第51話  夏休み (19)

「そんなことが……ごめんねもう少し場所を選べばよかったかもしれないわ」


 そう言って謝ってくるお母さん。


 夕方までショッピングモールで過ごした僕たちは家に帰ってきた後、中学時代の知り合いに会ったことを親に話した。


「いや、いいんだよ。僕としては過去と向き合えて、柚花のおかげで乗り越えることができと思ってるから」


 これは心から思っていることだった。


「そっか……ならお礼を言わなければいけないのかもしれないね。私たちは凛に何もしてあげられなかった……何から何まで凛のこと、本当にありがとう」

 とお父さんは柚花に対して頭を下げる。


 お母さんも、目を若干潤わせながらもお父さんと一緒に頭を下げた。


「頭を上げてください。私としてはもっと言ってあげたいぐらいだったので満足していません。それに、結果的に凛くんの為となっただけで私がやりたい様にやっただけなので」

 と頭をあげるよう柚花は促した。


 2人の姿から、今まで口に出さなくてもずっと心配してくれていたのだと改めて気付かされる。


 2人は僕に対して何もしてあげられなかったという。

 いつもは恥ずかしくて素直に言えないが、こういう時だけは伝えた方がいいのかもしれない。


 何もしてあげられなかったと思わないで欲しいと。


「お礼を言うのは僕のほうだよ。2人は僕に何もしてあげられなかったって言うけどさ、僕のわがままにも近い一人暮らしを許してくれたから今の僕はあるんだ。だから何もしてあげられないなんて言わないでほしい。2人の理解がなければ僕は前にも進めてないし、柚花とすら出会えてなかったから。柚花にも僕は感謝してるんだ。心から僕は柚花と出会えてよかったと思ってるよ。だから、3人とも本当にありがとう」


 深く、深く、僕は頭を下げた。




 少ししんみりとした空気になってしまったが、その後はいつも通り楽しく4人で夜ご飯を食べた。


 柚花とお母さんはそれぞれ今日見た洋服の話を、僕とお父さんは世間話をした。


 久しぶりにここまで長く親と会話したかもしれない。

 今後もこうした会話は増やしていけたらなと思う。

 それには、電話をするか、休み期間などのタイミングで帰省しなくてはいけないのだが、2人に心配をかけない為にも定期的に電話をしたり、会いに行ったりはしようと思う。


 もうここに戻ってきたくない理由は無くなったのだから。





 ――――――――


「また、長期休みの時は帰ってくる」


「短い間でしたがありがとうございました」


 次の日の朝、お母さんに駅まで送ってもらった。


「お礼を言いたいのは私の方。柚花ちゃんありがとうね。そして、これからも凛のことよろしくね」


「もちろんです!責任持って面倒見させてもらいます」


「うん。お願いね」


「いや、そんなに面倒見てもらうほど幼くないからね?僕は」


「はいはい。こまめに連絡はしなさいよ」


「わかった。電車くるから行くね」


 そう言って、僕と柚花は改札の中へと入った。





 移り変わっていく景色の中、僕はこの夏休みのことを思い出す。


 色々あったな……本当に色々あった。


 美奈にもらったチケットで旅行に行き、そこで柚花と付き合うことができた。

 柚花の提案で帰省をし、そこで中学時代のあれこれに終止符を打つことができた。


 中学で色々あり、高校に上がると同時に逃げるようにして地元を離れた僕は、結果として中学時代よりも濃い時間を過ごしている。


 本当に人生というのは何が起こるかわからない。


 元々1人が好きで、もっと1人で居ようとしていた僕は、いつの間にか1人ではダメな人間にされているようだ。


 柚花には沢山のものや経験をさせてもらった。

 これからは僕が柚花に与える側になりたいものだ。

 もう少し努力しないといけないかもだけど、柚花のためなら頑張れるだろう。


「なんか嬉しいそうだね」


 柚花から指摘を受けた。

 そんなに嬉しそうな顔をしていただろうか。


「そうかな?まぁ、嬉しいというより幸せかな」


「ふふ、それは私といるからってこと?」


「そりゃーね。柚花がいるから僕は幸せなんだよ」


「な……わ、私も幸せだよ。大好きだし」


「うん。僕も大好き」


 照れながら2人でお互いの気持ちを確かめ合う。


「あのさ……」


「ん?」


「家着いたら本格的に凛くんと一緒に住もうかなって思うんだけどだめかな?」


「それはいつもみたいに寝る時だけ家に帰るとかをしないでってこと?」


「そう。洋服とかはあっちに置いとくけど、基本的な生活は全部凛くんの家でしようかなって」


「いいと思うよ。僕も毎日寂しいと思ってたから」


「やった〜これからもっと楽しくなりそうだね」

 と柚花は満面の笑みで笑う。


 柚花の言う通りで、これからもっと楽しくなりそうだ。


「そうだね。改めてこれからもよろしくね」


「うん!よろしくね」


 固く繋がれた2人の手。


 そんな仲睦まじい2人を乗せた電車は、2人の新たな関係へと向かうかのように走り続けた。


___________________________________________

51話読んで頂きありがとうございます!


これでニ章完結です。


三章においてはまだ全然考えられていないのでこれからになると思いますが、柚花の親や学校の行事など色々書いてないこともあるのでいずれは書くと思います。


再開した際にはぜひ読んで頂ければ嬉しいです。

より面白いと思って頂ける内容を書けるよう頑張ります!

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映画館で意気投合し友達になった美少女〜実は隣の家に住む、地味な女子でした まき さとる @TaKa1025

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