第12話  バイトについて2

バイトについて2

次の日学校が終わり、最寄駅で待ち合わせした僕と柚花はバイト先に向けて歩いていた。


「まさかこんなに早く、バイトが見つかるとは思ってもいませんでしたよ」


「まだ決まった訳ではないけどな」


「ふふ、そうでした」


柚花の笑顔に僕は一瞬だけ心臓が高鳴った。


僕はどちらかと言うと、家にいる時の柚花の方が好きだったりする。

好きと言うのは友達としてと言うことなのだが。

外行きの柚花は中身さえ変わっていなくても一応は外様用なのだ。

家の中の柚花の方がありのままな感じがするし、僕的にも接しやすかったりする。


だけど、最近ふっとした時に見せる笑顔などが外行きなのだが、家で一緒に過ごしている時の笑顔を見せる時があり、ドキッとしてしまう事があるのだ。


「どうかしましたか?」


そして、最近僕の心の中が読めるのかやたらと柚花の質問のタイミングがいい。

もしかしたら柚花にはいずれ隠し事さえできなくなる時が来るのかもしれない。


「なんでもないよ」


そう言って僕たちは今度見る映画の内容を話しながら喫茶店に向かって歩いた。




「やっぱりこの喫茶店の入り口は私好きです。とても落ち着いた雰囲気で、ゆっくりしたい時に入りたいと思える場所です」


喫茶店に着いた時、柚花からそう言われた。

そう言ってくれると僕からしても嬉しい限りだ。


「ありがとう!後でお婆ちゃんにそのまま伝えてくれたらいいよ」


「恥ずかしくて言えるか分かりせんけど……言えたら言わせてもらいますね」




僕は従業員用の入口から、柚花は喫茶店入口から入った。


「あ、美奈おはようってまたかよ」


着替えようとしたら、先に来ていた美奈が着替えていた。


「おはよう凛ちゃん。それでさ、もう確信犯ってことでいいよね?従姉弟の体を見たくてわざと入ってくるってことで」


「何言ってるのか……とりあえず早く着替えてホール行ってくれ。もう面接を受けに来てくれてる僕の友達が着てるから」


「あら、そうなの。凛ちゃんのお友達ね、どんな子なのかしら!お姉さん楽しみ」


「やめなよ。その言い方なんかお婆さん臭いぞ」


「凛ちゃん!!流石に言っていいことと悪い事があるよ!全く!私だってまだ気持ちは女の子なんだからね!!!」


「はいはい!とりあえず凛ちゃんって呼ぶな」


「ふん!凛ちゃんがおばさん呼ばわりした罰だもんね!じゃー行ってくるね。私とお婆ちゃんですればいいんでしょ?」


「うん。その間は僕が全部1人で回すから」


「頼もっしい!じゃーよろしくねー」


そう言って美奈はホールに出て行った。

僕は一応、ホールもキッチンもできる。

そして、やろうと思えば一人で全部回す事ができるのだ。

めんどくさいし大変だからやりたくないけど……


とりあえず少しだけの辛抱なので今回は柚花のためと思って頑張ってやろうと思う。



着替えて、少し早めにホールに出ようとした時、ものすごい勢いで美奈が戻って来た。


「ねーねー凛ちゃん聞いてないんだけど。何あのキラキラしたオーラ全開の子は。あれが凛ちゃんの友達なの??」


「あー言ってなかったっけ。あれは外行き用だよ。そして、あれでも僕と趣味がものすごく合う!」


「そ、そうなんだ。可愛いというか美人というかなんか完璧すぎたからこっち戻って来ちゃった」


よく言ったもんだ。

大学でのこの人の人気度は本当にすごいらしい。

この間大学の友達(全員女子)が僕に話してきたので覚えている。


「何言ってるのか、美奈も人のこと言えないだろう。美奈のどこがいいのかなんて僕にはわからないけどね」


僕がそう言うと、


「ふん!凛ちゃんに私の可愛さ、美しさがわかるわけないでしょ!まだお子ちゃまなんだから。とりあえず待たしてるから戻るね」


そう言って美奈は戻って行った。



17時から始まった僕の一人営業は結局17時45分まで続いた。

正直地獄だった。

45分も何を面接したと言うのか……絶対美奈が余計なこと聞いたりしたんだろな、と思いながら面接が終わり喫茶店の入口から出て行く柚花と一回目線を合わせた後また僕は仕事に集中するのであった。



だいぶお客が減ってくると、美奈が僕に話しかけてきた。


「あ、柚花ちゃん無事バイト採用だって!話してみたら案外話しやすい子だったね!」


「でしょ!だからこそ僕の友達になったんだよ彼女は」


僕がそう言うと、


「一応、シフトは全部凛ちゃんと被せることにしたから。水曜日と土曜日、日曜日は二人で映画デート!なんでしょ!」


「はぁ〜やっぱり余計な話ししてたか。それにデートじゃないしな。まあでもそれは助かるかもしれないありがとう」


「いいえ〜!ジュース一本で許してあげる!」


「何言ってるんだよ。美奈のせいで僕は45分間も一人でお店回したんだぞ。もうくたくただよ」


「まぁまぁそんなこと言わないの」


そう言って軽く流されてしまった。




いつも通り21時まで働いた僕が家に帰ると、とてもいい匂いがリビングの方から漂ってきた。


疲れて家に帰ってきて、ご飯がある。

これが家庭を持っているサラリーマンがよく口にしている幸せなのか……そんなことを思いながら、キッチンで作業をしていた柚花に僕は、


「今日も作ってくれてありがとう!そして、バイト決まってよかったね。これからよろしく!」


そう告げるのだった。


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