!俺の仲間になって一緒にアーク家をっ「っ嫌!」」


アリシアは言葉を被せ断った


「あんたのその言い掛かりの様な理論で味方になんかならないわよ!私を味方にしたかったら王族と高位貴族に兵を万単位にちゃんとした理由を用意してからにしなさい。そしたらもう、何も言わないから…。 だからそれまでアーク家に手を出すのは辞めて!あんたのせいでミライ家を潰すなんて私嫌よ!」


 アリシアの剣幕に押され、勇者アルトは了承した。


「分かった。王族に高位貴族に兵を集めて完膚なきまでに叩きのめせっていうんだな。

流石アリシアだ。考えることが違うぜ。俺やるよアリシア!」


 アリシアはとりあえず最悪な事態は避けれたと安堵するがまだまだ彼女の災難は続く。



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