第39話 夏休み (7)
「なんか緊張するね……」
「そうだな。緊張する」
「これが初めてじゃないのにね!」
「嬉しいそうだな」
「当たり前じゃん!大好きな人とこうして一緒に居られるんだから!まさか……凛くんは嬉しくないの?」
「いや、嬉しいに決まってるだろ。でもやっぱり恥ずかしいと言うか、何というか……」
「ふふ、顔が赤くなってる。可愛い」
「うるさい!ほら明日も早いんだからもう寝るよ」
「はーい」
僕たちは兼ねてカップルとなったその日の夜に同じローベットにて就寝するのであった。
と言っても、案の定寝られる訳がなく。
僕は、先程寝返りを打ち、背中を向けた柚花を眺めている。
暗い部屋。男心を擽る女子の寝息と外から微かにセミの鳴く音だけが聞こえる。
旅館の寝室、二つあるダブルサイズのローベッドのうち使われていると思われるベットは一つだけ。
すぐ隣にある、ローベットは入ってきた時のままでシーツがシワひとつなく伸ばされていた。
なぜ、こうなったのだろうか。
まさか、柚花から一緒に寝たいと言われるとは――。
つい、勢いでいいよと言ってしまったが、いざベットに入ると柚花がいつもより近くに感じて心臓がドキドキするのがわかった。
柚花の願いを聞いたことを少しばかり後悔する。
決して嫌ではなかった。むしろ嬉しかったし、柚花の頼みなのだから聞いてあげようと思った。だが、僕たちは付き合い始めたばかりなのだ。流石に飛ばしすぎだろう……これは。
そんなことよりも明日は2人で海に行くことになっている。
出来れば、数時間でも寝ておかないと日頃から運動をしているわけではない僕の体力は持たないだろう。
焦りつつ、目を閉じ頑張って寝ようと努力する。
すると、あっという間に僕は夢の世界へ入っていった。
そう、いつの間にか隣から寝息が聞こえなくなっているのも気がつかないくらいにはあっという間に……。
———————————————
――告白後の話
凛くんがお風呂に向かった。
なんだかんだで1人になるのは、これが初めてな気がする。
少しだけ、この時間に浸ろうと私は掘り炬燵の中に足を入れ頬杖をついた。
改めて、凛くんと仲の良い隣人から恋人という関係になった。
人生で初めての恋人である。
湧き上がる喜びの感情と共に、嬉しくもあり、幸せでもある。
…………と同時に、これから上手くやっていけるか心配だった。
私は少しだけ恋愛と言うものに恐怖心があった。
いや、正直今もその恐怖心というのはあるのだと思う。
好きで一緒にいると決めたはずなのに、一緒にいることで嫌いになってしまう。
別れる原因となるよくある例だと思う。
それが私には理解ができなくて、怖いと思うことだった。
恋愛経験がないからこそ、参考にできるのが他の人の経験談か本、テレビなどの情報。
「前はあれほど好きだったのに……」このセリフを何度聞いたり、読んだりしたことか。
凛くんを好きになった時、私もそう思ってしまうのかととても怖くなった。
それでも凛くんと付き合うと決めたのは、凛くんとはそうならない努力がお互いにできると思ったから。
他の人の話を聞いたり読んでたりした中で、好きではなくなるきっかけとなることが元を辿ると同じ理由な気がしたのだ。
相手との関係に満足し、していたはずの努力をしなくなったこと。
それが、好きから嫌いになっていく原因なのではないかと私は思った。
逆を言えば、お互いにお互いを幸せにできるよう努力し続けられれば嫌いになることはないのではないか。
それなら、心配することは何もないのかもしれない。
凛くんとならできる!自然とそう思えたから。
それなら、早速今日の夜から何か行動を起こそう。
そう思い、先程まで考えていたことを脳から放り出し、私は凛くんとの初めての夜に向けて思考を巡らせるのであった。
―――そして、現在
……………………失敗したかもしれない。
いや、これはもう失敗です。
夜に向けて考えたは良いものの、一緒に寝ようとお願いしてしまうとは。
よくよく考えてみれば、すぐにわかったはずなのに……大好きな人がこんなに近くにいて、寝れるはずがありません!!
近くにいるだけでドキドキしてしまいます。さらに、追い討ちをかけるかの如く、凛くんから同じシャンプーの匂いがして、ドキドキしてしまうのです。
少し凛くんをおちょくって見たら、あら不思議?!明日も早いから寝るよと言われてしまいました。
もう少しだけお話をしていたかったんですけどね……自業自得です。
仕方なく目を瞑ることにしました。
頑張って寝ることにしたんですよ??
ずっと目を閉じてましたし、寝息まで出していましたから。
なのに、寝れない。さらには、目を開けようにも凛くんも起きているため開けられない。
これが生き地獄というものなのですかね。
そろそろ目が疲れてきました。
もう、奥の手を使うしかありません。
寝たふりを突き通して、寝返りを打つ!
ゆっくり……ゆっくり……成功しました!
寝息は続けたまま目を開けます。
やっと解放されたと目が喜ぶのを感じます。
……………………私は何をしているのでしょうね。
凛くんと楽しい夜を過ごしたかっただけなのに、空回りしてしまいました。
明日こそは、明日こそは!……いや、これだから空回りしてしまうのですね。
明日は自然体で行くことにしましょう。そうすれば凛くんは絶対応えてくれるでしょうから。
少しすると、凛くんが眠りについた気がしました。
恐る恐る寝返りを打つとやっぱり凛くんは寝ていました。
なんだかんだで凛くんの寝顔を見るのは初めてかもしれません。
起こさぬよう、凛くんの顔を覗き見します。
…………この人が私の初めての彼氏なんだ。
寝顔までかっこいいとは……昔の自分に言ってあげたい。
貴方にもかっこいいと、好きと、言える人が出来たのですよ!!と。
この人と一緒なら私はやっていける!!
そんな風に私は思います。
たまたま隣に住んでいて、映画館で隣の席になった人。その人が今となっては誰よりも信用できる人で、側に居てくれないと嫌だと思える人になっているのです。
運命なんてわからないですね……と思っていると眠くなって来たのか欠伸が出てしまいました。
私もそろそろ寝ようと思います。
「おやすみ!また明日ね凛くん」
そう言って、凛くんのほっぺにキスをした後、凛くんの方を眺めながら私は目を閉じ、眠りにつくのであった。
―――そして次の日
…………2人して、大遅刻をするのであった。
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39話読んで頂きありがとうございます!
次からは旅行二日目となります。
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