第31話 ダンジョンコア
「後継者様と魔王様の会談に同席するなど恐れ多いです。あたしは席を外させてください」
アルマの泣き言を一言で却下する。
「情報共有が二度手間になるだろ」
「ではこうしましょう! 音声だけしっかりと聞きます。リアルタイムで聞きますからー。どうか、同席だけは許してくださいー」
最後は泣き落としにかかった。
そんななか、軽やかな電子音が鳴りメインモニターに志乃のバストショットが映し出される。
刹那、涙を拭き取り伊織の隣に直立不動で立っていた。
「ハーイ、伊織。お祖母ちゃんよー」
「ハーイ、祖母ちゃん」
「もっと頻繁に連絡を頂戴。お祖母ちゃん寂しいじゃないの」
「ごめん、不慣れなことでなかなか連絡出来なくて」
「何か困ったことはない?」
いつでも相談していいのよ、と志乃が微笑む。
そのやり取りを伊織の横で聞いていたアルマは、見てはいけないものを見た気が、聞いてはいけないものを聞いた気がしていた。
「困ったことというか、確認したいことがあるんだ」
伊織は志乃から贈られた三十基の魔力収集装置とそこに設置されているダンジョンコアのうち、二十個のダンジョンコアが満タン状態になったことを告げた。
どう考えても腑に落ちない、と付け加えた。
「二十個が満タン……」
考え込むような志乃に伊織が言う。
「祖母ちゃんから貰った手引書には一ヶ月で一、二個のダンジョンコアが満タンになるのが普通ってあっただろう?」
「そうね。一、二個というのは最低ラインではあるわね」
「最低? 多いとどれくらいなの?」
「多くても四つといったところかしら」
「貰った魔力収集装置かダンジョンコアに初期不良があったんじゃないかな?」
横にいたアルマが表情を硬くした。
魔王である志乃から直接贈られた備品の初期不良を疑うなど、恐れ多いことだった。
まして、初期不良の問い合わせを志乃本人にするなど、彼女の常識では考えられないことである。
「初期不良が二十基もあるなんてこと、あるわけないでしょう」
「でも実際に」
「それは正常よ。予定では二十四、五個のダンジョンコアが満タンになっていると思ったのだけど……。ちょっとペースが悪いわね」
「はあ!」
驚きの声を上げたのアルマだった。
志乃がモニター越しにアルマを見ると、再び背筋を伸ばして謝罪をする。
「失礼いたしました」
「別に構わない」
「あの、通常のダンジョンでも一ヶ月に四つのダンジョンコアを満タンにするのが限界とのことですが、後継者様のダンジョンでは既に二十個が満タンとなっています。これでペースが悪いとおっしゃられたことで驚きました」
アルマが息つく間もなく一息に告げた。
伊織の隣でうなずく。
「祖母ちゃん、もしかして何か隠し事をしている?」
「別に隠し事はしていないわよ。ただ、伝えていなかったことは一つ二つあるかしら」
伊織の言葉に口元を綻ばせてとぼける。
「祖母ちゃん……」
「伊織の魔力量が尋常じゃないことは伝えたわよね?」
伊織の責めるような視線に負けて、志乃が話し出す。
「魔力量? ああ、1億あったやつね」
「な! なんですってー!」
急に叫び声を上げたと思うと、伊織を見詰めたまま口をパクパクとさせている。
何か叫びたいようだが声になっていない。
アルマの反応など気にもとめずに志乃が説明を続ける。
「魔力量は生まれ持った才能よ。一般的には1万あれば優秀とされているわ。因みに私ですら100万しかないの」
「そんな説明を受けた気がする」
志乃は自身の魔力を「100万しかない」と言ったが、数多の異世界の出入り口となっているターミナルの住人のなかでも三番目の魔力量の持ち主である。
「因みに、隣で呆けている秘書の魔力は1000万よ」
「へー」
「ターミナルに登録されている住民のなかで彼女の二番目に魔力の多いわ。因みに、一番は伊織よ」
「俺とアルマがあの世界で一番と二番の魔力量だと言うことは分かった。それと今回のダンジョンコアが満タンになった件はどう関連付くんだ?」
伊織が独り言のように自問した。
「ダンジョンコアはダンジョン内で消費された魔力からその一部を吸い上げるんだけど、魔力は特に使わなくても微々たる量が自然と漏れるものなのよ。その自然に漏れる量が伊織とアルマ・ファティは膨大だということね」
故障ではないかと疑うほどの数のダンジョンコアが満タンになるという異常事態。
その原因が自分とアルマの魔力量だということは理解した。
伊織が恐る恐る聞く。
「どれくらい膨大なの……?」
「単純に一万倍?」
「もしかして、俺とアルマがダンジョンで普通に生活しているだけでダンジョンコアが次々と満タンになる……?」
「計算で二十五個くらいは満タンになるはずだったんだけどね」
茶目っ気たっぷりに微笑む志乃。
「聞いてないんだけど」
「言ったでしょう、才能がある、って。それに優秀な秘書を付けるって」
確かにどちらも聞いた記憶はある。
呆然とする伊織に志乃が勝ち誇ったように言う。
「二人がダンジョンで生活していればそれだけで成績はぶっちぎりでトップよ。自称後継者どもをねじ伏せましょう」
「最初から勝算があったんだ……」
「当たり前じゃないの。あたしは勝算のない戦いはしない主義なの」
ご立派です、と伊織が心のなかでつぶやいた。
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