第52話 バウトVSレオーネ


 光の剣聖がイヴィルと死闘を繰り広げている頃、レオーネ達王国軍は第二都市城門前に本陣を置き敵の出方を伺っていた。

この都市に入るための門は第一都市からの門が一つ。そして第三都市へと向かう際に使われる門の二つ。レオーネ達は後者に張っている。

 敵の見えない間、レオーネは自身の天幕にて束の間の休息をとっていた。

 申し訳程度に置かれた粗雑な作りの椅子に座り、震える手を片方の手で抑えながら城から持ってきたお菓子をいただく。緊張しているのか味が全くしなかった。

 

「ぐぅ〜〜〜」

 

 お腹の鳴る音が聞こえてくる。

 一応言っておくがレオーネではない。

 

「ぐぅぐぅぐぅぐぅ」

 

 小刻みにならせるとは器用なものだ。

 音を鳴らした犯人は同じ天幕の中にいた。

 レオーネは後ろに控えているメイドを見る。

 

「どうかしましたか王女様?」

 

 素知らぬ顔でレオーネに返すそのメイドは、彼女より年下の獣人の少女。

 

 アブソリュート・アークが連れてきたウルという名前のメイドだ。

一応同行させると認めた手前、ウルをどうするか考えた結果。レオーネの側に置くことになったのだ。

 全くこんな幼い少女を戦場に置くなんて、やはりアブソリュート・アークは最悪だ。

連れてくるなら演習の時に連れてきていたマリアではないだろうか? もしくは、この娘もマリア並みに強いというのか?

レオーネはチラリとウルを見て、逡巡させていた考えを一蹴する。

 

 (……それはないか)

 

「今お腹鳴りませんでしたか?」

「鳴らしていませんよ?」

 

 嘘だ。他に腹の音が鳴ったというのであれば、獣人という聴覚の優れた彼女が聞き逃す筈がない。それに、先ほどからレオーネの言動に表情を崩さず、淡々とした態度をとっていても彼女はチラチラと皿に載せられたお菓子を見ている。

あからさますぎるその様子を本人は上手く誤魔化しているつもりなのだろうか。

 

「ぐう〜」

「はぁ……食べますか?」

「けっ、けけけけ結構です!」

 

 レオーネからの申し出にビクリとして、慌てて首を振るウル。

幼いと言っても一応はメイド。そのへんは分別はついているらしい。しかし、言葉では断っても目線はいまだお菓子の方へ向いている。

 

「ふふっ」

 

 ウルの素直な反応が可愛らしく思え、思わず笑みが溢れる。

 ウルと話しているうちにいつの間にかレオーネの震えは止まっていた。

 もう一度ウルに菓子を勧めようとしたその時――。

ザワザワと天幕の外が少し騒がしくなってきた。

 

「失礼します! 王女様、敵が現れました!」

 

 飛び込んでくるように天幕に入ってきた伝令によって現実に連れ戻される。

 

「分かりました。すぐに向かいます」

 

 先ほどまでに解れた気持ちが再び硬さを持つ。

 メイドのウルから近くに備えていた剣をもらい、フルフェイスのヘルムを被る。

 

「私はこれから戦場に行ってきます。貴女はここで待機をしてください。それと、そこにあるお菓子すべて差し上げます。さきほど緊張を解してくれたお礼です」

 

 そう言い残してレオーネは天幕を去った。

 足取りは重かったが一つ重石がとれたような気分だった。


 ♢


 レオーネ達が陣形を組んでいるところから数キロ離れた場所に、ブラックフェアリーの戦力は集結していた。

 

 「あららぁ、ガッチリ騎士達で固めちゃって。これ、鶴翼の陣ってやつね。数の優位を使って包囲しながら戦う気かしら……どうするバウト?」

 

 ブルースは後ろに立つバウトに意見を求める。

 イヴィルのいない今はNo.2であるバウトがリーダーだからだ。

 バウトはさも興味ないといった顔をして腕を組んで佇んでいる。

 

「どうもしない。俺は突撃するからお前らは死なない範囲で勝手にしろ」

「言うと思った。分かっているとは思うけど、相手は王国軍――強敵よ。光の剣聖や私を殺そうとした奴もまだいるし、貴方死んじゃうかもよ?」

「……光の剣聖は恐らくいない。ブルースをやった奴もだ」

「あら、そうなの? 貴方お得意の強者を嗅ぎ分けるってやつ?」

「ああ、雄の強者はいない。……が雌の強者がいる。誰か分かるか?」

「ん〜、女で強者って言ったらレオーネ王女くらいかしら」

 

 指を口元に当て、あざといポーズで考えた後ブルースは答える。勿論可愛くはない。

 ブルースの答えを聞いてバウトは獰猛な笑みを浮かべる。その姿はまるで獲物を見つけ、飢えた肉食獣のようだった。

 闇組織ブラックフェアリーの中で最も強く、そして闘いに焦がれているのがバウトだ。

 彼は常に強者との闘いに飢えていた。

 それゆえ、久しぶりに見つけた強者との闘いが楽しみで仕方ない。

「レオーネ王女……イヴィルも言っていたな。あぁ楽しみだ……あの陣形のどこにいる?」

「多分一番奥じゃない? 王族だし」

「了解した。では行ってくる……邪魔をするなよ」

「いやするわけないでしょ? ほら行った行った」

 

 ブル―スの雑な返しに怒ることもなく、その言葉に言われるままに本当にバウトは一人で敵陣の方へと歩いていった。

 ブラックフェアリーの若い兵が、歩いていくバウトの後ろ姿を心配そうに見ながらブルースに問い語りかける。

 

「ブルース様、バウトさん一人で行かしていいんですかい? さすがに死んじゃいますよ!」

「だぁいじょうぶよ。むしろ行かない方がいいのよ。――巻き込まれちゃうから」


 ♢


 レオーネと指揮官達は軍議用の天幕の中で情報を共有していた。現れたと聞いていた敵の情報にレオーネは困惑している。

 

「現れたのは、一人……ですか?」

 

 たった一人で何ができるというのか。

 もしかしたら降参を告げるための伝令役というのはむしのいい話だろうか。

 

「はい。それにあの者……アーク家の情報が確かであれば、敵幹部のバウトで間違いありません」

 

 レオーネは記憶を辿った。

 ブラックフェアリー幹部No.2 喧嘩屋バウト。

 今回の戦いのなかでアブソリュート・アークがもっとも警戒していた人物。

確か、殲滅系の強力なスキルを持っているとか。

 殲滅系のスキルは対軍に特化したスキルで、使用者は少なくとも兵士百人に匹敵する力を持つと言われている。

 あのアブソリュートが警戒していたなら、実際の能力がそのさらに上だったとしてもおかしくはない。

 千、もしかしたら万……だがそれは本当にありえるのだろうか?

 世の中には万に匹敵する力を持つ者は少なからず存在する。聖国の【空間の勇者】を筆頭にライナナ国の【竜人】、帝国の【悪女】そしてスイロク王国の【光の剣聖】。

 正直、彼等に匹敵する強者がブラックフェアリーにいるとは考えにくい。

 周囲からの意見を求められる視線にレオーネは答えた。

 

「そうですね。もし降参に応じないようなら戦闘開始の合図を……前線にいる騎士達には互いに距離を開けず複数で敵を相手するように伝えなさい。相手は拳闘士です。拳を中心に攻撃してくるのは明確です。こちらからの攻撃は距離を取るために魔法を中心にして、敵にはなるべく近寄らないように注意を。それと、領主の護衛をしている光の剣聖に連絡をしてすぐにこちらに来るよう遣いを出しなさい」

 

 これからの指針が決まると各々持ち場に着くために指揮官達は戦場へと向かった。

レオーネは一人

 

(できることはすべて終わった)

 

 だがどこか拭えぬ不安がレオーネ王女を悩ませた。


 

 ♢

 

 戦闘開始を告げるラッパの音が聞こえ騎士達は敵に向かって突撃した。

 

「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉー‼︎」」

 

 己や味方を鼓舞する咆哮を上げ士気を高める。

 標的は一人――大柄の男。

 男は舐めているのか、押し寄せる騎士の大群へゆっくりと歩いて進んでくる。

 両者の距離、およそ五十メートル。

 

「魔法部隊、火球ファイヤーボール撃てぇ!」

「「「火球ファイヤーボール」」」

「間を開けずひたすら撃ち続けろ!」

 

 五十人規模の騎士による中距離からの波状攻撃がバウトを襲う。

嵐のように降り注ぐ火球、本来なら黒焦げになっていてもおかしくないレベルだ。だが、火球を食らっているはずの男はその猛火のなか歩を止めようとしなかった。

 

「嘘だろ……アイツ効いていないのか⁈」

 

 戦場に動揺が走る。

 あれだけの攻撃を受けてあの男はまるで効いている様子がない。まるで風を受けているかのように何事もなく歩みを進めている。

 ざわつく敵陣の様子にバウトは呆れることもなく、静かに答える。

 

「効いていないわけではない。お前らのレベルが足りないだけだ」

「魔法中止! 前衛部隊囲め」

 

 前衛特化の部隊数百人が出陣する。

 この前衛特化部隊は槍の扱いに長けた者を集めた部隊だ。何故槍なのかは剣より単純にリーチが長く剣を主力とする現代においては相性が良い。加えてバウトに関しても拳で殴るスタイル、彼との相性は抜群にいいのだ。

 バウトはすぐに槍を持った騎士達に取り囲まれる。

 

「刺せぇ‼︎」

 

 指揮官の号令とともに一斉に槍がバウトに向けて突き出された。

三六〇度死角のないこの攻撃をくらい、生きていても重症。無事な者は化け物くらいだろう。

 

「おい……嘘だろ。なんで貫けないんだ?」

 

 全力で突いた筈が槍はバウトの皮膚の上で止まってしまった。人であるはずなのに、その身体は恐ろしく硬かった。まるで鉱石を槍で突いたかのような錯覚を受ける。

 

「痒いな」

 

 それも仕方ない。なぜならバウトこそ、まさにその化け物だからだ。

 

「スキル『大地讃歌』」

 

 バウトは全力で拳を地面に叩きつける。

 その瞬間、まるで震災が起こったように大地が揺れ始める。バウトの周りの大地が裂かれ、大きな地割れが起り、割れた付近にいた者を大地に飲み込んだ。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 戦場にいた者は、皆この光景を理解できずにいた。

 彼を取り囲んでいた筈の前衛部隊数百人が一撃で崩壊したのだ。

 先程の咆哮による鼓舞がなり響いていた戦場は、まるで時が止まったように静まり返っていた。

 一瞬で味方が半壊した光景が理解できず王国軍の兵士が固まっているのだ。

 

「待ってろレオーネ王女」

 

 恐怖で静まる戦場で、バウトは真っ直ぐと拠点を見つめて言った。

そうしてバウトは再び目的であるレオーネの元へ向かい歩き出した。

 

 ♢


「さすがはバウト、無敵だわね」

 

 前線に参加していないブラックフェアリーの面々は、少し離れた丘の安全地帯から、バウトの闘いを見物していた。

 

「すげぇ! バウトさんかっけぇ!」

「一人で全滅できんじゃない?」

「味方でよかったわ」

 

 バウトの奮闘で味方の士気がどんどん上がっていく。

 敵を拳一本で蹂躙していくあの姿は圧巻の一言だ。

 男達は強さに憧れを抱き、女は強靭な身体に心を震わせる。彼の闘いで皆が沸き立っていくのが分かる。

 闘う姿で味方の士気を上げ、闘いへの恐怖を打ち消す。

 これがブラックフェアリー序列二位・喧嘩屋バウトだ。

 

「バウトってね、人生で一度も喧嘩に負けたことがないのよ」

 

 ブルースは近くにいる部下に話を振る。

 

「バウトさんもスラム出身ですよね? いくら何でも、それはさすがに嘘ですよね?」

 

 スラム街には奪い合い、騙し合い、そして最後には殺し合いに発展していく過酷な環境なのだ。

 ブルースの言葉にさすがに嘘だろうと、聞いていた周りも訝しむ。

 

「さすがにガキの頃は誰しもボコられたぐらいはあるでしょ?」

「それがね、本当にないのよ。バウトは子供の頃から大人に負けないくらい腕っ節が強くてね。スラムの大人にも負けたことがないのよ。それでついたあだ名が喧嘩屋。喧嘩を職業にしていたようなものだったからね」

「確かにこの光景を見てたらそれも頷けますね。レベル、いくつあるんだ?」

「70」

「70⁈」

「自己申告だけどね。さすがに噂半分だと思うけど」

 

 人類のレベルの上限は殆どの者が50程度だ。だが稀にその境界を逸脱する者がいる。そういった者を『逸脱者』や『超人』と、この世界の者は呼んでいる。

 アブソリュート・アークやヴィラン・アーク。

 光の剣聖……バウトもその一人だ。


「そろそろ私達も行くわよ」

 

 バウトを補佐するべくブルース達主力部隊が動き出した。闘いは更に激化していく。

 

 ♢

 

「なんだあの化け物は……」

 

 本陣にいる誰かがポツリと漏らした。

 それは誰しもが抱いていたものだ。

 武器や魔法といった攻撃が効かない。

 何より強烈なのが一人で何千もの兵を相手にしていることだ。彼の拳は大地を割り、千以上の人間を飲み込む災害のようだ。この強さはまさに、一騎当千の戦士。

 そんな異様な光景を目にして王国軍の士気が異常なほどに低下していた。

 喧嘩屋バウト……認識を誤った。

 彼は剣聖に並ぶ、万を相手にできる化け物だった。

 このままではここを突破されるのも時間の問題だ。

「先生は……光の剣聖はまだ来ないのですか?」

 その言葉を聞いて周りにいる大人達がなんとも言えない顔になる。

 少し前に応援の要請を送った筈だ。

 もう少ししたら剣聖が来てくれるのではと期待していたのだ。

 だがその希望は容易く打ち破れることになる。

 

「王女様……剣聖様は来られません」

 

 騎士団長が振り絞るような声で静かに言った。

 先生が来ない?

 それは何故? 理解が追いつかない。

 

「――⁈ それはどうして?」

 

「じつは、数時間前に領主邸が何者かに襲撃された報告がありました。剣聖様は賊を相手一人で応戦されており、こちらへの増援は厳しい状況です。せめて、剣聖様が来られるまでは代わりに我々が王女様をお守りすると思っていたのです……報告が遅れてしまい申し訳ございません」

「⁈」

「これは、王女様に負担を掛けまいと私の独断で情報を止めておりました」

 

 騎士団長は決して悪気があったわけではない。

 ただレオーネ王女は、今回が実質的な初陣である。

 側から見たら気負っているのは一目瞭然であり、これ以上はレオーネがプレッシャーによって潰れかねないと危惧しての決断だった。


 だがレオーネは、それを『自分が頼りないからだ』と曲解して受け取ってしまう。

自分が皆から信用されていないから、何も知らされなかったのだ。

 悔しさを紛らわすために無意識に爪を噛む。

 ここに来て何度も噛み続けた彼女の爪はボロボロだった。

 

 (大丈夫、切り替えて今やるべきことをやらなくちゃ)

 

 剣聖が来られないならこの中で一番強いのはレオーネだ。

 今こそ王族としての務めを果たせと心が言っている。

 

「私が出ます。皆さんは残った兵をまとめて撤退してください。このままでは無駄死にです」

「なにを仰るのですか! いけません!」

「お止め下さい!」

 

 天幕にいる騎士たちはレオーネを止める。

 レオーネの実力は分かってはいるが、あの化け物は次元が違う。アレはもはや災害なのだ。人の手に負えるものじゃない。

 

「行くなら私どもが行きます。王女様お逃げください!」

 

 騎士達は食い下がるがレオーネは聞く耳を持たなかった。

 

「私はライナナ国で奇襲に遭い一度死にかけました。ですが、その時仲間の一人が自らを犠牲にすることで他の者は生き残りました。その一人は幸い無事でしたが、あの時ほど己の無力を呪ったことはありません。もう、誰も死なせたくないのです」

 

 ライナナで己の無力さ、命をかけた勝負の怖さ、そして命の重みを知ったのだ。

 負けると分かっていても、王族として皆の盾になって逃げる時間は稼いでみせる。そうレオーネのなかでは固い決意に変わっていた。

 

(――後のことは、お兄様がなんとかしてくれるだろう。先生……私は貴方の言った通り皆の為に戦います。これでいいんですよね? 私逃げませんよ、皆んなの為に戦って死にます。

 これが…………正しいんですよね?)

 

「分かりました。では私がお供致します。他の者は撤退しろ」

「そんな騎士団長!」

「どのみち私は残るつもりでした。王女様、貴女の献身に感謝致します」

 

 話し合いの結果、レオーネと騎士団長、同じく残ることを申し出た数人の騎士と兵を残して撤退することになった。そして、いざとなったら王女を逃すと騎士団長に強く説得された。

 


 私達は戦場を馬で駆けた。

 騎士団長を先頭にして、中央に私。そして両端に騎士を置き菱形の陣形だ。

 近づくと馬上でも見上げてしまうほど、あの化け物は大きかった。

 

「残るはお前らだけか……」

「賊ごときがよくもやってくれたな。覚悟しろ、スイロク王国軍騎士団長ギルス・パーシアス参る!」

 

 馬で駆けながら抜剣する。

 馬を使って機動力で掻き乱しながら時間を稼ぐ作戦だ。

 二手に分かれ騎士団長とレオーネで左右を挟みバウトに挟撃を試みる。

 両端から繰り出される横薙ぎの一閃。

 バウトは驕り、それを避けようとすらしなかった。

 騎士団長の一撃はバウトの身体を傷つけることなく皮膚の上で剣が止まる。

 だが、レオーネ王女は違った。

 

 レオーネの一撃はバウトの首を浅く傷をつけた。

 ここに来て初めてバウトは血を流す。

 部位が部位だけに小さな傷でもかなり出血しているが問題なさげだ。

 

「ほう、そこの女は少しだけやるようだな。レベルにして40いくかいかないくらいか? レベルが50近くあったら死んでいたかもな」

「私を忘れるな!」

 

 騎士団長がバウトの眼球目掛けて突きを放つ。

 眼球などの弱い部分なら、と勝機を探っているのだ.

 だが――

 

「邪魔だ」

 

 バウトは騎士団長を、まるで蚊トンボを払うかの如く剣が届く前に殴る。

 すると、拳を振り切るままにギルスの首から上がなくなっていた。

 

「そんな……ギルス騎士団長――――!!」

「次はお前の番だ」

「っ!」

 

 レオーネはヒットアンドアウェイを繰り返しながら、なんとかバウトの身体に傷を増やしていく。

 『もしかして勝てるのでは?』

 そう錯覚した瞬間、レオーネの心を折にくる。

 バウトはレオーネの攻撃に対し、剣の刃を指でつまみ白刃を止めて防いだ。

 

「嘘でしょ……なんで――」

 

 こんな出鱈目なことあってよいのだろうか。

 スピードでは模擬戦でも、国の騎士団の精鋭よりも随一と言われたレオーネの剣をいとも簡単に防いのだ。目の前で起きている状況に目を剥く。

 

「惜しいな……時間稼ぎのつもりだったのだろうが、少し狙いが露骨すぎだ。こちらから隙を作ってやればこんなことは造作もない。まぁ、お前に俺と戦う気があれば少しは楽しかっただろうがな」

 

 バウトが正拳突きを放つ。

 ただの正拳突きではなく、確実に仕留めるための一撃だ。

 

 (あっ死んだ)

 

 目の前の光景がスローに見え、自分の生死を自覚した。

 命を刈り取ろうとする死神の鎌のごときバウトの拳がゆっくりとレオーネに向かってくる。

 死の淵になりレオーネは恐怖で頭がいっぱいになる。

 

(恐い――)

(あぁ、嫌だ――死にたくない)

 

 死を覚悟した刹那。目の前で二つの影が拳とレオーネの間に割って入った。残った騎士の二人だった。

 二人はレオーネを突き飛ばし自分達が身代わりになろうとしているのだ。

 

 『駄目――逃げて!』

 

 叫ぼうにも、言葉が出なかった。

 彼らの行動は、かつてレオーネのために命を捨てようとしたライナナ国の友人、ミスト・ブラウザを彷彿とさせた。

 徐々に迫る拳が二人の騎士の上半身から上を吹き飛ばした。

 その後ろにいたレオーネは打撃の直撃を逃れたが、拳圧で数十メートルまで吹き飛ばされる。

 着地の時に頭と背中を強く打ちそのまま意識を手放した。

 レオーネとバウトとの闘いは勝負にもならず決着した。


 ♢


 闘いはあっけないもので終わった。

 少し暴れただけで王国軍の心が折れ生きている者は皆、遁走していった。

 バウトは残された王国軍の陣地へと歩を進める。

 兵士は遁走したがまだ強者の匂いはそこにあるからだ。

 

「王国軍が逃げ出しても大将は逃げないか……。傲慢で愚かな考えだが、嫌いではない」

 

 バウトはこれから起こる闘いに胸を躍らせる。

 バウトは匂いのする方へと歩いていくと、他のものより大きな天幕に行き着いた。

 

「失礼する」

 

 敵とはいえ女性の天幕に入るのだ。断りを入れて中に入る。

 するとそこにいたのは――

 

「もぐもぐ、うまうま」

 

 お菓子を口いっぱいに放り込んだ獣人のメイドがいた。









 バウト

32才

スキル

・大地讃歌 v7……地面に触れることで大地に干渉し、広範囲に土属性の魔術を使用できる。

               

ステータス

レベル :70

身体能力:550

魔力  :255

頭脳  :30


習得魔法


技術

拳闘士 無双 飢餓耐性 強者判別の嗅覚 肉体強固



――――――――――――――――――――


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是非フォローをよろしくお願い申し上げます。

@Masakorin _

 




 

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