第45話 夏休み (13)
僕の実家はここから電車で2時間ほどのところにあるビルもなければ田んぼもない普通の街。
そんな街に住んでいた僕には、幼馴染とも呼べるし、親友とも呼べる男子がいた。
名前は、
真斗とは保育園からの付き合いで、中学2年生までは同じ高校に通う約束を交わすほど仲が良かった。
そんな真斗との仲が悪くなった、いや、仲が終わったのは中学3年生の時、夏休み前のことだった。
ある時から真人が僕と一緒に居てくれなくなったのだ。
さらには、元々友達を作るのが苦手だった僕が、真人との繋がりで仲良くなった友達までも一緒に居てくれなくなった。
遊びに誘っても断れるし、一緒に帰ろうと言っても断れる。
避けられると気がつけなかった僕は、真人達にも何か用事があるのだろうと思い、特に気にすることもなかった。
だが、ある休みの日またもや遊びを断られ暇だった僕は、街にある広大な敷地を利用して造られたショッピングモールへと足を運んだ。
そしてその時に出会してしまったのだ、真人とその他複数の僕の友達が仲良く、楽しそうに遊んでいるところを。
断られた時に真人は、「両親と出かける用事があるからごめん」と言っていた。
真人は嘘をついていた……
あ、そうか僕は避けられていたんだ……
ここで僕は気がついたのだ。
そして、一瞬で怒りが沸点まで行き、人目も気にせず僕は真人のいるところまで行く。
「おい、真人。両親と出かける用事はどうしたんだよ。なぜ僕に嘘をついた」
そう言って現れた僕に最初は驚いた様子の真人だったけど、すぐにすました顔になり僕にこう言った。
「逆になんで俺がお前となんか遊ばなきゃいけないんだよ。もうお前と遊ぶのはうんざりなんだよ」
逆に言い返されたその一言で頭が真っ白になった。
だって、そこまで言われる理由を僕は知らないから。
喧嘩したわけでもない。
誰かに嫌われるようなことをしたわけでもない。
真人が嫌がるようなことをしたことだって一度もなかった。
何が何だかわからないまま、周りを見ると、早くどこか行けよと言うよな目を向けられている。
途端に僕はこの場にいたくない想いが強くなり、その場を逃げるように去った。
背中からは、「よく言った」とか訳のわからない声が聞こえてきた。
今のどこによく言ったと言えることがあっただろうか。
と、言うかそこまで嫌だったのなら無理に今まで一緒に居なきゃいいのになんてことを思った。
本当はそんなこと言いたくないのはわかっているけれど、今は少しでも悪態をつかないと僕の心は持たないと思ったのだ。
―――その日以降、学校では一人で過ごすことが多くなった。
結局訳もわからず友達が居なくなった僕はいつしか、友達なんて作らなければいいのだと言う結論を出し、一人を楽しむようになった。
そして、親には訳を話して僕のことを誰も知らないところにして、今に至ると言うわけだった。
「ざっくり、こんな感じかな。今となっては……」
説明を終え、それでも今は柚花がいるからと伝えようとしたところで柚花に抱きしめられ言葉を止めた。
柚花がどう言った意味で僕を抱きしめているのかわからない僕でもない。
「ありがとう」とだけ伝え僕も柚花のことを抱きしめるのであった。
5分程した後柚花は抱きしめたまま質問をしてきた。
「どうしてこうなっちゃったの?」
柚花の質問はあたかも僕が真人に裏切られた理由を知っているかのような言い方であった。
実のところはっきりとした訳を聞いたわけではないが思い当たるところはあった。
だが、僕が思っている訳というのが本当に合っている場合、ただただ僕が被害者であったと言う結論がでてしまい、虚しい思いだけが残りそうで今まで考えないようにしていた。
「実はその次の週に僕はある女の子から告白されたんだ」
……なぜか柚花の抱きしめる力が強くなった。
「いや、別に告白を受けた訳じゃないよ」
……少しだけ弱くなった。
「僕はその女の子と話したこともなければ友達とすら言えない関係だった。だけど僕はその子のことをよく知っていたんだ」
「それって……」
「そう、その子は真人の好きな人だった。それも中学一年生の時から好きだった女の子」
「そっか……」
それ以上柚花は何も言わなかった。
だから僕も何も言わない。
すぐそばで大好きな柚花が抱きしめていてくれているそれだけで僕は救われているのだから。
この話を身内以外に話すのは初めて最初はどんな反応されるか心配ではあったけど、全くの杞憂だったようだ。
少し時間が経ち、ゆっくり柚花が僕から離れる。
少しだけ目元が赤くなっているようにも思うが、何も言わないことが正解だろう。
そんなことを思っていると、柚花がポツリと言った。
「この夏休み中に凛くんの地元行こうか」
まさかの提案だった。
「それは理由を聞いてもいいかな?」
別に帰りたくないわけではない。
柚花に話していて思ったが、割り切れているのか先ほどの話の中で悲しいとかは全く思わなかったから。
でも、柚花がこの夏休み中に行くと決めたと言うのは少しばかり気になるところだった。
「今の凛くんには私がいるじゃん。一人じゃないから帰っても大丈夫だと思って」
「なるほどね……」
先程悲しくないと思ったばかりであったのに、なぜか柚花の言葉に納得してしまった。
つまり、多少なりとも僕は悲しかったのだなと思う。
ただ見て見ぬふりをしていただけなんだろう。
友達が居なくなってしまったことから開き直り、強がっているだけな自分を……。
それをダサいと思わず、汲み取ってくれるところ本当に素晴らしい彼女だと思う。
「そうだね、柚花の言う通りかもしれない。柚花がいる今、僕が帰省しない理由はないね。なら山に行くのはまた今度にして僕の両親に会いに行こうか」
「うん!―――あ、そうだ」
嬉しそうに返事をしてくれたと思ったら、急に姿勢を正しく僕の方に柚花は体を向けた。
どうしたのだろうと思い、僕も姿勢を正す。
「凛くんにだけ言わせるのはちょっと嫌だから私も私のこと話す」
「う、うん」
まさかこのタイミングで柚花も自分のこと話すみたいだ。
急なことだったため心の準備ができていないが、どんな過去であれ僕は受け止めてあげるつもりである。
深呼吸をした柚花は意を決したかのように言った。
「私ね……根は地味な子なの!!高校生になって初めて化粧とかしたんだ。何が言いたいかって言うとね、要は私、高校デビューなの!!」
「うん、知ってるけど……」
高校デビューかどうかは知らないけど、地味なことは今更なほどである。
「え?……」
その日一番の沈黙が僕と柚花の間で流れたのであった。
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