第30話 不死の迷宮
ダンジョンを解放してから一月余が経過した。
階層も二十階層まで拡充され、各階層に腐臭のしない衛生的な死霊系、アンデッド系の魔物が配置されている。
ダンジョンの存在も周囲に知れ渡り、訪れる冒険者の数も日に日に増えていった。
近隣のダンジョンに比べても訪れる冒険者たちの数は多い。
現在、冒険者たちによって攻略された階層は第六階層まで。
第七回層以降は未踏の階層である。
伊織がダンジョンマスターを務めるダンジョンは、この世界の冒険者たちから『不死の迷宮』と呼ばれるようになっていた。
理由は出現する魔物がアンデッド系であることが理由ではない。
この迷宮では未だ死者が出ていないからである。
「後継者様、また無茶なことをしているパーティーがいますよー」
オペレーションエリアにアルマの声が響いた。
ダンジョン内の監視をしていた彼女が、いまにも死にそうなパーティーの映像を伊織の眼前にあるモニターへ転送する。
「ろくな装備もなしにオークスケルトンに挑むとか、バカじゃないのか?」
「バカが増殖中です」
アルマが別の画面をメインモニターに表示した。
そこには果敢にリビングアーマーに挑む冒険者が映し出されている。
鎧袖一触。
リビングアーマーの繰り出す攻撃で次々と行動不能になっていく冒険者たちがいた。
「あ、全滅しちゃいました」
致命傷を受けた瞬間、自動的治癒魔法が発動して一命を取り留めるシステムになっている。
「あっという間に五人が戦闘不能か……」
もう少し粘ってダンジョン内で魔力を消費して欲しいと思うが、それ以上に無茶なことはやめて欲しいと願う。
「五秒後に転送されます」
伊織の運営するダンジョンでは、行動不能になったパーティーや大怪我を負った者たちは、死亡する前に近隣の神殿へと強制転移されるシステムを導入していた。
突然怪我人を送りつけられる神殿側は堪ったものではない。
しかし、このシステムのお陰で伊織の運営するダンジョンの人気は一気に高まった。
「転送を確認しました」
「無謀な連中が日に日に増えてないか?」
人気ダンジョンとなり訪れる冒険者が増えればダンジョン内で消費される魔力は増え、ダンジョンコアへの魔力の蓄えが増す。
ダンジョンコアの魔力はそのままダンジョンマスターの評価となる。
しかし、無謀な連中が増えれば転送回数も増える。
転送はダンジョンコアの魔力を消費して行われる。
長期滞在せずに短時間で転送されるような冒険者は伊織たちにとって魅力は低かった。
「死者をださないように、との配慮が
「それはありそうだよな」
「放置しておくともっと増えると思います」
無謀な冒険者が増えても赤字にはならないが、対策を講じた方が良いとの結論に達した。
「よし、バカは排除の方向で考えよう」
「さすが後継者様です! 何か妙案があるんですか?」
「案なんて何もない。これから考えるぞ」
「何となくそんな予感はしていました」
アルマがげんなりした顔で応じる。
「その前に、ダンジョンコアのことで確認したいんだが?」
「なんでしょうか?」
伊織の突然の言葉にアルマが不思議そうに答えた。
「取り敢えず、ダンジョンコアのある部屋まで行こうか」
二人はダンジョンコアが設置されている別室へ移動する。
そこには魔力収集装置とその装置に設置されたダンジョンコアが三十基並んでいた。
「いつ見ても壮観ですねー」
本来、ダンジョンに設置される魔力収集装置とダンジョンコアは二、三基である。
しかも、そのうち一基は予備とするのがあたり前だった。
それにも関わらず三十基の魔力収集装置とダンジョンコアがフル稼働している。
二人とも初めてのダンジョンでもあり、毎日のように眺めていたので慣れてしまっていたが、伊織は眼前の不自然さに改めて言及した。
「なあ、魔力収集装置に設置されているダンジョンコアってどれくらいで満タンになると思う?」
「えーと……。確か、一ヶ月でしたね」
伊織の質問にアルマが多機能ブレスレットで手引書を呼び出して答えた。
「そうだ、一ヶ月で一つか二つのダンジョンコアが満タンになる程度だ」
ところが、と伊織が三十基の魔力収集装置に設置されたダンジョンコアを示して話を続ける。
「一ヶ月余で二十個以上のダンジョンコアが満タンになっている」
「あれ……?」
「不思議だよな」
気付かなかったことについては突っ込まなかった。
伊織自身も今朝ほど気付いたので下手に突っ込んでも墓穴を掘ることになると考えたからである。
「故障でしょうか?」
故障すればシステムがアラームを発して異常を知らせる。
そもそも、二十基もの魔力収集装置とダンジョンコアが同時に故障するとは考えにくかった。
「祖母ちゃんに確認しようと思う」
「いまからですか?」
「いまからだ」
「一人で?」
「一緒にだ」
「ここはダンジョンマスターである後継者様がお一人で確認すべきかと」
機器が故障しているかも知れないなどと、社長である志乃に直接問い合わせるなどアルマにはハードルが高すぎた。
それ以前に、故障の問い合わせは別部署である。
「魔王様に直接問い合わせるのでなかったら同席します。いいえ、私が問い合わせても良いです。ですが、魔王様と直接お話されるのでしたらあたし抜きでお願いしますー」
「あとで情報共有するなんて非効率なことはしたくない。一緒に聞けば時間の節約になるだろ」
アルマにとっては時間の節約などどうでも良かった。
「それでは、あたしが備品管理センターに連絡をして、後継者様が魔王様へ連絡をいれる。これを同時にやりましょう」
「却下だ」
伊織はそう言うと、多機能ブレスレットを操作して志乃へとコンタクトを図った。
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