第28話  友達になってから その3


 5月の中旬の土曜日、僕は熱を出した。


 朝起きた時点で体が重かったため、熱を測ったら38.5°もあったのだ。


 柚花にはすぐLINEをした。


『ごめん……熱が出ちゃってるんだ。今日の映画は1人で行ってくれ』


『大丈夫ですか??わかりました。お大事にしてください』


 このやり取りをしてから、ちょうど1時間くらいだ。

 少しでも何か食べた方がいいと思った僕は冷蔵庫まで足を運ぶ。


「しまった……今日買いに行く予定だったんだ。どうしようかな」


 見事に何もなかったのだった。

 仕方なく常備している薬を飲み、僕は眠りにつく事にした。




「……くん……ですか?」


 深い眠りの中、微かに体が揺らされてるような気がした。


「……くん大丈夫ですか?」


 徐々に脳が活動をしていく。体の揺れが本当に揺れていることを僕はわかった。


 だが、誰が?僕は家で1人ではなかったか??


「岡くん?大丈夫ですか?」


 あ〜柚花か……ん?柚花??ここ僕の家だよな??

 瞬間僕は飛び起きていた。


「びっくりした……柚花なんでいる!?!?」


「うわぁ、びっくりした。大丈夫ですか?」


 ん?何事もなく話を続けているのだけど……。


「いや、大丈夫ではないけど……なんで僕の家に?」


「大丈夫じゃないですよね。お粥は作ってきましたけど、ポカリは買ってきたのでリビングで食べましょう」


 絶対に教えてくれないのだけど……。

 お粥とポカリ?僕のために作ってきてくれたのだろうか。


「食材なかったから助かる。って違うよ。どうやって入ったのさ、僕の家だよ??」


「そうだろうなと思いました。この間、土曜日にいつも買い出しに行くと言っていたので」


 そんなことまで覚えていてくれたのか……。


「そうだね……ありがとうっじゃなくてさ、どうやって入ったの?いつからいるの?」


「もーしつこいですね。いくらLINEしても電話しても返信来ないし、出ないので、心配になったんです。勝手に入ったのは申し訳ないですが、玄関開けたらたまたま鍵が開いたんです。今度からはちゃんと閉めておいた方がいいですよ」


 なるほど……戸締まりはしっかりしないとな。


「しっかりしないとな。それで入ってきた理由は……」


「そんなの心配って言ったじゃないですか」


「いや、でもさっきは映画に言ってくれってLINEに、わかりましたって返事きてたじゃん」


「私も1人で行こうと考えましたけど、楽しそうじゃなかったんです。恥ずかしいですが、なんだかんだで岡くんと一緒に映画を見るのが今の私の楽しみなんですよ」


 なんだこれ……告白か?そんなことはないだろうけどさ、


「そうなのか……まぁ、僕も最近は柚花と一緒に見る映画が好きだよ」


「なんですかそれ……告白ですか?流石に飛ばし過ぎじゃないですか?もう少しあとにしてからにしてください」


 ………………そんな断らなくたっていいじゃんか。

 ん?今、もう少し後にしてって……まぁいいか。


「それでお粥とポカリを持ってきてくれた訳か。ごめんな、心配かけた」


「それは……お互い様です。1人暮らしで熱は辛いですからね。いつか私が熱を出した時とかお願いしますね。家を見る限り綺麗にしているみたいですし、やっぱり岡くんは他の男子とは違い信用できます」


「そうですか。信用してもらって嬉しいよ」


 僕と柚花は映画を一緒に見るだけの友達だと思っていたが、そうではなかったみたいだ。


 僕が柚花は友達として距離を縮めたいと思っていたのと同じで柚花は僕と距離を縮めたいと思っていてくれたのだ。


 嬉しいことだ。



「せっかくだし、いただきます」


「はーい、いただいてください」


 ゆっくりとお粥を口の中に運ぶ。


 柚花が作ってくれたお粥は梅干しが添えてあるシンプルなデザインだった。

 だが、これにしたのも、もし僕が卵アレルギーだった場合を考えてのものらしい。

 こう言う気遣いもできる柚花はすごいと思う。

 ちなみに僕は卵アレルギーではない。


 熱々のお粥は薄くもなく、濃くもなく、丁度良い塩味だった。

 本当に美味しい。


「美味しいな……」


「本当ですか?それは嬉しい褒め言葉ですね」


 次は梅干しと一緒に食べる。

 酸っぱいのかと思ったら甘酸っぱかった。


 ……なんだろうこの梅干し、すごく甘酸っぱくて美味しい。


 この甘酸っぱさが丁度良い塩味と合わさって、さらに美味しさを引き立てていた。


「この梅干し美味しいな。こんなの初めて食べたよ。なんて言う梅干しなの??」


「ふふ、美味しいですよねこの梅干し。これははちみつ梅干しです。この梅干しは体力回復の効果もあるんですよ」


 なんなのだこの子は……僕のお母さんより色々できる気がする。


「柚花は料理得意なんだな。こんなに美味しいなら毎日食べたいほどだよ…………あ、いや今のは本気で言ってる訳じゃないからか、全然自分で作るし」


 完全に失言だった。男嫌いな柚花に対して毎日食べたいとか言うべきではないのだ……口が滑っても。


「そんなに美味しかったですか。嬉しい限りですね。……………………まぁ、毎日は無理だとしても、時々なら……いいですよ」


 ん?今なんと言った……時々ならいい?


「え、本当に言ってるの?」


「まぁ……岡くんなら?」


 そこまで僕は信頼してもらっていたのか……逆に心配になるんだけど。

 どこにそこまで信用できることがあっただろうかと。


「そうか……それならこれから一緒に食べる?僕も作るから……」


 決死の質問だった。

 断られたらどうしようとか考えられないけど、これからの関係には支障が出るだろうから。


「はい、よろしくお願いします」


 案外簡単に了承されてしまった。


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