第22話 体育祭 その6
席に戻って来てからは、のんびりと午前中の競技を見ていたのだが、気が付けば午前中最後となる南美女子1年の騎馬戦が始まろうとしていた。
……柚花と桃崎さん同じ騎馬なんだ。
柚花が上となり下の正面に桃崎さんが構えている。
右翼左翼の人たちは知らない人だ。
騎馬戦は頭に鉢巻を巻き取られたらアウト、騎馬を崩されてもアウト。
団体戦と個人戦で分かれており、団体戦は大将がアウトになった時点でその団が負け。
個人戦は一対一で当たっていき最終的に勝利数の多い方が勝ちとなる。
個人戦、団体戦共に赤団対青団、赤団対黄団、黄団対青団の順番で行うらしい。
先に個人戦を行い団体戦を行うのでかなりの時間がかかるとプログラムに書かれていた。
……その間女の子は裸足なわけだろ、絶対痛いだろうな。女子じゃなくてよかった。
赤団対青団の個人戦が始まった。途中寝てしまって見てはいなかったが、赤団が喜んでいたので多分赤団が勝ったのだろう。
次の試合は赤団対黄団、柚花の試合だけは見ることにしようと思う。
柚花の試合となったのだが……少し目が悪くなっただろうか。
柚花からよくわからないオーラが見える気がするのだ――例えるならスーパーサイヤ人みたいな感じ。
もしかしたら、柚花を怒らせてはいけないのかもしれない。
柚花の試合が終わった。
やっぱり柚花を怒らせてはいけない――この試合で理解した気がする。
試合開始直後、「突っ込めー」と桃崎さんが暴走したかと思ったら、「いっけー」とあの柚花が叫びながら相手の鉢巻を目に見えない速度で奪ったのだ。
審判の先生ですら、「え……もう終わったの??」みたいな顔をしていた。
怖すぎる……怖過ぎるよ……あんなの喧嘩して顎にジャブとか打たれたら即落ちする自信あるよ?
青団との個人戦も柚花は一瞬で勝負を決めていた。
……柚花楽しそうだな。
先程までは冗談半分で怖いとか言っていたけれど、この心の声だけは無意識にでた言葉だった。
今までこんな事を思ったことはない――1人がいいと心の底から思っていたから。
柚花と言う友達が出来たのだって、僕の中では奇跡に近いことなのだ。
そんな僕が、友達と喜ぶ柚花を見て楽しそう、羨ましいと思っている。
……俺は、本当は友達が欲しいのか?
確かに最近は1人でいるよりも柚花と一緒にいる事が多いから1人で居るのが好きとここの中で呟くことは無くなっている気がする。
だが、学校に来るとまた1人で居るのは落ち着く、心地よいと思うのだ。
……では、この気持ちはなんなのだろう。
わからなくなった僕は先程まで見ていた、喜ぶ柚花の方を見た――すると、柚花もこちらを見ていた。
柚花と目が合う……距離があるから目が合っているかも確かではないが、目が合っているように感じる。
いや、やっぱり柚花と目が合っていたみたいだ。
僕に向けて柚花はピースをして来たからだ――満面の笑みで。
とても可愛いと思った……。
友達と喜んでいる中で、ピースをしてくれていることに嬉しいと感じた……。
ピースを僕に送ってくれている――それだけで柚花以外の友達はいらないと思った。
……そうだ、僕は友達と喜ぶ柚花に対して羨ましいと思ったわけではないのだ。柚花と一緒に喜ぶ友達に対して羨ましいと思ったのだ。
柚花が友達と喜ぶ姿を見て、僕は嫉妬を……。
この嫉妬は友達としてなのだろうか。
それとも……いやもう考えるのはやめよう。
余計な事を考えて、今の楽しい時間が崩れてしまうのが嫌だから。
……考えるのはやめよう。
ピースをしてくれている柚花に、僕は小さく拍手を送った。
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