第5話 魔王からの贈り物
「大まかな機能説明はこんなところです」
「ありがとう」
「後継者様から感謝のお言葉を頂けるなんて、アルマは果報者です」
祈るように胸元で手を組んだアルマが瞳を輝かせて伊織を見詰めた。
「そう、それは良かった……」
(可愛い子に見詰められるのは悪い気はしないが、もう少し何とかならないものかな)
多機能ブレスレットの機能説明を受けた伊織だったが、正直なところ使いこなせるとは思えなかった。
追い追い憶えればいいか、と最低限の機能だけ頭にたたき込む。
「
多機能ブレスレットの説明を終えたアルマが聞いた。
しかし、移動中の馬車のなかで確認するればいいからと、伊織は積み荷の確認を先にしようと提案する。
「中断させていた積み荷の確認を先に済ませよう」
「分かりました」
アルマが操作パネルから積み荷のリストを呼びだした。
ずらりと並ぶ道具類。
「随分と多いな」
「半分くらい
「ん? マジックバッグまであるのか」
一瞬、伊織のなかに、多機能ブレスレットがあるのに何故だ? 疑問が浮かぶ。
しかし、直ぐにそれがカモフラージュ用の道具であることを察する。
それはアルマも同様であった。
「着替え、水と食料、調理道具、旅で使う細かな道具類はほぼ揃ってますね。武器と防具、狩猟用の道具に罠の類いまであります。マジックバッグあるのでこの世界にない多機能ブレスレットの機能――、
アルマは納得したようにそう言うと
「それは?」
「多機能ブレスレットの外部デバイスです」
様々な文明レベルの異世界に合わせて幾つもの外部デバイスが用意されていた。
彼女が選んだのは羊皮紙の外見をしたコントロールデバイスである。
(なんでもありだな)
関心して見ている伊織の眼前でアルマが多機能ブレスレットに軽く触れると彼女の腕からブレスレットが消えた。
多機能ブレスレットに備わった機能の一つ、「不可視機能」である。
「便利なもんだな」
「後継者様もやってみて下さい」
アルマに促され、彼女と同様に羊皮紙制の本を模したコントロールデバイスを取り出し、多機能ブレスレットを不可視にした。
「これでいいかな?」
「さすが後継者様です。飲み込みの速さに驚かされました!」
大仰に関心するアルマに「いや、そう言うのはいいから」と言って次はなにをすればいいか聞く。
「次は魔王様から後継者様へ向けられたメッセージの確認と後継者様の
(やることが多すぎる……)
「それは馬車のなかで確認するんじゃダメかな?」
「問題ありません。このまま草原にいるよりも移動しながらの方が効率もいいですしね」
伊織とアルマは街道に向けて馬車を進めることにした。
◇
草原を馬車が進む。
ド素人二人を乗せた馬車が街道に向かって草原を進んでいた。
「魔王様からのメッセージは表示できました?」
御者席に座ったアルマが隣に座る伊織が手にした本型のコントロールデバイスをのぞき込と、伊織が開かれたページの中程をさした。
「メッセージが三通あった」
そう言って、メッセージを開く。
一通目に書かれていたのは『街道沿いにあるファトノバ市を目指しなさい』だった。
「アルマ宛てのメッセージと同じだな」
「後継者様への愛情が感じられるメッセージです」
アルマ宛てのメッセージよりも文字数が多かった。
二通目に書かれていたのは『贅沢は敵だ!
「厳しいことが書いてあるぞ」
「そうですねー。ちょっと予想外です」
不安に駆られながら三通目を開くと、『ダンジョン創造に適したおすすめポイントです』とあり、そこには一つの座標が示されていた。
その座標を見たアルマが本型デバイスに地図を表示させる。
そこは四カ国の国境が複雑に入り交じった地域だった。
小競り合い、紛争、そんな単語が伊織の脳裏に浮かぶ。
「トラブルの香りしかしないんだが……」
「ちょっと待ってください。座標を中心に広範囲の地域が緩衝地帯となっているようです」
地図上では複雑に国境が入り交じっているが、実際は互いに牽制し合って緩衝地帯になっている、と補足の説明文をアルマが読み上げた。
「好条件に聞こえるな」
「無茶苦茶好条件ですよ。なんでこんな場所がいままで放置されていたのは分かりません」
アルマがさらにさらに調べるが、マイナス要素は出てこない。
本型デバイスを食い入るように見る。
「未開発ですが、ここ温泉がでます! ダンジョンに温泉を引きましょう! あ、水も上質な湧き水がありますよ。軟水ですよ、軟水! それに、森の浅いところには美味でしられる野鳥のコロニーまであります!」
次々とでてくるプラス要素にアルマがはしゃぎだした。
「じゃあ、そこをダンジョンとしよう」
「賛成です!」
伊織は次に
すると、期待に目を輝かせたアルマがのぞき込む。
「馬車、馬車の操作!」
「誰もいないから大丈夫ですよ。それよりもどんなアイテムを頂いたんですか?」
よそ見操車でアイテムリストを見せて欲しいとせがんだ。
甘やかすようなアイテムを持たせていると信じて疑っていないようである。
「二通目のメッセージを見ただろ? 最低限のアイテムだと思うぞ」
厳しい言葉が書かれていた二通目のメッセージを思い出しながらリストを開く。
伊織の知らないアイテムがずらりと並んでいた。
(そりゃそうだよな。日本の製品があるわけないよな……)
落胆しながらリストに視線を落とすと、隣からリストをのぞき込んでいたアルマが素っ頓狂な声を上げる。
「な、なんですか、これはー!」
「どうした?」
「な、ななな、なんで人工衛星が二十機もあるんですかー!」
「人工衛星?」
「これです、これ! 攻撃衛星が五機、監視衛星が十二機、探査衛星が三機もあるー!」
「地球でいうところの中世ヨーロッパ世界に赴任するのに人工衛星を二十機か……。もしかして、俺って甘やかされてる?」
「魔王様は後継者様のことをとても大切に思っているのは間違いありません」
衛星軌道上からの攻撃が可能な攻撃衛星、十二機の監視衛星によりこの惑星の全面が監視範囲となり、さらにマーキングした監視対象の位置を常に把握できる。
探査衛星は文字通り、惑星外の探査が可能だ。
「惑星外の探査なんてする必要あるのか?」
「分かりません、分かりませんが魔王様のなさることなのできっと意味があるはずです」
「魔剣の一本でも間違って入っていればと期待したが……、期待の遙か上だな」
「ちょっとこわいですけど、他のアイテムも確認しましょう」
全部のアイテムを確認した方が良さそうだと考えた伊織はアルマの助言に素直にうなずいた。
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