第28話 店舗選び

伊織とアルマはその後三日間で、補充用のゴブリンとコボルド、オークの集落を襲撃する。

 さらに、新たな階層に配置する魔物としてオーガ、シルバーウルフ、ブラックウルフ、ファイアーフォックスを狩った。


 その傍らで石造りの階層を一階層追加し、第一階層から第四階層までを石造りの階層とし、それぞれ、ゴブリンスケルトン、コボルドスケルトン、オークスケルトン、オーガスケルトンを配置する。


 第五階層の白砂の砂漠にファイアーフォックススケルトンを配置。

 第六階層となった森と泉の階層にはシルバーウルフスケルトンとブラックウルフスケルトンを配置した。


 第一階層から第三階層同様に、一体を集中的に強化して階層主として配置する。


 一方、グレイスとローラにはハインズ市に関する商品相場の調査と武器や防具の調達をさせていた。

 三日ぶりに宿屋へ戻った伊織とアルマが武器と防具を収納しながら不在の間の出来事を確認する。


「俺とアルマが留守居にしている間、宿屋の主人や従業員に怪しまれなかったか?」


「ご不在の間、不審に思われないようお二人が近くの森――ウーデン森林に出かけていたことにしてあります」


 部屋の清掃を二日も続けて断るのが難しいと考えたグレイスが、二日目の早朝に伊織とアルマが出かけたことにしたという。

 その回答に伊織は「上出来だ」と答えてさらに聞く。


「その他に何か変わったことはなかったか?」


「エメルト商会のテオ商会長から手紙を預かっております」


 初日は使者が訪れて伊織をテオ商会長の下へ案内しようとしていた。

 しかし、ウーデン森林に出かけており、帰りの予定が分からないと伝えたところその日の夕方に再訪した使者が手紙を持ってきたと説明して手紙を渡す。


「用件はなんでしたか?」


 伊織が手紙を読み終えるのを待ってアルマが聞いた。


「護衛が出来る奴隷を何人か紹介できるから来て欲しいそうだ」


 テオとの別れ際に、店の切り盛りはグレイスに任せるつもりだが、護衛や力仕事の出来る奴隷が一人二人欲しいと話したことを伊織は思いだした。

 半分社交辞令で半分は本音だ。


「後継者様が戻ったことはもう掴んでいると思いますよ」


「だろうな」


 アルマの指摘に伊織が苦笑する。

 宿屋と門番に金を渡して、二人が戻ったら直ぐに連絡が入る手はずくらいは取っていると想像できた。


 確かに護衛と男手は必要だが、それも店舗を構えてからのことである。

 伊織が言う。


「奴隷をいま引き取っても持てあますだけだ。テオには、店舗契約が終わったら顔を出す、と手紙を書くことにする」


 手紙は宿屋の店主に渡して、テオに連絡を取って貰うことにした。

 グレイスに報告をうながすと、


「今朝、不動産屋さんの――、ブリトニー様の使いの方がお見えになりました」


 紹介したい物件が三つほどあるので都合が付いたら来店して欲しいとのことでした、とグレイス。


「それは最優先事項だ」


「仕事が早いですねー」


 物件選びには二、三週間かかると思っていただけに嬉しい誤算であった。

 ダンジョンとは別の拠点――、この世界での店舗を構えることが出来ることに伊織とアルマの心が弾む。


「早速ブリトニーさんに会いに行こう」


「希望通りの物件があると良いですね」


 伊織はアルマだけでなく、グレイスとローラの二人も伴って不動産屋へと向かうことにした。


 ◇


「こちらの大通りはハインズ市内でも有数の商店街となっております」


 ブリトニーが大通り沿いにある三階建ての建物を指す。

 図面を見ると、一階の半分が倉庫で店舗は残りの半分と二階部分、そして三階部分が住居となっていた。


「住居部分は四部屋とキッチンで、二階の店舗奥に執務室がありますね」


 とアルマ。


「身体を洗うのはどうしているんだ?」


「裏庭に井戸と小さな小屋がありますので、以前の持ち主はそちらを利用されていたようです」


 伊織の質問に書類を確認しながらブリトニーが答えた。

 小さくうなずいた伊織がグレイスに聞く。


「この建物に住み込みで働くことを想像して、何か不都合はあるか?」


「不都合などありません。むしろこのような立派なところに住めることに感謝いたします」


 グレイスの回答に伊織はこれ以上聞いても無駄だと判断した。


「アルマはどう思う?」


「そうですねー。後継者様やあたしが住むのでしたら問題ありませんが、グレイスとローラの二人だと、井戸が庭で住居部分が三階というのは厳しいと思います」


 アルマはそこで一旦言葉を切ると、伊織の耳元でささやく。


「魔法か何らかの道具で水をだせれば問題ありませんが……、どうしますか?」


 魔力がない二人に魔法や魔道具を使って水を出すというのはあり得ない。

 オーバーテクノロジーの道具を二人に貸与するか否かを聞いていた。


「そのあたりのことは他の二つの物件を見てから判断しよう」


「分っかりましたー」


「ブリトニーさん、次の物件の案内をお願いします」


 そして、取り敢えず三つとも確認してから比較検討することにした。


 ◇


 その日は半日以上を使って三つの物件を見て回ることとなった。

 三つ目の物件を見終わったところで伊織がアルマに相談する。


「アルマはどの物件が良いと思った?」


 自分の意見を交えて聞くと判断に影響すると思って伊織自身の考えは口にしなかった。


「あたしはこの三件目がいいように思えました」


 大通りに面していおり、富裕層とまではいかないがそれでも比較的余裕のある家庭が集まった地域であることを挙げた。

 また、貴族区や富裕層の多い地区も近い。


「ありがとう、参考になった」


 伊織も彼女と同様の考えであった。

 グレイスとローラが住み込みで働くのにも適していると思う。


 店舗と住居は別々の物件なのだが隣り合っていた。

 住居は二階建ての建屋で、一階に二部屋、二階に三部屋とグレイスとローラ母娘の二人暮らしとしては持て余しそうではあるが狭いよりは良いという判断だ。


 店舗となる建屋は二階建てでワンフロアあたりの面積は紹介された物件のなかで最も広かった。

 一階部分は店舗、二階部分の半分が店舗で残り半分が事務所となる。


 裏庭に大きな倉庫があるのも魅力的だった。

 

「グレイスとローラはどうだ? この場所で店を切り盛りできそうか?」

 

「精一杯頑張ります」


 概ね予想通りの答えが返ってきたことに内心で苦笑する。

 そして、伊織がブリトニーに聞いた。


「この物件を賃貸でなく購入することは可能でしょうか?」


「ご購入頂けるのでしたら勉強させて頂きます」


 食い気味の返答である。

 その反応に伊織は内心でガッツポーズを決めた。


「では、購入でお話を進めてください。その上で、いつから手を加えていいかの確認もお願いいたします」


「畏まりました。お店に戻りましたら早速手続きをいたしましょう」


 目を輝かせるブリトニーとともに伊織たち一行は不動産屋へと向かうのだった。

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