第4話 傘下の貴族視点
私はホサ伯爵家の子息のクリス。
我が家はライナナ国にて奴隷業を生業としている家柄だ。かなりグレーな仕事だがライナナ国では合法だし、何より少なからずこの国になくてはならない仕事だと自負している。
だが、将来的に不安な事があり日々頭を抱えていた。それはアーク家の長男のアブソリュート様のことだった。我が家はアーク家傘下の貴族であり何度かアーク家に赴き、顔を合わせたがどうも嫌悪感が拭えないのだ。
我が家は職業柄色んな領に赴き、商売をしていた。中には同じくアーク家傘下の家では同年代の子らがいる家では積極的に声をかけて仲良くしてきた。コミュニケーション能力では自信があるつもりだがアブソリュート様だけは仲良くできそうになかった。
父にも相談し、アーク家に行くときは欠席させて貰えないか相談したこともあったが、
「クリス。奴隷商において最も大事な事はわかるな?」
「人を見る目を養うことですよね。何度もお聞きしました」
「お前がアブソリュート様についてどう思っているかは分かったが、もう少しよく見てみろ。彼は凄いぞ?将来はきっと大物になるだろう」
そう言って取り合ってもらえなかった。
理性では分かっているのだが、本能がどうしてもアブソリュート様を嫌がるのだ。私だけなのかこっそり他の傘下の子息達にも聞いてみたら皆同じ気持ちで安心した程だ。
良かった。私の人を見る目は間違っていなかった。間違ってたのは父の方だ。
そう思っていた矢先、事件は起こった。
ミカエル王子の10才の記念パーティーにて父と上位貴族に挨拶を終えた後、大人達と分かれて子息や令嬢達だけのフロアに向かった。
私は顔が広いので同じくアーク家傘下の子息や令嬢達との仲が良く彼らの中心になって楽しく過ごしていた。
「おい、何故めでたい席の場に貴様らの様な汚らわしい家の者達がいる?」
上位貴族の子息達が声を掛け、私達を囲むように輪になりアーク家傘下の者達は中央に孤立した。
ヤバい囲まれてしまった。1番爵位の高い私が率先して声をあげる。
「私達もライナナ国の貴族だ。パーティーへの参加には何の問題もないのでは?」
「確かにな?だが、お前らの様な汚らわしい職業を生業とする貴族がいればこのパーティーの品位が下がるのだよ。なぁお前ら?」
囲んでいた者達から笑いが溢れ出す。
プライドを刺激されてしまった私は気づけば上位貴族の子息のもとに歩き出そうとしたがそれは叶わなかった。間に何人か入られ私は取り押さえられた。
「おい。お前らコイツに身の程を教えてやれ」
両腕を抑えられた私は囲んでいた者達からリンチを受けた。
「クリス⁈」
「動くなっ!」
クルエル子爵の令嬢や何人かが止めに入ろうとしたが静止させた。相手は上位貴族であり格下である私達が何かすればどうなるか想像がつく。何度も殴られ、蹴られもう感覚もなくなってきた。
(クソっ!どうしてこんな目に…)
意識を失いそうになったが、急に意識がはっきりした。凄い圧がこちらに向けられていた
「…何をしている?」
声のする方を見ると、この圧の正体はアブソリュート様であった。
(凄い。まだ10才でここまでの圧力を出すなんて。)
人垣がアブソリュート様を避け上位貴族と私達の間に立った。私達を庇う様に見せた背中を見て、とてもアブソリュート様が大きく見えた。
「もう一度いう。彼はアーク家傘下の者達だがお前らは彼らに何をした。返答次第では許さんぞ?」
静かだが怒気の含まれた声に加えて更に放たれている圧が増した。
囲んでいた上位貴族達は圧力に耐えられず逃げ出していく。逃げ出す貴族達の姿を見てアブソリュート様が私達に向き直った。今度は私達に圧が放たれてアブソリュート様の怒りが向けられたのが分かった。私はすぐさま膝をおった。
「ア…アブソリュート様助けて頂き…ありがとうございました。そしてアーク家に泥を塗ってしまい…申し訳ございませんでした」
アブソリュート様が動いた。
(ヤバイ殺される。)
私はその時を待つ様にギュッと目を閉じたがアブソリュート様の手が肩に置かれた瞬間私の傷が治っていくのが分かった。
(これは回復魔法⁈魔法や剣はかなりの才能があると聞いてはいたが回復魔法まで使えるとは…)
「お前はホサ伯爵家のクリスだったな。酷い姿だったではないか?」
声をかけられたがこれは怒っているのだろう。未だに圧が放たれている。
「はっ!お見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。相手は上位貴族が多くいたので反抗するわけにもいかず結果エスカレートしてしまいました。全ての責任は私にあります。どうか他の者への罰はご容赦を!」
私の謝罪と嘆願の後、クルエル子爵令嬢達が私をフォローしてくれた。そしてアブソリュート様から声が放たれる。
「話は分かった。だが、今回の件はクリスだけでも他の者達だけでないお前ら全員の過失である。何故だか分かるか?代表してクリス答えよ」
嘆願届かなかったようだ。震わせた声で質問に答える。
「そ、それは私達が相手に下位貴族だからと舐められたからでしょうか?」
「それもあるが、私達の評判が悪いのはあらかじめ分かっていたはずだ。それなのに何故お前らはせっせとこの場に集まった?上位貴族のいないお前達だけでは標的にされるのは分かっていただろう」
確かにその通りだ。だが、ここまで自分達が目の敵にされていたなんて思わなかったのだ。私は泣き出しそうになりながら言った。
「それならば一体どうしろって言うのですか!」
爵位の低い私達では上位の者に逆らえないのだ。だが、そんな考えを吹き飛ばすようにアブソリュート様は言った。
「何故私を待たなかった?」
私達は一瞬何を言っているか分からなかったがすぐに理解した。アブソリュート様が言葉を重ねる。
「今回の一件は先程クリスが言ったようにお前らが下位で相手が上位故に起こった事だ。ならもしその場に私がいたらどうだ?先程のようにアイツらの好きにはさせなかった筈だ」
その通りだ。私達は皆アブソリュート様に嫌悪していた。アブソリュートを避けるように行動したせいで騒ぎを起こしてしまったのだ。
「さて、今回の一件貴様らにも責任があるのは話した通りだ。よって罰を与える」
一瞬死を覚悟したが、それは意外なものとなった。
「今後、こういった催しや学園へ入った時はなるべく私の目の届く所にいるようにしろ。それをもって今回の罰とする」
驚愕した。実質お咎めなしだったのだ。それだけでなく今後私達を守ると遠回しに言ってくださったのだ。私達はアブソリュート様を誤解していた。こんなにも懐の大きな方だったなんて。私はこれまでアブソリュート様に対して無礼な考えをもっていたことを恥じた。涙が溢れだす。
迎えが来てアブソリュート様は戻っていったが、彼が去った後も私は涙が止まらなかった
パーティーが終わり屋敷に戻った後、父に今日起こった事を話した。
父は何も言わずに最後まで私の話を聞き終えると私に告げた。
「お前がアブソリュート様を嫌っていたのは知っている。だが、思い返してみろ。アブソリュート様はお前に何かしたか?」
私は、ふるふると首を振る。確かにアブソリュート様から暴力や中傷を受けた覚えもない。会話も淡白なものだったが今思い返してみれば普通なものだった。
父は重ねて言う。
「この話は内密なものだ。他言するなよ。実はアブソリュート様は自らのスキルによって他人への印象が悪くなってしまうのだ。だから私はお前に何度も人を見る目を養えと言ったのだ。スキルに惑わされず、アブソリュート様の人柄を見て判断して欲しかった」
知らなかった事実に驚愕した。
「そんな⁈そのようなスキルがあるなんて…どうして言ってくれなかったんですか!」
スキルについて知っていればアブソリュート様への対応も変わっていたかもしれないと思うと言わずににはいられなかった。
「頭を冷やせ、クリスよ。個人のスキルの詳細はプライバシーに関わるものだ。上位貴族なら尚更な」
「分かってはいます。ですが、それだとアブソリュート様の周りはっ!」
「友人はおろか、味方をつくるのも難しいだろうな。だから、私達当主にはスキルについてあらかじめ聞かされ、お前達、子供には人柄でアブソリュート様を見るように伝えたのだ。特にお前には口酸っぱく言ってきた。お前は同年代の傘下の中で最も慕われていたからな。お前を通じて少しでもアブソリュート様への見方が変わればと思っていたのだ」
私はその言葉を聞き絶望した。私はアブソリュート様に嫌悪感を持ち同年代の友人達にその考えを同調させてしまった。私がアブソリュート様を独りにさせてしまったのだ。
涙が止まらなかった。あの強くてどこか優しさを感じさせた彼には味方が誰もいない。
どれほど辛い道を彼に歩ませてしまったのだろう。
父は私の背中をさすりながら言った。
「お前達はアブソリュート様を見放したがアブソリュート様はそんなお前達を見放さなかった。クリスは今後彼にどう報いる?」
私の覚悟は決まっていた。あの上位貴族らしく傲慢そうだが、どこか優しさを感じさせる彼をもう独りになんかさせない
「私はもうアブソリュート様を絶対に見放しません。アブソリュート様の周りを味方で埋め尽くします。それがアブソリュート様への私の責任です」
それを聞き父は嬉しそうにうなづいた。
(まずは、同じ考えを持ってくれる味方を探そう。頭の良いクルエル子爵令嬢は同じ考えを持ってくれるかもしれない)
そうしてクリスは動きだしたのだった。
クリス・ホセ
10才
スキル
・奴隷契約 V4…相互契約の済んだ相手を、
奴隷に出来る
ステータス
レベル :10
身体能力:15
魔力 :40
頭脳 :60
習得魔法
火
技術
コミュニケーション能力強
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