第49話 夏休み (17)
「ここが凛くんが育った街なんだね……」
当たりをキョロキョロ見回しながら、柚花はいう。
僕の実家に来てから2日目の早朝、少し早く起きてしまった僕と柚花はまだ涼しいからという理由で街の散策に出かけた。
散策といっても、僕からしたら見知った街なので柚花に対して僕が案内する形で散策している。
なんだか、柚花が僕の見慣れたこの街にいるのは新鮮なことであった。
「そんなに変わらなくないか?今住んでいるところと」
僕は柚花にいう。
実際街並みはそこまで変わらない。何度も言うように大きな建物がないことぐらいしか今僕が住んでいる街と変わりがないのだ。
それでも、と柚花はいう。
「この場所に、好きな人である凛くんが中学生になるまで住んでいたと言うことに私は感動してるんです〜だからそれに水を指す事を言わないで下さ〜い」
と柚花ゆる〜い感じでいう。
柚花が心からそう思って言っていることは伝わっているので、僕としては少し恥ずかしくて誤魔化しているところはあった。
だから、
「今度は柚花のところに行こうね。そして、僕も同じ事を言うことにするんだ」
「いや、この時点でそれを言うってことは思っても思わなくても凛くんは言うってことじゃん!!」
柚花からツッコミが飛んでくる。
それがなんだかおかしくて2人で笑ってしまった。
この町でまた笑うことができるなんて、と僕は思う。
気にしてないといっていても、思っていても、やはりここに帰ってくるとあの中学の時のことは思い出してしまう。
それに対して、嫌だとかは思わないけど、素直に楽しめるかと聞かれるとそれは無理だと言うしかなかった。
だが、それは僕が1人で帰省した時の場合であることが今わかった。
僕は、柚花と一緒であるならばこの街でも、いや、どんな場所でも笑い合い、幸せになれるのだなと思った。
少し経ってから僕たちは家に帰り、お母さんが準備してくれていた朝ごはんを食べる。
食べ終わり、少ししたのち僕たちは街の中で唯一誇れる巨大なショッピングモールへ出かけようかと言う話になった。
久しく行っていないあそこのショッピングモールに行けると知り、僕も気分が高まる。
車に20分ぐらい乗ったところで僕たちはショッピングモールに着いた。
ついて早々、僕と柚花、両親の2グループに別れ回ることになった。
2人なりの気遣いだろうかと思いつつ、柚花と手を繋ぎ歩く。
このショッピングモールでも、通り過ぎる瞬間柚花の顔をチラ見したり、ガン見したり、二度見したりする人たちが多い。
今も、柚花のことを二度見した男性に対して、隣を歩く女性が足を蹴っていた。
どうやらそれが太ももに入ったらしく、男性は悶絶している。
……ももかんは痛いだろ、と思いつつも見たのが悪いと俺は思うのであった。
「すごいねこの広さ」
柚花が言葉を漏らす。
「確かにね、」
僕自身もその広さに改めて驚いた。
「今日中に回れるかな?」
柚花がうずうずしたように言う。
「ん〜一つ一つに時間をかけなければいけると思うけど、それだと結局は回ることが目的になっちゃうよね」
「ふふ、そう言うところで真面目に考える凛くんのこと私好きだよ」
唐突すぎる愛の告白に驚く僕。
柚花の顔を見ると、僕の驚く顔を見て嬉しそうにしていた。
やられたのならやり返さなくはな、そう思い。
「急に言われると恥ずかしいな……。まぁ、僕もこういう時に小さい子みたいに目をキラキラさせている柚花のこと、好きだよ」
と言うと、
「ふぇ!?あ、ありがとう……」
とても動揺した表情をしたのち、恥ずかしかったのか僕の体に柚花の体を当ててきた。
まったく、お互い様である。
話し合った結果、2人で行きたいと思うお店を重点的に見て回ることにした。
お母さんから昼には一回合流ねと言う連絡が来ていたため、回るコースも昼に合流できるようにする。
そうして回り始めた僕だったが、完全に忘れていた。
柚花といることに安心感を覚えていたせいで忘れてしまっていた。
あの街に住んでいる若者が、どこか遊びに行くとなったら必ずこのショッピングモールにくると言うことを……。
そして、最悪な形で僕はそれを思い出すことになる。
一階にある、洋服のお店を見ている時だった。
「あれ、岡じゃないか?」と言う声が聞こえてきた。
その声には聞き覚えがある。
いや、忘れるわけがない。
その人であることが僕の間違いであってくれと僕は願う。
だが、その願いが叶うことはなかった。
振り向いた先にいたのは、
「真人か……」
そう、鴨志田真人。
僕がこの街を出る原因になった人であり、僕と柚花が出会うきっかけにもなった人だった。
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