第9話 武闘大会

 アブソリュートとマリアは剣術だけの模擬戦をしていた。

 リーチや守りの固さはマリアが1枚上手だが、それ以外はアブソリュートの方が何枚も上手だった。


 何度か剣が合わされ最後にはアブソリュートによりマリアの剣が飛ばされて決着がついた


「…これで10連敗ですね。剣術だけ見てもご主人様に勝てる者はいないのではないでしょうか?」


事実、この国の兵士の平均レベルは20。現在レベル70のアブソリュートに比べるとかなり低い。マリアもレベルは30を超え充分強者と言えるが、やはりその差は大きかった。


「さあな…だが父なら容易く凌ぐだろう。あれは化け物だ」


 一度、アブソリュートと父ヴィランが対戦した時はヴィランが勝利した。アブソリュートは戦慄したのを覚えている。この世界に転生して初めての敗北だったのだ。


(…原作では、父は出て来なかった。学園を卒業する頃にはアブソリュートが当主になってたし…父が大人しく王家に従っているのを見る限り完全に味方とは言えない。原作でアーク家が断罪された時、父が何をしてたのかは知らないが敵対する可能性も踏まえて準備するべきだ)


 考え込むアブソリュートをマリアは心配そうに見つめていた。それに気づきアブソリュートは考えるのを後にした。


「すまんな、少し考え込んでいた…続きをやろう」


 構えるアブソリュートに対しマリアは剣を置いた。


「いえ、ご主人様はお疲れのようです。あそこのベンチで休憩しませんか?私軽食作ってきたんです」


 マリアの作った軽食を見て、空腹感を感じたので了承し、軽食を頂いた…満腹感で眠気がアブソリュートを襲う。


「ご主人様はお疲れの様ですね。私の膝でよければお使い下さい」


 頭が柔らかいマリアの太ももに置かれアブソリュートは眠りにつこうとする。


(あっ、これ原作の修行イベントで見たことある!)


 そう思うが、アブソリュートの意識はゆっくり沈んでいった柔らかな昼下がりの出来事だった。



「「ご無沙汰しています。アブソリュート様」」


 クリスとレディがアーク家にやってきた。


 2人にはアーク家傘下の貴族達との仲を取り持ってもらっている。おかげ仲はだいぶ改善された。


「ああ、それで?今日はどうした?」


 相変わらず無愛想だが、2人は気にしない。これが素だと分かっているからだ


「王都で武闘大会があるんです。アブソリュート様でてみませんか!アブソリュート様なら優勝間違いないですわ‼︎」


レディが熱弁する。

(顔が近い、近い。そんな綺麗顔近づけないで…ドギマギしちゃう)


「15才未満の部の、参加になりますが同年代の実力を知るいい機会だと思いませんか?それに今年はあの勇者の末裔もでてくるらしいんです」


 クリスが補足する。


(何?勇者か…確かに現時点の勇者の実力を見るのも悪くない。原作と違ってマリアはアーク家についている。それがどう影響しているか確認するのも悪くない)


「話は分かった。いこうではないか」


「本当ですか!アブソリュート様なら優勝間違いないですわ♡」


「いや、私はでない」


レディは肩を落とす。

(ごめんね、勇者にあまり手の打ちを見せたくないんだ)


「代わりにウルを出場させる」


 後ろで待機している、狼族の侍女奴隷を指名する。ウル自身も唐突な指名に面食らっていた。


「え?あ、あのご主人様、う、ウルがでるんですの?私、ご主人様より弱いし…ご主人様の顔にどろを塗ってしまいますの…」


(大丈夫だ。お前は自分が思っているより遥かに強い。何せ私直々に魔改造したのだから。

ストーリーが始まる前の主人公なら結構いい線行く気がするんだよね)


「不要な心配だ。私と手合わせしているのだぞ?そこいらの有象無象に負けるものか。もし、その勇者の末裔とやらに勝てたなら帰りに王都で人気のスイーツをご馳走してやる」


「っ!」


 ウルは目を見開いた。…ウルはアーク家に来てから初めて甘いものを食べ、その美味しさに涙した。ウルはそれ以来甘い物に目がない

 そこに漬け込んだからこそ、アブソリュートはウルを手なづけることができたのだ。つまり餌付けである。


「優勝したら、加えて欲しいものを何でも買ってやる。どうだ?」


「出ます!!ウル、新しい武器と可愛いお洋服が欲しいの!」


 もう勝った気でいるようだ。だが、これでウルを使って勇者を見定めることができる。


「分かった。ウルよ、勇者に勝利し欲しい物を勝ち取れ」


「はい!ウル、絶対勝ちますの!」


 勇者のスキルを持ち、原作で圧倒的数の有利はあったものの格上のアブソリュートを倒した男だ。


 アブソリュートは決して油断しない。闘いはもう始まっているのだから。



【勇者サイド】


 勇者の末裔である勇者アルトは現在ミライ侯爵家が後見人となり彼の面倒を見ていた。

 そんな勇者は今授業をサボって木の上で休憩していた。


「見つけたわよ、もうっ!アルト君また授業をサボって!アルト君が真面目に受けないからいつも私が怒られるのよ!」


 彼女はミライ侯爵家の長女であり勇者アルトの婚約者兼幼馴染そして原作ヒロインの1人

アリシア・ミライである。


「だってなんかやる気でないし…それに俺は勇者だ。闘うのが役目であって、勉強とかはアリシア達に任せるよ」 


 勇者には原作とは違いマリアとは別人の者が指導についている。マリアは飴と鞭をうまく使い分け勇者アルトの手綱を握っていたが、現在の指導者では勇者アルトにされるがままだった。


「いくら勇者のスキルが強くたってバカが使い手では宝の持ち腐れよ!まぁいいわ、お父さんから伝言。

『王都で行われる武闘大会で優勝してこい』だって」


「へぇ、いいね。強い奴はいるかな?アリシア何か知ってる?」


「どうかしら?あぁ、そういえばあのアーク家の者が出場するらしいわ」


「アーク家って確か闇組織と繋がってて裏で好き勝手にやってる家だよね?いいね、燃えてきた。勇者の俺が悪を滅ぼしてやる。悪い奴らは皆殺しだ」


 勇者の発言とは思えないが、やる気を出してくれるならなんだっていい。

 アリシアはやれやれと苦労を滲ませていた。











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