第44話  夏休み (12)


 ある夏休みの土曜日―――


「山へ遊びに行きたいと言ってたけど、具体的にはどう言うことなの?凛くん〜」


 と、僕の足をツンツンしながら僕の前に座る柚花は言う。


 さらに、


「山って虫とかいるし怖いよ?凛くんも怖いよね?それなのに行くの?映画館で山の映画を見ようよ〜」


 そんな山に特化した映画なんてかれこれ何年も見ていない気がする。


 いやいや、流されるな。


 柚花は山の良さを知らないのだ―――多分。


「僕が今回したいのはこれ、」


 そう言って先程からツンツンされることも気にせず、柚花説得のためのネタを見せる。


「うわー綺麗!何これ!!」


 いいぞ!いい反応だ。


 ちなみに僕が見せたのは、ドーム型のテントのような場所から満天の星空を眺めている写真だった。


「これはグランピングというんだよ」


「グランピング??」


「そう!グランピングとはね、グラマラスとキャンピングを掛け合わせた言葉で、ホテル並みのサービスを野外で楽しめるキャンプという意味なんだよ!」


「うわぁっ!めっちゃ早口!でも、それが山でできるの?」


「そうだね。だから僕は山がいいって言ってたんだ」


 もっとわかりやすく言ってあげてれば、最初からスムーズに話は進んでいたのかも……


「なるほど、それならいってみたいかも。キャンプってことはBBQもできるってことでしょ!」


「BBQって……案外乗り気じゃん」


「いや、言ってみたかっただけだもん!」


 なるほど……可愛い。


「柚花も了承してくれたということだし、8月中旬ぐらいに行くことにしようか。どこにするかとかは、もう少しこの後の予定がわかってから決めよう!」


「は〜い!じゃ〜お昼ご飯にしようか〜」


「了解!一緒に作ろうか、」


 柚花とグランピングに行くことが決まった。


 ちなみに、お昼ご飯は釜玉うどんだった。

 僕がノーマルで柚花が明太子―――とてもおいしかった。


 ―――――――――


 その日の夜―――


 2人で映画を見ながら夜ご飯を食べている時、柚花がポツリと呟いた。


「そう言えば、付き合ったらお互いの両親に挨拶行った方がいいかな……」


 多分独り言なんだろうなとは思ったが、一応僕は反応することにした。


「それは付き合った時というより結婚する時の話だと思うよ?」


「あれ、声漏れてた?恥ずかしい……でも、一度くらいはお互い会っておきたくない?」


 確かに柚花の言う通りで、僕もいきなり結婚する時に初対面というのは厳しいというかきついものがある気がする。


 まだ結婚とか考える年頃でもないんだけど……


 とりあえず、両親に会うことは賛成である―――がしかし、ある問題があった。


 それは、バイトをしている時に美奈と話していた内容である、僕の過去の話だった。


「両親に会うのはいいんだけど、少し問題があるんだよね」


「ん?問題?なにそれ〜」


「僕がこうして一人暮らしをするようになったきっかけと言うか、理由と言うか……」


「あ〜そう言えば私たちまだお互いがなぜ一人暮らしをすることになったのか知らなかったね……」


 この言い方だと、柚花も気になったことはあったと言うことか。


 僕たちはお互いがお互い高校生にしては珍しい一人暮らしであるため、自分の過去や現状に大なり小なり問題があると思っている―――と柚花も思っているだろう。


 どんなに好きな相手でも、どんなに相手のことを知りたいと思っていても、相手が嫌ことを思い出したりしてしまう危険性があるのであれば相手から話を切り出してくるまでは待つことが一番の正解なのだと思う。


 だが、柚花から両親に会うと提案してきたのだから、柚花にとって一人暮らしとは問題があったからしているものではないのだろう。


「と、言っても私は小さい時から一人で生きていける力を身につけなさいと言う教えで育って、高校生になったら一人暮らしをする決まりになっていたからしているだけなんだけどね〜」


 そう言うことらしい。


「だから、私は話せない内容ではないわけだけど、凛くんのはそうでは無いんだね?」


「まぁ、今となってはだけど、いい思い出ではないかな」


 別に一人暮らしを始めた時にはある程度忘れることはできていたし、柚花と出会ってからは思い出すこともなかった。


「別に私は聞かなくてもいいからね」


 柚花はそう言ってくれると思ったよ―――でも、僕は柚花とこれからやっていく上で、いつまでも僕の過去を隠しているのは嫌だと思っている。


 僕のことを全て知っていてほしい。


 その上で僕は大好きな柚花に大好きだと思って欲しいのだ。


「いや、話すよ。別に話したくなくて話さなかったわけじゃないからね」


「そうなんだ……無理はしないでよ」


「はいよ〜先に食器だけ片付けしちゃおう」


「うん!」




 ―――――――――


 片付けが終わり、再びリビングへと帰ってきた僕たちはソファーで向き合った。


 その時、柚花がそっと手を握ってくれる。


 そこまで気にしてないんだけどね……




「じゃー改めて―――僕は中学3年の時、一番の友達だと思っていた人から裏切られたんだ」




 その言って、僕は一人暮らしをする理由となったことを話し始めた。


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