第38話  夏休み (6)


 泊まる旅館に到着した。


 今回泊まる旅館は、自然の中に溶け込むような外観とバックに見える湖と富士山がとても良い雰囲気を出している。

 旅館の雰囲気をあえて古くしているのも、自然との違和感を無くすためにされた工夫なのだろう。


 旅館の部屋はコテージのような独立型になっているらしく、フロントから鍵をもらい、外に出てそれぞれの部屋に入る形となっていた。


 柚花と2人、完全なる独立空間。邪な考えなんてこれぽっちもない僕でも、少しばかり柚花とのあれこれを想像してしまう。


 それほど、この周りの自然、旅館の雰囲気、独立型の部屋と言うのは、現実離れしていて特別だと思える。


 普通なら一泊5万以上するだろう。いや、それ以上かもしれない。今回ばかりは美奈に感謝をしないといけないな。





 鍵をもらい、僕たちは部屋に向かう。


 お互い緊張しているのか会話はない。それでも手を繋ぎ、時々柚花から手をニギニギされるので、お返しに僕も柚花の手をニギニギし返す。


 ……こんなコミュニケーションもあるんだな。


 素直に僕はそう思った。



「あ、ここだ」


 僕たちが泊まる部屋に到着した。


 玄関と言うのか、入り口と言うのかわからないが扉の横に『蘭 彗星』と書いてある。


 彗星蘭、これは別名で本名はオドントグロッサム。

 花言葉は「特別な存在」


 とても縁起が良いと感じた。

 応援されている感覚がして少しだけ嬉しくなった。


 何故そんな花言葉知っているのかって?……柚花に花をプレゼントしようと考えていて、最近よく調べていたから。


 なんか恥ずかしいから忘れてくれ。


「入る前から良い部屋だね!」


 柚花がこちらに笑顔を向けた。

 柚花も彗星蘭の花言葉を知っていたのだろう。


 ……良い部屋か。

 遠回しな言い方をしているがしっかり僕に伝わよう言うところ、少しばかり性格が悪いなと思ってしまう。


 そんなところも可愛く思うし、好きであるから全く嫌だとは思わない。


「確かにそうだな。このままずっと良い部屋であってほしいものだな」


 それだけ言って僕は鍵を開けゆっくりと扉を開けた。

 ほのかに木の香りがする。


 部屋の中央にある大きな木の柱とその先にある大きな4面の窓から見える湖と富士山の姿が目に飛び込んでくる。


 4Kの液晶画面で映像を見ているかのような景色が、大きな4面窓から見ることができた。


 湖には波紋、一つなく綺麗に富士山が反射している。


 この眺めだけでお腹がいっぱいになりそうだ。


「すごく綺麗……」


 隣からポツリと言葉が溢れる。


「本当だな。まるで柚花みたいだ……」


 だからか、僕自身も予想もしていなかった言葉がポロリと溢れてしまった。


「………………ありがとう」


 それだけ言って、顔を真っ赤にした柚花は靴を脱ぎ部屋の中へと入っていった。






 今回泊まる部屋の構造は、2階建てとなっており一軒家みたいに廊下があったりとかはない。居間のちょうど真上にロフトとも言える空間があり、そこが寝室となっている。


 居間の横にはお風呂が設置され、露天風呂ではないものの浴槽から外を眺められるようにはなっていた。


 ちなみに、2人なら余裕で一緒に入れるくらいには大きい。




 荷物をまとめ終えた僕たちは、ご飯までの間をゲームをしながら過ごす。


 僕的にはご飯を食べた後に話がしたいので今はゲームに集中していた。


 柚花もそれは理解してくれているのか、何も言わずゲームを楽しんでいる。




 少しして、ご飯の時間になったため一旦部屋から出て旅館のフロント横にある食事処へと向かう。


 ご飯の時は部屋を出るのか……と贅沢な文句を思っていたが、出てきたコースの料理があまりにも美味しく、これは部屋を出てでも食べる価値があると考えを改めた。


 今まで食べてきた中では2番目に美味しい料理だった。もちろん一番は柚花の料理。なんというか愛があるから…………やっぱり今のはなしで。


 お腹がいっぱいになり、部屋に戻ってくる。


 その頃には、ゲームで楽しんでいた時やご飯を食べていた時とは違い、2人とも無言で居間の設置されている掘りごたつに座り、向かい合っていた。


 ついにこの時がやってきたのだ。

 そう……約束の時が。

 もう逃げる事はできない。

 だが、これまでとは違いワクワクする自分がいた。


 だからだろう、僕が話を始めたのは予想よりも早かった。


「約束だ。柚花、僕の話を聞いてほしい」


「……うん」


 僕は柚花の目を見る。

 柚花も僕の目を見る。


 こんな時でも柚花のことを可愛いと思ってしまう僕は本当に柚花のことを好きなんだろう。


「柚花、僕は柚花のことが好きだ。こんなシンプルなことしか言えないけど、柚花を思う気持ちは誰よりも強いと心から思ってる。どうか僕とこれからずっと一緒にいてほしい……僕の恋人になってくれ」


 もちろんもっと言葉は考えた。

 だけど、どんな言葉を述べたって結局好きで恋人になってほしいと伝えるのだから、シンプルで行こうと思った。


 好きになった理由とか経緯とかそんなのこれから伝えていけばいいのだ。


「私も凛くんのことが好き。無愛想で……嫉妬深いかも知れないけど、こんな私でよければどうか一生一緒に居てください。よろしくお願いします」


 柚花はとても綺麗な形で僕に頭を下げた。

 それに伴い僕も頭を下げる。


 なんだか、お見合いみたいな形になっている気がしたが、それはそれで僕たちらしいなと思う。


「じゃーこれからよろしくね凛くん!」


 顔を上げた柚花はそれだけ言って、その場に立ち腕を広げる。


 何をしてほしいのかなんて一言も言わない。


 もちろん言われなくたってわかっている。誰にでもわかるかもしれないけど……。


 僕はゆっくりと立ち、今まで柚花と過ごしたことを思い出しながら柚花へと近づく。


「あぁ、よろしくな柚花」


 そう言って柚花のことをギュッと抱きしめた。



 柚花との距離が初めてゼロ距離になった瞬間だった。

 そして、僕と柚花は映画館で隣になったことから仲良くなり、良き隣人、親愛しあう仲を経て恋人となった。

 とても嬉しいし、幸せである。


 だが、ここがゴールではない。むしろここからだ。


 柚花と付き合えた今、新たなる僕の目標は柚花の幸せを更新し続けること。


 悩むことや喧嘩をすることもあるだろうけど、それも全て幸せと言えるぐらい僕は努力しようと思う。


 その、覚悟も合わせて僕は言う。


「大好きだよ柚花」


「うん!ありがとう凛くん!私も大好きだよ」


 満面な笑みで思いを伝えてくれる柚花。


 改めて思う、僕の彼女は本当に可愛い……と。


 …………これからよろしくね柚花。


 もう一度、今度は心の中だけで僕は呟いた。





 あ、あとめっちゃいい匂いって思った!


___________________________________________

38話読んで頂きありがとうございます!


もちろん、これは通過点でしかありません。

これからも2人の関係はさらに深くなりながら話は続きます。

これからもよろしくお願いします!


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