第42話 王城侵入
深夜の王都。
繁華街に灯りがわずかにともるだけで、町は静まりかえっていた。
それは王城も同様で警備のために必要な最低限の灯りだけがところどころに灯るだけである。
伊織とアルマが反重力システムを使って上空から王城の中庭へと降り立った。
「侵入成功」
「夜に空を飛ぶというのもいいものですねー」
「アルマは意外とロマンチストだな」
「意外ですか? これでも夢見る乙女ですよ」
「出世と金の夢を見る乙女だろ」
からかう伊織に「もういいです」とアルマが拗ねてみせた。
その反応に苦笑しながら伊織が言う。
「分かってはいたが随分とあっさり侵入できたな。これもアルマの助言のお陰だよ」
「魔法と科学技術の勝利です!」
拗ねたアルマがたちまち上機嫌になる。
上空からの侵入者を感知する魔法が施されていないことを事前に確認していたので、注意するのは兵士個々の気配察知の魔法や目視による発見だけだった。
気配察知の魔法対策は認識阻害の魔道具を使用。
目視への対策は光学迷彩フィールドを使用した。
「それじゃあ、このまま城内へ侵入するぞ」
見回りの兵士が俺の眼前を通り過ぎるなか、姿の見えないアルマに向けて通信を行う。
「兵士が目の前を通り過ぎるとさすがに緊張しますね」
「まったくだ」
伊織は姿の見えないアルマに向けて軽く笑うと、二人で城内へと侵入をした。
伊織は城内を歩きながらブック型デバイスに城内の見取り図を表示した。
この見取り図は事前に超音波や磁気によるサーチ結果と監視衛星からの画像を組み合わせてアルマが作成したものである。
「情報によると召喚された勇者の皆さんは西の館に個室を与えられているそうです」
これは王室御用達の商人からの情報である。
王室御用達の商人によると、勇者にも自由に出来るお金がある程度あり、それを使って彼らから様々な商品を買っていた。
「問題はどこに誰がいるかだが……、こんなことなら先に調べておくんだった」
「この際ですから反重力システムで空中浮遊して窓から確認しませんか?」
「グッドアイディアだ!」
城の中庭になんか下りずに最初から西の館の窓から確認すれば良かった、と伊織は後悔したがそれを口にすることはなかった。
西の館へと急ぎ移動した伊織は最上階である四階の隅から順次部屋の中を確認していく。
夜空にフワフワと浮かぶ男女が窓から室内を覗く。
第三者から見えていればこれほど不気味なことはないだろう。
しかし、魔法と科学技術のお陰で伊織とアルマが不審者となることはなかった。
「いた!」
幾つ目の部屋を覗いただろう。
伊織はついに目的の部屋を発見した。
気配遮断を解除して窓ガラスをそっと叩く。
何度目かで部屋の住人が気付いた。
窓を開けて外を確認する少年に伊織が軽い口調で挨拶をする。
「陽介、久しぶりだな」
「な!」
伊織は叫びそうになる様子の口を塞いでささやく。
「静かにしてくれ。他の生徒や兵士たちに気付かれたくない」
その言葉に陽介がコクコクとうなずくのを確認して、伊織は静かに手を放した。
「陽介、部屋の中に入っても大丈夫か? 盗聴をされたり監視されたりしてないだろうな?」
「大丈夫だ」
伊織に続いてアルマが窓から室内へと侵入した。
陽介が伊織に聞く。
「お前、どこに行っていたんだよ? いや、どうしてここにいるんだ? お前もこの国のヤツらに召喚されたのか?」
「俺は陽介たちとは別口で召喚された」
「隷属紋は?」
「隷属紋? 何だそれ?」
「これだ」
襟をめくって首筋にある五百円玉ほどの大きさの紋様を見せた。
「いや、ないぞ」
「後継者様、これは相手を隷属させる――、つまり奴隷のように言いなりにさせるために用いる契約魔法の一つです」
「奴隷だと!」
怒りを顕わにした伊織に陽介が言う。
「これのせいでどこまでしゃべれるか分からないが、話せることは何でも話すぜ」
「アルマ、この魔法を解除することはできないのか?」
「後継者様の呪縛魔法で解除できます」
隷属の魔法は伊織が持つ呪縛魔法の下位にあたるので、上位である伊織の魔法で解除することができるのだと言った。
それを聞いていた陽介が言う。
「本当か! 頼む、解除してくれ!」
「任せろ!」
そう言って伊織が手をかざすと陽介の首筋にあった紋様があっさりと消えた。
「それにしても酷いことをするな」
「俺たち勇者と呼んでいたが、狙いは俺たちが持つ強力な魔法やスキルを自分たちの道具として使いたいだけだぜ、こいつら」
怒りを顕わにする伊織に陽介も同調した。
「ところで、ここにまだ居ても大丈夫なら陽介たちの状況を教えてくれ。その後で俺の状況を教える」
「色々と気になるが……、俺のというか、召喚された二十三人のことを先に説明する」
陽介はそう言うと、自分たちが召喚されたときの状況とこちらの世界に来てからの扱いについて説明を始めた。
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