第41話 ノースレイル王国の王都レイル市
伊織とアルマの二人は店をでて直ぐに近くの路地へと入った。
周囲に人がいないことを確認する。
「誰もいません」
「よし、ノースレイル王国の王都の様子を確認しよう」
伊織が本型デバイスを開いて監視衛星からの映像を映し出した。
大陸の映像が映し出されたかと思うと、直ぐにズームされて中世ヨーロッパのような町並みが映る。
「捕らえられているなら王城か神殿ではないでしょうか?」
「刑務所のような囚人を集める施設ってことはないかな?」
「異世界からわざわざ召喚した人材を刑務所に入れないと思います」
「一理あるな……」
少し考えた伊織が言う。
「まずは王都へ転移しよう」
「賛成です」
次の瞬間、二人の姿が路地から消え、ノースレイル王国の王都の路地――、ブック型デバイスに映し出された人気のない路地へと現れた。
伊織が手にしたブック型デバイスの画面をのぞき込みながらアルマが言う。
「後継者様、あたしたちが映っていますよ」
「本当だ、俺たちだ」
「理屈では分かっていても不思議な感覚ですね」
「アルマでもそうなのか?」
空間魔法を所持して使いこなしていたイメージの強い彼女のことだけに、伊織は意外そうに聞き返した。
「空間魔法を使って移動をすることはありますが、監視衛星でこれから移動する場所を確認してそこへ移動する、というのは初めての経験です」
「へー、そうなんだ」
初めてのことで妙な高揚感を持っていた伊織だが、それを少し子どもっぽく感じていた。
それが自分だけでないと知って少し安堵する。
「それで次はどうしますか?」
「町の噂を聞いて回ろう」
勇者召喚を国が秘密にしている可能性はあるが、公にしているなら間違いなく噂は拡散している。
たとえ秘密にしていても何らかの情報が漏れることはあるだろう、と考えてのことだ。
伊織とアルマは午前中ということもあって、露店が建ち並ぶ大通りでの情報収集から始めることにした。
「行商人に偽装します」
アルマはそう言うとブック型デバイスを操作して、マジックバッグを
伊織とアルマがそれぞれ背負うバッグである。
「中身は何が入っているんだ?」
「塩と砂糖、乾燥させた薬草が数種類入っています」
伊織がバッグのなかを覗くと、たったいま彼女が言った商品の他、水筒と携帯用の食料と着替え、金貨の入った革袋が入っていた。
「相変わらず用意がいいな」
「これくらいは当然です」
感心する伊織の目の前でアルマが得意げに胸を張った。
そんな彼女を見て、もう少し謙虚だともっと可愛らしいのにな、内心で苦笑する。
「それじゃあ、大通りへ向かうぞ」
二人は大通りへ向かって歩き出した。
◇
大通りを歩きながら情報を集めること一時間余。
広場の片隅に腰を下ろして言う。
「勇者召喚は公なんだな」
「ここまで公にしているとは思いませんでした」
王家が神殿の協力を得て異世界から二十人の勇者を召喚したこと。
召喚した勇者を戦力の核として他国へ侵略戦争を仕掛けようとしていることまでもが公となっていた。
何よりも驚いたのは、勇者には隷属の紋章が刻まれており国を裏切ることがないとうことまで知れ渡っていたことだ。
「普通、戦争準備をしていることまで公にしませんよね?」
呆れ顔のアルマの質問に伊織も半ば呆れて答える。
「極秘事項だよなー、やっぱり」
「もっと驚いたのが勇者とか言っておきながら隷属の紋章で自由を奪っていると公言していることです」
異世界の住民とは言え、自由を奪って自国の戦争に利用することに国民は王家や神殿に対して不信感を抱かないことです」
「むしろ、力のある勇者――、異世界人の力が自分たちに向けられないと知って安心している人が多かったな」
聞き込みをしているときも、異世界から召喚された勇者が自分たちの代わりに戦争をしてれることを喜ぶ人たちがほとんどだった。
それと同時に隷属の紋章を刻まれていることで、裏切られる心配がないと安堵する者や強力な力を自分たちの自由に出来るのだと歓喜する者が大勢いた。
もちろん、勇者たちの境遇に同情する声もあったがそれはごく少数だ。
「あたし、この国の王家や神殿だけじゃなく国民も嫌いになってきました」
「俺も同意見だ」
不快を隠すことなく言い切ったアルマに伊織も同意する。
しかし、この国に対して大きな干渉をするつもりもなかった。
「取り敢えず、召喚された二十人の現状を把握するところから始めるぞ」
「お城に出入りしている商人に紛れ込むんですか?」
「一旦オペレーションエリアに戻って忍び込むのに必要な道具を揃えるぞ」
「いきなり忍び込むんですか?」
出入りの商人あたりから情報を買うと予想していたアルマが驚いて声を上げる。
そんなアルマに伊織は今夜にも忍び込む可能性を伝えた。
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