第46話  夏休み (14)


「え……」


 5秒ぐらい沈黙の後、柚花は同じ言葉を口にした。


 相当びっくりしたのだろうなと思いつつも、固まっている柚花に対して僕は言った。


「高校デビューって言うのは知らなかったけど、地味と言うのは初めて会った時には思ってたよ?」


「初めから……思ってた……」


 これは、ダメだ――――思考が停止していらっしゃる。


「まぁ、柚花がどう思っているのかは知らないけれども、僕はどっちかと言うと家で生活している時の地味モード柚花の方が本当の柚花が見れているようで好きだよ」


「それ本当に言ってますか……」


 僕の言葉に対して少しだけ嬉しかったのか、思考が戻ってきたようだ。


 言うのは恥ずかしいが、本当に思っていることなので、しっかりわかってもらう為にも今回はとことん言ってあげようと思う。


「本当だよ。もちろんオシャレモードの柚花だって好きだよ?見惚れてしまうぐらい可愛いし。映画館で柚花と初めて会った時だって、これほど美人な人がこの世にいるのかと思ってしまったぐらいだったから。それでも僕が柚花のことを好きになった理由としては、今の地味モードの柚花を、柚花自身無意識だったかもしれないけど見せてくれたことが大きかったと僕は思っているよ。外行き用の柚花しか見ていなかったら絶対高嶺の花としか思わなかっただろうからね。それに、地味モードとか僕は言ってしまっているけど、柚花が良く家でしている大きめなトレーナーに丸メガネ、肩から前に髪を出すパターンのツインテール姿は僕にとってドンピシャに好きな姿なんだよ。特に、丸メガネを大きめなトレーナから少しだけ出した指でクイってあげる動作なんて、今すぐにでも抱きしめてあげたくなるんだよ……あ、でもこれもどれも全て柚花がやってくれているからと言うのは前提だからね。それと……」


「も、もういい!もういいから!わかったから。これ以上は恥ずしかしいから言わなくていーい!」


 顔を真っ赤にしながら、大きめなトレーナーから少しだけ出した指でバツマークを作り、僕の口に押し付けてくる柚花。


 これだよ、これ!これが可愛いのだよ!と思いつつも僕の思いが伝わったと言うことがわかったので僕はこれ以上言うことをやめた。


 相当恥ずかしかったらしく、今回は別の意味で僕たちの間に沈黙が流れたのであった。



 ――――――――


「じゃー電話するね」


「うん!」


 少し時間が経った後、早速親に電話をして帰省する日にちを決めようと言うことになった。




 電話をかけ始めてすぐに僕は思い出した。

 いや、強制的に思い出さされたと言った方がいいのだろう。


 そう、それは……


『もしもし、久しぶり……僕だけど』


『え、凛ちゃん?!凛ちゃんの方から電話くれるなんて……ママ感激!!すごく嬉しいわ!もう〜〜!!それで、寂しくなっちゃたの??会いたくなっちゃったの?そんな寂しかったのなら早く言ってくれれば……』


[ブチッ!]


 自分で言うのは恥ずかしいのだが、僕のお母さんは僕のことが大好きすぎて、僕に対しては超が付くのほどのバカ親になるのだ。


「あの……今って、うわ、」


 とてつもない負のオーラを出しながら恐る恐る僕に質問をしてくる柚花。


 先程はあれだけど可愛いと思っていた、大きなトレーナーから出ている指が今は凶器のような形になっている。


 とりあえず最後までは言わせまいと、柚花の言葉を途中で区切り返事をする。


「違うから!!自分のことママって言ってたでしょ?!スピーカーにしてたんだから柚花も聞こえてでしょ!?あ〜もう、なんで忘れたかな〜〜あーー!」


 返事というよりかは、独り言のようになってしまった。


 そんなことを思っていると、僕のスマホから着信音が流れる。


 先程の電話で切った際、僕が座っていたソファーにスマホを叩きつけたことが悪手に出てしまったようで、僕よりも先に柚花が電話に出てしまった。


『あ、繋がった!もしもし〜凛ちゃんなんで切った……』


『あの、突然の質問申し訳ありません。貴方様は本当に凛くんのお母さんですか?』


『あら、丁寧な言葉遣いね、素晴らしいは。だけど、名前を聞くならまずはそちらから名乗るべきなのではないかしら?』


『凛くんのお母さんという確証が持てない今、凛くんの浮気相手という可能性があります。だから、私から先に名乗ることはしません』


 …………え、なんで急にこんな展開になってるの?


 お母さんもお母さんで絶対面白がってるし、柚花は柚花でわかっていながら最悪の場合が嫌すぎて質問しているしでカオスなんだが……。


 最初は柚花を紹介できるしいいのかと思ってはいたものの、別の意味で帰省するのが僕は嫌になりました。


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