第27話 合成魔法の可能性
「これが全戦力です」
俺たちの目の間にはゴブリンスケルトン、コボルドスケルトンが、オークスケルトンがそれぞれ五十体ずつ整列していた。
(祖母ちゃんが言っていたダンジョンマスターにとって重要な二つのスキル――、空間魔法と呪縛魔法と言っていたが……、まさか、それ以外のスキルが役に立つとはな……)
二人の目の前に整列する各種スケルトンたちは、原形を留めている死体の骨を再利用して、伊織が死霊術で創り出した魔物たちである。
「壮観というほどじゃないが、それなりのものだよな?」
「階層の広さを考えるともう少し欲しいところですが、ダンジョンを解放するには十分じゃないでしょうか」
手引書を確認していたアルマが「交代要員なしで二十四時間働かせればそれなりに格好が付く数はいますね」と付け加える。
(ダンジョンの魔物にも交代要員が必要なのか)
「数は追い追い揃えていくとして、当面は全員フル稼働で頑張って貰おう」
「ということなので、各員励むように」
アルマの言葉に整列した各種スケルトンは微動だにしない。
「反応がないというのも寂しいものだな」
(反応があったら労働条件の改善要求がされそうだし、反応がないのはむしろ良いことなのかも知れないな)
「武器の強化からしますか?」
ゴブリンやコボルド、オークそれぞれの集落を襲撃したときに回収した武器や防具が整列する魔物たちの前に積み上げられていた。
整列する各種スケルトンたちは
当然、積み上げられた武器は整列する各種スケルトンたちの数よりも多い。
「よし、それじゃやるか」
伊織はハインズ市で購入した武器や防具を強化したのと同じ要領で魔物たちが使っていた武器や防具を強化していく。
「このみすぼらしい武器はどうしますか?」
武器の強化をしながら伊織が傍らによけた棍棒や石斧をさしてアルマが聞いた。
魔物が使っていた武器や防具は元々冒険者や狩人が使っていたものが多かったが、なかには棍棒や石斧のように魔物自身が作成した武器も幾つか含まれている。
「それはハインズ市で買った武器よりも念入りに強化しようと思っている」
「どうしてですか?」
アルマが不思議そうに作業中の伊織をのぞき込んだ。
その仕種に思わず伊織がドキリとする。
「な、なんだ?」
「ん? どうかしましたか?」
「何でもない。急に隣にしゃがみ込んだから驚いただけだ」
「失礼しました」
作業のじゃまでしたね、と下がろうとするアルマを「説明するからそのままそこにいて良いぞ」と引き留めた。
「はい、ではお隣失礼しますね」
肩が触れそうな距離にしゃがみ込んだアルマの横顔を見た。
志乃が口にした「少し幼さの残る容貌ではあるけど、北欧系の銀髪美少女よ」という言葉が脳裏に蘇る。
(可愛いことは可愛いんだよなー。それに素直っちゃすなおだよなー)
「どうしてなんですか?」
アルマが愛らしい笑みで再び聞いた。
「能力は高いけど格好悪武器を手に入れた冒険者の葛藤が見てみたいと思わないか?」
「悪趣味だと思います……」
得意満面の伊織にアルマがジト目を向ける。
ビキニアーマーどころか防御力最高のビキニや下着を用意しようと考えていた伊織だったが、思わぬアルマの反応にそれ以上のことは口に出来なかった。
その後、たわいもない雑談をかわしながら武器と防具の強化を終えた。
そして、最後に石斧を手にして満足げに言う。
「最高傑作はこの『石斧 強打+7 耐久+5』だな。破壊力と耐久力は街中で売られているウォーハンマーを遙かに凌ぐ!」
「こっちの『棍棒 強打+5』も大概な代物ですよ」
アルマが手にした棍棒も街中で売られているメイスを凌ぐ破壊力があった。
「このウォーハンマーとアルマが手にしているメイス。それとこの『錆びた大剣 鋭利+5 耐久+10』はそれぞれの階層の隊長に持たせよう」
「隊長って、階層主のことですか?」
「そう、それだ。階層主に持たせよう」
「階層主いませんよ」
「これから作るんだよ」
伊織はそう言うとニヤリと笑って、手近にいた二体のゴブリンスケルトンに手をかざした。
すると、武器や防具を強化したときのように二体のゴブリンスケルトンが淡く発光しだす。
「え、ええー!」
驚くアルマの眼前で伊織が左手をかざしたゴブリンスケルトンが消失した。
「よし! ゴブリンスケルトンの強化に成功した!」
「本当に合成しちゃった……」
ガッツポーズの伊織の傍らでアルマが目を丸くした。
刹那、我に返って騒ぎ出す。
「いやいやいや! なんで魔物が合成できちゃうんですか!」
「出来たぞ、見てただろ?」
「出来ませんよ! 普通はできませんから!」
「そうなのか?」
「そうです!」
アルマが知らないだけじゃないのか? と 泰然とする伊織に詰め寄る。
「あたしはこれでも魔法大学を首席で卒業しているんです! 合成魔法で魔物を強化できるなんて聞いたことありません!」
ここまでのアルマの言動を振り返ると、どのあたりが首席なのか疑問はあった。
しかし、伊織よりも知識が豊富なことは間違いない。
「念のため、祖母ちゃんに報告しておこう。もちろん、特殊な例としてな」
「そ、そうですね。これは報告すべき重大事件です」
「報告はするとして、合成を進めたいんだけど……」
「賛成です。実験は大切ですし、サンプルは多い方がいいです」
アルマのなかでゴブリンスケルトンの強化が実験とそのサンプルと化していた。
伊織は無反応のゴブリンスケルトンの前に立って再び合成を試みる。
「それじゃ、さらに合成して強化しよう」
合成魔法を使用すること数十分。
各種スケルトンの数は半数となっていた。
「こんなものだろう」
「合成魔法でどれくらい強化でたのか最終確認をしましょう!」
興味津々といった様子だ。
ここまの合成過程で何度か強化具合を確認してはいるのだが、それでも最終形態がどうなったか気になっていた。
「そうだな、俺も気になっていたところだ」
二人が鑑定をする。
ゴブリンスケルトン :力+5 知力+1 技+2 耐久+3 速度+4
コボルドスケルトン :力+2 知力+5 技+3 耐久+1 速度+1
オークスケルトン :力+6 知力+1 技+1 耐久+5 速度+1
「バラバラだな」
「元々の種族による違いでしょうか……?」
「サンプルが少ないから何とも言えないが、何はともあれ強化は成功だ。これで各階層主はこの三体に決定だな」
「そうですね……。でも、随分と減っちゃいましたよ。これじゃ、フル稼働しても足りないんじゃないですか?」
疑問形である必要はない。
明らかに足りなかった。
当初の数でさえフル稼働を余儀なくされていたのだから、半数となった現状ではなおさらである。
「足りない分は倍働けばすむことだ」
「それもそうですねー」
死霊相手とはいえ、ブラックなことをさらりと口にする伊織とそれをあっさりと受け入れるアルマ。
「各階層に配備し終えたら新たな魔物を調達に行くぞ」
「うゎぁ……」
アルマが頭を抱えてしゃが混んだ。
「どうした? 腹でも痛いのか」
「押さえているのは頭です」
「頭が痛いのか?」
「ええまあ、概ねその通りです」
各種スケルトンの素材を集めるのに繰り返した失敗や骨から肉を削ぎ落とす作業など、辛い過去を思いだしていた。
「じゃあ、頭痛薬を飲んだら出発だ」
「鬼ー!」
「そうだな、次はオーガスケルトンにするか」
伊織は嫌がるアルマの手を引いてオペレーションエリアへと転移した。
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