第12話 オペレーションエリア
古民家の濡れ縁に射し込む柔らかな陽の光が心地よい暖かさを生み出していた。
「気持ちいいですねー、ここ」
「だろ?」
幅の広い濡れ縁に寝転がるアルマと伊織が、まるで休日の昼過ぎのようなのどかな雰囲気を醸し出す。
「とてもダンジョンのなかとは思えないよなー」
「贅沢を言えば思い出したように吹くそよ風が欲しいところですー」
空間をゆがめて太陽光だけを取り込むだけでも度肝を抜かれた伊織が、そんなことが出来るのかとアルマに聞き返す。
「ダンジョンのなかだぞ?」
「ここはオペレーションエリアですよー」
正確にはダンジョン内に構築されたオペレーションルームのなかであるとアルマが寝言のような口調で指摘した。
そして、ダンジョン内と違ってオペレーションエリアでは超科学や別世界の魔法を使いまくっても、許されますから安心してくださいと独り言のようにつぶやく。
「ダンジョンとオペレーションエリアって何が違うんだ?」
「ダンジョンには人族や魔物が出入りできますが、オペレーションエリアには構築者に許可された者しか入れません」
この場合、自分と伊織だと付け加えた。
「つまり、ここにいれば絶対に安全ってことか?」
「アンジョンコアの魔力がある限り、ここで遊んで暮らせます」
「監視衛星を使えば、ここに居ながらにしてこの惑星を見て回れるってことだよな」
伊織のなかで異世界への興味が再び頭をもたげる。
「動かなくていいって最高ですよねー」
「いや、そこは最低限動こう。面白そうな国があったら行ってみたいじゃないか」
「ここは温泉がでるからそれで十分じゃないですかー」
学生気分の抜けない二人の耳に電子音が響く。
多機能ブレスレットにメッセージが届いたことを知らせる電子音である。
「後継者様、仕事を再開しましょう!」
飛び起きたアルマが忙しげに多機能ブレスレットを操作し、たったいま届いたメッセージを表示した。
少し遅れて、伊織もそれに倣う。
「祖母ちゃんからだ」
「魔王様からですね」
二人はそれぞれに届いたメッセージを開いた。
「お、おお! 仕事です! 後継者様、早速仕事に取りかかりましょう!」
「ダンジョンコアを設置しろって? ダンジョンはまだ一階しか造ってないけどどうするんだ?」
伊織宛の志乃のからメッセージには『オペレーションエリアの構築が終わったらダンジョンコアを設定しなさい。詳しくは手引書と秘書に確認すればいいから』とだけ書かれていた。
「ダンジョンに設置するのはダミーのコアなのでいまは考えなくても大丈夫です」
「じゃあ、どこにこれを置くんだ?」
伊織が
「魔力収集装置をお持ちでしたよね?」
「
「まずはそちらを設置しましょう」
古民家の一室――、十二畳の和室に近未来的な魔力収集装置を設置した。
和室の一面を三十基の魔力収集装置が並ぶ。
「三十基……」
「一基に一つずつ設置すればいいのか」
並ぶ魔力収集装置を呆然と眺めるアルマをよそに伊織が淡々とダンジョンコアをセットしていく。
「な、ななんで! 何でこんな数の魔力収集装置があるんですかー!」
通常、一つのダンジョンに設置される魔力収集装置は三つ。
一つは予備なのでダンジョンコアが設置されるのは二基である。
そのことを研修で学んでいたアルマが驚きの声を上げた。
「祖母ちゃんが持たせてくれたアイテムの中に入っていたぞ」
驚くアルマをよそに三十基の魔力収集装置全てにダンジョンコアをセットし終えた。
「これでミッションクリアだな」
「予備がないー!」
「騒がしいな、どうしたんだ?」
混乱するアルマにのんきな口調で伊織が聞いた。
「あのですねー」
アルマが研修で学んだ魔力収集装置の台数とダンジョンコアについて語った。
伊織にアルマの混乱は伝わらない。
泰然とする伊織にアルマが懇願する。
「魔王様に確認をお願いします。魔力収集装置の台数とダンジョンコアの個数がおかしいことを直ぐに確認してください」
「アルマがそう言うなら確認するけど、台数や個数が多くて何が問題なんだ?」
荷物が増えて部屋が圧迫されるくらいだろ、と溢す。
部屋が圧迫されるのも、オペレーションエリアの拡張と家屋の増築で解決できた。
「もしかして、魔力収集装置の予備がないことが不安なのか?」
故障率が高いのだろうかと首を傾げる。
「違います! 魔力収集装置はとても高額ですし、ダンジョンコアも希少性の高いものです。普通はダンジョンの実績や規模に応じて一、二基増設される程度です」
話が見えずに首を傾げる伊織に向かってアルマがなおも言う。
「つまりですね、魔力収集装置とダンジョンコアが多いってことはそれだけの魔力を集めることを求められているってことなんです」
「他のダンジョンマスターよりも働けってことか?」
「それを確認してください」
何かの手違いだとは思うますが、とアルマが祈るように独り言を口にした。
「まさか、いきなり何倍も働け何てことはないだろ……?」
そうは口にしたが、伊織のなかで『全員ぶちのめして、自分が後継者だと示してご覧なさい』という志乃の言葉が蘇っていた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
あとがき
■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有
面白い
続きが気になる
もう少し頑張れ
と思いましたら、ブックマークや〝☆☆☆〟を〝★★★〟に変えての応援をよろしく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます