第47話 夏休み (15)
『あら、じゃ〜最近なのね凛とお付き合いを始めたのは』
『そうなんです!いつまで経っても告白してこないから、いっその事私からしちゃおうかと思いましたよ』
『ほんとごめんなさいね〜。そんな御チキンに育てたつもりはないだけど……』
御チキンって……そもそもチキンって言うなし――心の中で呟きながら、さっきまであんなに仲悪かったのにと僕は思う。
さて、あの状況からどうしてこのような状況になったのか説明しよう。
15回ほどどちらが先に名前を名乗るかで2人は競い合った。
そして、急に2人とも笑い出し、「流石は凛くんのお母さんですね」「流石は凛ちゃんが選んだ相手ね」とお互い認め合ったのだ。
僕には理解ができない。
まさしく、「もう、訳がわからないよ……」の状態である。
あの会話のどこに認め合う内容が含まれていたのだろうか……。
その後、お互いに認め合ったからかお母さんは僕の小さい頃の話を、柚花は最近の僕のことを話し始めた。
正直恥ずかしいからやめてほしい。だが、柚花の楽しそうな顔を見ると止めるのがなんだか申し訳なくなるのだ。
と言うわけで現在に戻る。
『話してて忘れてたけど、何か私に用があって電話したんじゃなくて?ただ彼女ができたと報告したいだけかしら』
お母さんからの質問で僕は思いだした。
『いや、そんな報告だけなら連絡なんてしないよ。一度実家に帰省しようと思って』
『あら、まさか凛ちゃんからそんな提案をされるだなんて。もちろんも柚花ちゃんもくるのよね?』
『う、うん。まぁそりゃ〜ね』
『もちろん私も行きますよ〜』
『それは賑やかになりそうね。いつごろ来るのかしら』
『1週間後ぐらいにはそっちいけたらと思ってるよ。美奈に休むと言わなきゃいけないし』
『わかったわ。なら正彦さんにも伝えておくわね』
『ん、ありがとう』
それだけ言って電話を切ろうとスピーカーから切り替えてスマホを耳に当てる。
「よかったわね。凛のことを大事にしてくれる人と出会えて」
お母さんがポツリと僕に呟いた。
先程柚花と話していた時の元気な話し方が嘘だったかのようなとても落ち着いた声だった。
「そうだね、僕も感謝しているよ。まぁ、この辺の話はそっち行った時でも話をするから」
「はいはい。ちゃんとした日にちが決まったら教えてね。駅までは迎えに行くから」
「はい、じゃーね」
そうして今度こそ僕は電話を切った。
とりあえずは何事もなく……かはわからないけど、柚花と僕のお母さんによる初コミュニケーションは終わった。
「1週間後と言っちゃったけどよかった?」
急に静かになったリビングで僕は柚花に質問をする。
「大丈夫だよ。私もそのくらいがいいと思ってたから。それより凛くんのお母さんと話した感想なんだけどね!凛くんのお母さんだな〜て思った。ふふ」
「どう言う意味だし」
「そのままの意味だよ。凛くんと同じで、とても大切な人を大切に扱う人なんだなって」
「あ……そうだね」
柚花の言葉を聞いて、なんとなく柚花が何を伝えたいのかわかった気がした。
先程の電話でお母さんは明るく話をしていた。だけど本当は僕のことが心配だったのだと思う。
それでも、心配をしていたと言うような声をかければ僕が中学生の時のことを思い出しかねないと考え、あえていつも通りに接することを選んだ。
結局は僕の憶測でしかないけど、最後僕にかけた言葉がお母さんの本当の想いだったのだと思う。
別にわざと連絡をしていなかったわけではない。でも、もう少しだけ早めに連絡をしておけば良かったなと後悔をした。
それと同時に、あの少しの会話でここまでを汲み取る柚花の凄さには本当に敵わないなと思った。
「来週の土曜日にしようか。お母さんに土曜日って連絡しとくね」
「了解です!楽しみだね凛くん」
「うん、そうだね」
久しぶりの帰省。
一人暮らしを始めてから、初めての帰省。
少しも憂鬱な気持ちにはならなかった。
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47話読んで頂きありがとうございます!
お久しぶりです!そして明けましておめでとうございます!
もう少し早くに更新したかったんですけどね、、遅くなってしまいました。
申し訳ありません。
今年も、ゆっくりとではありますがしっかり更新していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
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