第20話  体育祭 その4

「目的って?じゃないわよ。柚花みたいな可愛い子に近寄ってくる男なんて大体ろくでもないんだから」


 なるほど……桃崎さんは僕が柚花に何かするつもりだと思っているのか。

 そもそも話しかけてきたのは柚花の方なんだけどな。


「桃崎さん何か勘違いしてるよ。僕から話しかけたんじゃなくて、柚花さんから話しかけて来たの」


「……え、そうなの??」


 やっぱり、勘違いしてる。


「そうだよ。色んな人に声かけられたくなかったから、1人で行動している僕に声をかけたって言ってたし」


 実際のところ、言われてはいない。

 似たような話をしたから多少違いがあっても大丈夫だろうと言う判断だ。


「あ、そうなのか……ごめんね、勘違いしちゃってたみたい。あはは」


 笑って誤魔化そうとするなし。

 気にしてないから別にいいけど。


「話は終わりかな?それなら僕、席に戻るね」


 休める時に休みたい僕はすぐさま戻ろうと振り向くも、桃崎さんに腕を引っ張られ引き戻されてしまった。


「いや、まだ話し終わってないから」


 話し終わってなかったのか……。


「勘違いだったで終わりじゃないの?」


「そんなわけないじゃん。岡くんが柚に対して変なことを考えてるわけじゃないのはわかったけど、さっき見たあの仲の良さはどう考えても初対面には見えなかったけど?」


 さっきも柚花に、この質問してたよね?

 桃崎さんが最初に話しかけて来た時、遠くにいるような感じだったけど……この食い付きよう、近くで見ていたんだと思う。


「と言われてもなぁ、本当のことだし何も言えないんだけど……」


「本当なのかな……男嫌いの柚花が初対面の男と話できるとは思わないんだけどなぁ〜〜」


 桃崎さんは柚花のことが大好きなのだろう。

 今、桃崎さんが感じているものは、柚花のことを理解しているからこそ生まれるものであると思うから。


「柚花さんもさっき違うって言ってたし、これ以上疑っても仕方なくない?」


 立ってるのが疲れたから座りたいだけ。


「んーー納得行かないーー」


 ここまで柚花のことを思ってくれているなら伝えてもいいのではないのかと思うが――それは柚花が決めることなので僕は否定を貫くことしかできない。


 同じ学校の人にさえバレなければなんでもいいと僕は思ってるから、柚花が話したいと言うのなら桃崎さんや他の友達に話してもらって構わない。

 逆に、柚花が話したくないと言うのであればバレないよう最善の注意を払うつもりだ。


「納得行かないのはわかったけど、そろそろ戻らない?桃崎さんだって暇じゃないでしょ」


「いや、私も午前中何もないから」


 ないのかいっ!

 最悪だよ。

 もう本当に最も悪だよこんなよ。




「あの……2人で何をコソコソと話しているんですか?」


 この声は!!ナイスタイミング。


 やっと自分の席に戻れ――おや?柚花は何故こんなにハイライトが消えたような目で僕たちを見ているのだろうか……。


「あの……何故そんな目で僕らのことを??」


 嫌な予感がするのは僕だけなのだろうか……いや、僕だけではないだろう。

 国語の先生が聞いたら絶対褒めそうな文章だな――いやいや、そんなのどうでもいいんだ。


 柚花の質問の仕方や恐怖すら感じる目が、よくアニメとかで見る、主人公が他の女の子と話しをしているところにヒロインが出くわして、変な勘違いをされてしまうシーンのような感じになってしまっている方が問題だから……。


 普通に体育祭の種目に出るより疲れている気がする。

 あぁ……もう家に帰りたい。


「目?なんのことかよくわかりませんし、話を逸らさないでください。2人でコソコソ何してるんですか?まさか……凛くんも他の男子と同じだったってこと?」


「凛くん……やっぱり」


「いや、同じってなんだし」


 よくわからない勘違いをする柚花。

 柚花が僕のことを凛くん呼びをしたことで何か確信を得たみたいに呟く桃崎さん。

 色んなことが起きすぎて混乱してしまいそうだよ。


 とりあえず1つずつ解決していくことにしよう。


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