第13話 映画館での出来事
柚花のバイトが決まった次の日、早速バイト!とは、ならなかった。
ちょうど水曜日だったのだ。
学校が終わり、最寄りの駅で待ち合わせした僕と柚花は映画館に向けて歩いていた。
「今日は前から見たいって言ってたやつですよね」
「そうそう!柚花はそれでよかった?」
「いいですよ。私も見たかったですし」
柚花はこう言う時、無理に合わせようとはしない。
だからこそ、心から言っているのだと僕は思った。
「わかった。ならこれにしようか。今日は何か買う?」
「ドリンクは絶対として、ん〜チュロスにしようと思ういます」
「お!いいね!じゃー僕もそれにしよう」
そう言って、僕と柚花はドリンクとチュロスをお互いに注文し劇場内に入りました。
ちなみに今回僕が見たかったのは詐欺師が主人公の映画。
これはドラマにもなっていた作品で、映画もこれで確か4作品目となっていたと思う。
チュロスは食べているとシナモンがボロボロ落ちてしまうので、映画が始まる前に僕と柚花は食べてしまうことにした。
そして、食べ終わった頃に劇場内も暗くなり、映画が始まった。
「ふぅ〜やっぱりこの映画は最後までどうなるかわからないね」
「そうですね。毎回この映画だけは読みが外れます」
「確かに……これ当てられる人いるのかね」
お互い映画が終わり、他の人が出るのを待ちながら話す。
会った同時からそうだが、こうして他の人が出るのを待つのは柚花自身もやっていたみたいだ。
「今日の夜ご飯はどうします?」
「そうだね……もう食べて帰っちゃう?」
この提案をした事を後悔した。
だって食べて帰ってしまうと、柚花が家に寄る必要がなくなるから。
今まで一人でも全然大丈夫だったのだが、今では柚花が居ないと少しだけ寂しいと僕は思ってしまう。
「いいですけど、それでも凛くんの家にはお邪魔しますからね??」
案外、柚花は僕の家に寄ることが当たり前だと思っているみたいだ。
後悔したのが勿体無く感じてしまった、と言うかホッとした。
「う、うん。それは全然いいよ。じゃー食べに行く前に、ちょっとトイレ行って来るね」
「あ、わかりました。私はここで待ってます」
「了解」
そう言って僕はトイレに行くことにした。
―――――――――――――――――――――
今日は凛くんと映画館に来ています。
映画を見終わった私はトイレに行っている凛くんを待っているところでした。
(何を食べようかな……昨日は魚だったから今日は凛くんお肉系が食べたいって言いそう)
そう考えていると、私に誰かが近づいてくる感じがしました。
(凛くん早いな。今行ったばかりなのに……わざわざ急いでくれたのかな)
待っていると私が言ったことで、凛くんを急かしてしまったのではと思い、少しだけ後悔しました。
だから、一言謝ろうと思っていると、
「もしかして、青園さん?」
凛くんには呼ばれることのない呼ばれ方で私のことを呼ばれました。
その瞬間、今の今まで上がっていたテンションが一気に下がったのを感じました。
その人の声は聞き覚えがあったからです。
そして、その人が原因で私はバイトを辞めたのだから。
案の定顔をそちらに向けたらバイトで一緒だった人でした。
「はい……そうですが。何か御用ですか?」
私の中で一番低いテンションで答えます。
こんな姿、絶対に凛くんになんか見せたりしません。
「やっぱりそうだ!そう言えば、急に青園さんバイト辞めちゃうからどうしたんだろうって心配してたんだよ」
「あなたに心配される必要はないと思うのですが。それで、もう一度聞きますが何か御用ですか?」
と言うかここに居るのに1人で居ると思うんですかね。
本当に凛くん以外の男子は嫌いです。
何か一つのことに気を取られると周りが見えなくなるから。
「いや、そんな嫌がらなくてもいいじゃん。バイトで一緒だったんだからさ」
そう言って私にまた一歩近寄って来ます。
いつもなら一歩下がるのですが、今日は壁際に居るせいで下がれません。
もうトイレにでも逃げ込もうと思いました。
「バイトが一緒だっただけで、なんだと言うんですか。私はあなたと話したいとも思わないです。トイレに行きたいのでこれで失礼しますね」
それだけ言って私はその場を去ろうとしました。
ですが、
「ちょっと待ってよ。俺も話したいことまだあるんだしさ」
私は手を掴まれてしまいました。
「あの、ちょっと、離してください」
「嫌だよ……だってどこか行こうとするじゃん」
そう、私が嫌がっていたのはこれなのです。
この人はバイトの時から人の事なんて考えずとても自分勝手な人でした。
そして、そんな人が私と連絡先を交換したいと言っていたのです。
私が断ってもこの人は自分勝手に交換したがると思いました。
だからこそバイトをやめたのです。
「私は話したいと思いません、と言ったはずです。本当に離してください。人を呼びますよ」
「いや、それは困るけど……話せないのも嫌だ」
本当にこの人は何を言っているのですか。
凛くん、助けてください……
―――――――――――――――――――――
(はぁ〜スッキリした。結構並んでて時間かかっちゃったな……急がなきゃ)
トイレを済ませた僕は、時間がかかってしまったので、少しだけ駆け足で柚花のところに戻ることにした。
元の場所に戻ると……
「人を呼びますよ」
少しと言うかかなり怒っている柚花の声が聞こえた。
さらによく見ると、柚花は知らない男子に腕を握られていた。
(おいおい、それは流石にやばいだろ)
そう思った時には僕の体はかなりのスピードで映画館内を走っていた。
そして、柚花の元に戻ってきた僕は、
「柚花ごめんお待たせ。と言うか誰か知らないけど、とりあえずこの手を話そうか」
とりあえず男子の腕に力を込めてチョップをした。
結構いい箇所に当たったのだろう男子はすぐに手を離した。
「痛、、何するんだよ」
そう言って怒りを露わにする男子。
その男子のことは気にせず僕は柚花に声をかけた。
「大丈夫?柚花。痛い所とかは……」
「凛くん……は、はい。ありがとうございます。痛くはなかったのでまだ大丈夫です」
「そっか、ならよかった」
僕と柚花の会話を聞いてもっと腹を立てたのだろう、その男子はもっと言葉を強め、僕に話しかけて来た。
「おい。無視するな!お前は誰だって言ってるんだよ」
僕は腹を立てていた。
柚花に怖い思いをさせた事を。
そして僕は、普段は使わない言葉遣いを使っていた。
「いや、見ればわかるだろう。お前よりかは明らかに親しい仲だよ。お前の方こそ誰だよ」
「俺より親しい仲……お、俺は、バイトで一緒だった者だ」
「ふっ、それだけだろう。バイトで一緒なだけだった人が柚花に何かようなのか?今、柚花は僕と出かけているんだが、用がないなら邪魔しないでもらえるか」
「お前こそ何を言ってんだ。青園さんがお前みたいな奴と一緒に出かけるわけがないだろう」
お、おい。
こいつ周りが見えて無さすぎるだろ……今だって僕も柚花もお互い名前で呼び合っていたじゃないか。
そう考えていると、後ろに隠れている柚花が僕の洋服の裾をチョンチョンと引っ張って来た。
「ん?どうした?」
柚花にしか聞こえないように質問をする。
「あの人、見ての通り自分勝手で周りのことが見えない人なんです。私はそれが理由でバイトを辞めたようなものなので…… 」
柚花も僕にしか聞こえない声で伝えて来た。
なるほど……バイトを辞めた原因があいつだったか。
まぁ、あれと一緒なら僕も即やめるだろう。
「おい、無視をするな」
僕が答えない事にまた腹を立てているのか、さらに強く言ってくる。
「とりあえずお前は柚花と何をしたいんだ」
「何をって決まってるだろ。連絡先を交換して、今日はそのまま一緒に遊ぶんだよ」
本当にこいつはやばい奴だ。
だが、このままでは埒が開かないので一応柚花に聞いてみる事にした。
「と、言っているが柚花は連絡先を交換して遊ぶつもりはあるのか?」
「いえ、交換もしませんし遊ぶ事もしません」
そう即答で、きっぱり断った。
「だってよ。これでもうわかっただろ」
僕がそう言うと、
「な、なんでだよ。青園さん。交換ぐらいしてもいいだろう」
なんて、諦めの悪い奴だ……
「なんでも何もありません。私はあなたとは交換したくないのです。逆になぜ私があなたと連絡先なんかを交換しなくてはいけないのですか?頼み方と言うものも知らず、離れようとする人の事を力でどうにかする人なんて交換するに値すると思いませんが」
全くその通りだと僕も思う。
「で、でも……」
まだ駄々をこねるつもりらしい。
なので僕は最終手段を取ることにした。
「もうそんなにしつこいなら警察を呼ぶからな」
「け、警察なんて。わ、わかったもう帰る、帰るよ」
そう言って、逃げるように去っていった。
こう言う時の警察と言うのは本当に役に立つと思った。
「はぁ〜なんか疲れたね」
「そうですね。助けてくれてありがとうございました」
「いいって、柚花は何も悪くないんだし。お腹すいたし早くご飯食べに行こう」
そう言って僕と柚花は夜ご飯を食べに行くのでした。
今日はハンバーグの気分だな……そう思いながら。
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